銀座は甘い香りのする檻だ。
守られている限り、薔薇は咲き続けられる。
だが、外の風を知ってしまった女はやがて檻を狭いと感じ始める。
雅子は最近その息苦しさを覚え始めていた。
ある日、いつもの美容院で一冊の週刊誌の見出しの文字がいきなり目に飛び込んだ。
『銀座を貪る女達!』
その文字に、雅子の指が止まった。
ページをめくるたびに煌びやかな豪邸と宝石。
それは羨望ではなく焦りだった。
もう二度と
貧しさに怯える少女には戻らない。
雅子の中の何かが、はっきりと形を持った。
それから半年経ったある日、
銀座の中でも5本指に入る超有名店の『ゴールド』という店から
雅子に引き抜きの話が舞い込んだ。
この店のオーナーは関西出身でその店内はゴージャスを極め
広さは80坪以上の大箱だった。
そして何より有名なのはその飲食代で
毎夜高級ワインやシャンパンがどのテーブルでも競うように並んでいた。
中には一本百万はすると言われているワインを
まだあどけない新人の誕生日だというだけで担当のお姉さんがおねだりする。
まさに銀座のジャングルそのものだった。
雅子はこの『ゴールド』というお店に魅力を感じた。
上を目指すにはまずはこのお店だと直感で感じたからであった。
その日はひっきりなしにお客様がいらして
由香里ママは上機嫌だった。
そして深夜、由香里ママと最後まで残った雅子の二人になった。
『雅子ちゃんお疲れ様。どこか食事でもしていかない?』
『あの、ママにご相談があるのですが、、、』
『雅子ちゃん何?どうかしたの?』
『それが言いにくいのですが私、、、』
『まさか!辞めたいって言うの?』
ママの声が一段と低くなって
店内のシャンデリアが、やけに冷たく光っていた。
『はい、、、』
雅子はそう言いながら視線を逸らさなかった。
恩義も感謝もある。
だがそれ以上に
自分の人生が欲しかった。
『あなたには随分かけてきたと思うけど』
『それでも、他のお店へ行きたいんです』
沈黙、、、
『もう決めたのね。それじゃ今までのお客さんの名刺全部返してよ』
『えっ?名刺全部ですか?』
『そう全部明日持ってきて』
その言葉は、別れの宣告だった。
名刺を返せと言われた瞬間、
雅子は一瞬だけ目を伏せた。
銀座はそう甘くない。
想定内の事態に
雅子はすでに次の一手を打っていた。
薔薇は棘を隠したまま
静かに檻を出る。