【連載小説】第23話 危うい恋の入口

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あの夜から、
萌の世界は変わってしまった。

ネオンの下で出会った拓海の顔が何度も何度も浮かんでくる。
思い出すたびに、
胸の奥がふわりと熱くなる。
それが恋だと、
萌はまだ大人になりきれなかった。

深夜の帰宅は始めてだったので家のドアを開けるのに多少の抵抗があったが
今の萌には何もかもがバラ色に見えて夢を見ているような陶酔状態だった。

『ただいま』
といつもと同じように居間に入ったとたんその夢から現実に引き戻されたように雅子と恒さんが鬼のような形相で待っていた。
それから小一時間正座でみっちり叱られて自分の部屋に戻った時は
もう母親の言葉も恒さんの泣き声も消えていた。
明日になったら電話してみようともう一度、電話番号が書いてあるメモ用紙を見つめた。
そこには数字が書いてあるだけなのに宝物のように思えて仕方がなかった。

次の日。。。
何度も電話番号を見て
かけようとして、やめる。
また見つめる。
胸の鼓動がやけにうるさい。
そしてついに指が動いた。
呼び出し音が1回、2回。
その時だった。
『昨日の萌ちゃんだね』
その声を聞いた瞬間、
萌の心臓は跳ね上がった。
『は、はいそうです。昨日はありがとうございました』
『嬉しいなぁ、まさか電話もえるなんて期待してなかったから』
『お礼が言いたくて』
萌は緊張して思うように喋ることが出来なかった。
『今日は時間あるの?』
『今日ですか?』
『そう、今日』
『今日は表に出られないというか、昨日叱られちゃって』
『そう、だめかぁ、今日さ、俺の誕生日でみんなで祝ってくれるって感じなんだけど』
『えっ、今日お誕生日なの?おめでとうございます。私も参加したいなぁ』
『じゃ来いよ。渋谷の『J』っていうライブハウスなんだけど夕方からそこ貸切にしてるからさ』
『知ってます。以前一度ライブ見に行ったことあったから』
『俺は萌ちゃんが来てくれたら最高の誕生日プレゼントなんだけどなぁ』
『じゃ行きます!8時頃で大丈夫ですか?』
『おお!そうこなくちゃ、待ってるから』
『じゃ』

拓海に会える!萌は嬉しくて飛び上がりそうになった。
パーティって何を着たらいいのかな?
クローゼットには
着たこともない服がいくつも並んでいた。
母が買い与えたものばかりだった。
萌はその中から
純白のミニワンピースを選んだ。
理由はわからない。
ただ、
拓海に見てほしいと思った。

今夜も母親は仕事でいないし恒さんは早く自分の部屋へ行ってしまうので
そっと出てしまえば分からないだろう。
母親の部屋へこっそり入って
所狭しと並んでいる化粧品を慣れた手つきで
お化粧もしてみた。
一人の時間が多くある萌にとって
母親の化粧品はいつしか遊び道具のひとつになっていた。
鏡の中の萌は化粧をしたせいか
すこし大人びた雰囲気で高校生には見えなかった。
それどころか瞳をキラキラさせている恋する乙女そのもので
笑顔が輝いていた。

道玄坂の裏通り。
地下へと降りる階段の奥に
ライブハウス『J』があった。
薄暗い店内には
熱気と音楽の残り香が漂っている。
椅子は無造作に並び
まるで今までの夜を
すべて知っているかのようだった。

そして今日は貸し切りということでかなりの人が集まっていた。
セレブな雰囲気に今日の主人公がただ者ではないことが窺える。
でもそんなことを気づくのには幼な過ぎた萌は、
ただただ拓海に会いたいだけだった。

『あのー拓海さんにお招きされて来たのですが』
『えーとお名前は?』
『はい、高梨萌と言います』
『高梨?萌?ないなぁー困ったな』
萌はここに来たのを後悔し始めた。
とその時、いきなり後から優しい声がした。
『やあ、萌ちゃん来てくれたんだね。嬉しいなぁ』
『あっ、今晩は。来ちゃいました』
『そう信じていたよ。さあ入って、名前なかったでしょ。
そう君は僕の特別なゲストだからみんなには内緒にしたかったけど
ここに来たからにはもうばれちゃうよな』
『私、、、拓海さんのこと何も知らないのに来てしまってよかったの?』
『僕が招待したんだぜ、今日は何の日だっけ?』
『あっ、お誕生日おめでとうございます』

花束を渡そうとした瞬間だった。
拓海の逞しい腕が萌の体を引き寄せた。
突然のことに息が止まる。

『ありがとう』
耳元でささやかれた声と
熱い吐息。
萌の足から
力が抜けた。

まるで世界が
ぐらりと揺れたようだった。
萌は驚きと嬉しい衝撃で立っていることが出来ないほどだった。
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