【連載小説】第9話 運命の取引

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『どうしたんだ。泣いてちゃ分かんないよ。女将さんに叱られたのか?』
『いいえ、そうじゃないの。もしかしたらだけど妊娠したかもしれないの』
雅子は不安と恐怖の末に三上に助けを求めた。
『医者には行ったのか?』
『ううん、怖くて行ってないの』
『そうかぁ、まずは薬屋へ行って妊娠検査薬があるから
それで試したら分かるからすぐにでも買いに行きなさい』
『そんな薬があるの、知らなかったわ。
でも私どうしよう。妊娠なんかしたら
おかあさんに叱られるどころじゃないわ』
『良く聞くんだ、まずは検査薬で検査するんだ。
それで結果を教えてくれ。どっちにしても会って話そうな。
今日の夕方会えないか?休みだろ、少しの時間なら作れるだろ』
『わかったわ、これから薬屋に行ってみる。
近所じゃまずいから隣町まで行かないといけないわね。
じゃ夕方6時にこの前の喫茶店で待ってる』

雅子は気がついていた。
検査をするまでもなく妊娠したのは間違いないと確信していた。
それは同時に三上の子を宿したということになる。
だが三上は結婚しているから生むわけにはいかないのだろう。
この先どうなってしまうのか
雅子は目に見えない沼に沈んでいくようだった。

その数時間後。
待ち合わせの喫茶店は街の外れの細い路地の入口にあり
レトロ風の落ち着いた雰囲気の店だった。
『三上さんやはり私、妊娠してたの。
検査薬で試したら妊娠してるというサインが出てしまったのよ。どうしよう』
と止めどもなく流れる涙をハンカチでそっと押さえた。

それは喜びではなく、逃げ場を失った確信だった。

『そうか、俺に任せてくれるか?』
『何を?何を考えているの?』
『まず妊娠は間違いないみたいだな。
この先の話を誤解しないで聞いてくれ、
俺は前にも言ったとおり結婚してるんだ。
うちのやつは俺の先生の遠縁で
先生から直々の紹介で見合い結婚したって訳だ。
それでまだ内密の話だけど先生の後継者として
俺もいつか政治家としての活躍を期待されてて
それだけなら自分の夢や野望を捨てれば済むのかもしれないけど
実はうちのやつが長い間、入退院を繰り返してあまりいい状態じゃないんだ』
『奥様ご病気なの?』
『ああ、結婚した当初は健康そのものだったんだが
結婚して3年目くらいの時に子宮外妊娠で
緊急手術をして命はなんとか助かったのだけど
もう妊娠できない体になってしまった。
そしてそれが原因で心を病んでしまったんだ』
と三上は辛そうな顔を抑えることが出来なくなった。
『それで俺も子供は諦めていたんだ。
でも雅子、この子は俺の子供だろ。
顔をみたいさ、この手で我が子を抱いてみたい。
でも雅子とは結婚できないんだ。
病気のやつを見捨てる訳にはいかないからな』
『ああ、三上さん私どうすればいいの』
『雅子も俺もこの赤ん坊も助かる方法が一つだけあるとしたら?』
と三上は声を落として雅子の顔を覗き込んだ。
『えっ、そんな方法があるの?
女将さんに正直に話して生んで育てるって訳にはいかないのかしら?』
『ちょっと待ってくれ、女将さんにはまだ黙っていたほうがいいよ。
それでこの話はひとつの案だけど有名な金持ちの独身で
櫻木という人知ってるだろ』
『ええ、お名前だけは聞いたことがあるわ。すごく気難しいお客様だけど大金持ちだという噂ね』
『そうか、名前は知ってる程度なのか』
『三上さん何を考えているの?』
『だから雅子と俺とこの赤ん坊が生き抜くための方法さ』
『まさか、私、櫻木さんと付き合えってことなの?
それで櫻木さんの子供というこにしようという事なの?』
『まあそのまさかで、それがうまくいったらみんなが助かるじゃないか。
でも一度や二度は我慢してもらわないといけないけどな』
『それ本気なの。私が他の男性と関係してもいいの?』
『他に方法ないだろ。じゃこの赤ん坊を諦めるのか?
それならそれでいいさ、でも雅子も言ってたよな。
この世界から脱出するのはどうしたらいいのだろうって。
考えてみろよ、あんな金持ちなんだからどこか家の一軒もあるだろうし
あの年齢だからそんなに執着しないだろ。
それからあの女将さんだぜ。
櫻木の赤ちゃんが出来ましたなんて言ったら
小躍りして喜ぶさ、金儲けできるってさ。
それで女将さんが欲のためにうまく仕切ってくれると思うんだ』
『私、三上さんが分からなくなったわ。
なんか子供の責任を櫻木さんに押し付けるみたいで申し訳ないって思わない?』
『そんな甘いことを言ってたら世の中うまく渡れないよ。
この赤ん坊のためにもお金持ちのお父さんのほうが都合がいいのじゃないか』
『そんなことできない』
また涙が止まらなくなった。
そっと肩に触れた三上の手の温もりを感じた。
『そう泣くなよ。この妊娠を利用して自由を手に入れると考えられないか?』
その言葉は甘い蜜のようでいて、どこか鉄の味がした。
『よく考えてみる。今日はもう帰る』
『くれぐれも女将さんに気づかれないようにしないと』
『わかった。また連絡するわ』
と雅子は三上の表情から真実を探して一瞬凝視した。
だがその三上の瞳は、あの日雅子が見とれた「澄んだ瞳」ではなかった。

三上がいう自由という言葉が耳から離れずにいた。
そうかこの四面楚歌の状態を脱出する方法があったのだ。
でもそんなことが実際うまくいくとも考えられなかった。
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