三上は血液型と聞いて雷に撃たれような衝撃を感じた。
雅子は小さい頃から稽古とお座敷の生活だったためなのか
世間のことに疎いところがあるのを薄々感じてはいたが
血液型で親子関係が特定される場合があることを知らなかったのか、
これは自分でも気が付かなかった落とし穴だった。
『血液型?雅子と萌の血液型は?』
『それが萌も私も珍しいAB型だから輸血できたの、そうじゃなかったらどうなっていたか想像するだけで恐ろしいわ』
『もし櫻木がO型なら、、、』
三上の声が低くなった。
『その時点で、終わりだ』
三上は櫻木の行動を推測した。
そうなれば櫻木は必ず動く。
あの男は、感情よりも先に
対策を取る。
そして手術は5時間もの時間を要したがそのかいあって萌は無事生還した。
傷痕も奇跡的に最小限に留まり大人になる頃には殆どわからなくなるということだった。
雅子は萌の命が助かっただけでよかった。
櫻木の態度は気になってはいたが今は萌の事で頭が一杯だった。
それから1ヵ月後、
萌は退院することになりその間一度も顔を出さなかった櫻木に
一応知らせをと恐る恐る電話をした。
『もしもしあの高梨ですが櫻木さんはご在宅でしょうか?』
『残念ながら留守ですが』
『そうですか、それでは櫻木さんに電話が欲しいとお伝えくださいね』
『はい、お伝えいたします』
と秘書は抑揚のない氷のような声で答えた。
やはり何かがおかしい。
秘書の猪野さんはどちらかというと温和なタイプで
以前に優しく声をかけれたこともあった。
雅子は言いようもない不安が押し寄せた。
もしかしたらもう何もかも手遅れなのかもしれない。
それから数日後
来客を知らせるチャイムが鳴った。
『はい』
『わたくし中央法律事務所、弁護士の宇木と申しますが
高梨さんですか?』
『えっ?はいそうですが、中央法律事務所?何でしょうか?』
『はい、櫻木さんの顧問弁護士としてお話させていただきたいのですが』
『櫻木さんの顧問弁護士?』
雅子はいやな予感がして急に鳥肌がたち寒気を感じた。
『どうぞ、お入りください』
と雅子は中肉中背で眼鏡をかけていていやに印象の薄い
宇木という弁護士を居間へと案内した。
『先ほども言いましたがわたしくし宇木といいます』
と名刺を出した。
『はあ、それでご用件は何でしょうか?』
『単刀直入にいいまして
この家から出ていくように裁判所から退去命令が出されました。
2ヶ月の猶予期間を設けましたので今から2ヶ月以内にこの家から
出て行っていただけませんか!』
『そんな急に!どうして出ていかなければいけないのですか?
ここは櫻木さんの持ち物かもしれませんが櫻木さんがずっと住んでいいって
言われてますよ』
『ここに入居されてから家賃をお支払になりましたか?』
『いいえ、だって櫻木さんが』
『その櫻木さんから家賃不払いによりという事由で退去命令が出たのです』
『そんな、ばかな』
『わたくしは単に裁判所からの命令をお伝えしに来ただけですから
高梨さんが何をどう言われましても法律上、あなたに権利はありません』
『そんな、そんな、、、』
『それでは2ヶ月という期間をお忘れなく。
転居が決まりましたら事務所のほうへご連絡お待ちしてます。それでは』
とは宇木は逃げるように帰った。
この家は、もう雅子の居場所ではなかった。
萌の小さな寝息だけが、やけに静かに響いていた。