【連載小説】第40話 崩れた夜

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『もしもし……美涙ですが』

その声は、次第に変わっていった。

『……え?まさか……』

受話器を持つ手が、わずかに震える。

『分かりました。すぐ行きます』

電話を切った瞬間、
その場の空気が一変した。

『どうしたの?』

『……ママが倒れたの』

一瞬、誰も言葉を失った。

『今、病院に運ばれてるって。
店長が呼んでるの』

『倒れたって……ただ事じゃないわね』

『自宅のお風呂みたい』

その一言で、
不吉なものが胸をよぎる。

私たちは、急いで店を出た。

夜の街を切り裂くように、
タクシーが走る。

そして辿り着いたママの家。

『静かに』

店長は小さく言った。

『今、やっと寝たところだ』

いつもの威圧感はなく、
どこか疲れきった顔だった。

『命に別状はないらしいが……
状態はよくない』

その言葉の重さに、
誰も軽く頷けなかった。

『……病気じゃない』

その一言で、
空気が凍りつく。

『風呂場でな……』

それ以上の説明はいらなかった。

頭の中に、光景が浮かぶ。

血の色。

流れる水音。

返らない声。

『どうして……』

誰かが小さく呟いた。

『最近、かなり痩せてたからな……』

店長の言葉は、それだけだった。

あの時の笑顔。

あの時の言葉。

すべてが、嘘のように思えた。

『悪いが……ここは頼めるか』

店長はそう言って、
静かにその場を離れた。

残されたのは、
重たい沈黙だった。

『ママ……』

誰もが、同じことを思っていた。

強く見えた人が、
一番脆かったのかもしれない。

『お店、どうなるんでしょうね……』

ぽつりと誰かが言う。

『大丈夫よ』

美涙が静かに答えた。

『今までだって、みんなでやってきたじゃない』

その声は落ち着いていた。

けれど——

どこか遠くを見ていた。

夜は、まだ終わっていなかった。
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