【連載小説】第8話 秘密の逢瀬

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三上と再会してから事あるごとにお座敷に呼ばれるようになった。
それは誰がそうしてくれているのか命じられるままの雅子にとって
不思議な気がしたが秘かに三上と会える喜びを感じた。

ある晩いつものように三上のお座敷に数人のお姉さん達と行った時
偶然にも三上の隣りに座ることになった。

三上はお酒の量が増してもけして崩れることがなく
隙のない態度でいつも口数が少なかった。
先生方はお姉さん達とお座敷遊びに夢中で
昼間では絶対見せないような少年の顔になっていた。

『三上さんは独身なの?』と雅子は恐る恐る聞いた。
三上は宇宙のように遠い世界の人のように思えたが
沸々と沸く恋心に抗いようもなく
もしもという淡い希望にかけたくなった。
『いや』
その一言は、雅子の胸の奥に静かに沈んだ。
三上はもうこの話しには触れてくれるなという目をしていた。
しかもその目の奥のほうに微かな黒い影が見えたようで
もしかしたらあまり幸せな結婚生活ではないのかもしれないと思った。

『ところで休みは何してるの?』
と三上は話題を変えるように唐突に聞いてきた。
『お休みはおかあさんと買い物とかいろいろです』
『今週の日曜日は?』
『えっ?今週ですか?いえ何も予定はないですけど』
『例えば俺と会うなんてこと可能なのかな?』
『それは、、、』
というのも女将さんに24時間、管理されているので
プライベートは無いのに等しかった。
『やっぱり無理なのかな?』
と三上は尚に聞いてきた。
『今までお客さんとお座敷以外でお会いしたことないし
おかあさんが何ていうのか想像もできないです』
『そう、やっぱりこの世界の人には自由がないんだよね』
『でも私、、、』
『でも何?』
『三上さんと何処か行ってみたい』
『えっ?本当に?』
『ええ、だって憧れの人だから』
と雅子はそんなことをいう自分に驚いた。
『嬉しいよ、じゃ作戦立てようか!女将さんに分からないで会う方法をさ』
『そんなこと出来るかしら?』
と思わず三上の膝に手を置くとその手をそっと握り返してきた。
それからの話題はどうしたら女将さんを撒けるのか
時間を忘れるくらい熱心に話し合った。
そして気づくとお座敷はお開きになり
先生方は帰り支度を始めた。
『これ俺の電話番号だから』
と三上はメモをそっと渡した。

それから数日後の日曜日。
雅子は実家のお墓参りに行くということで
外出を認めてもらった。

『やあ、本当に来てくれたんだね』
『ええ、こんなこと初めてだから分かってしまうようで怖かったけど
何とか誤魔化したの』
『今日は映画もいいしお芝居でも何でも好きな所へご案内しますよ』
『やだ三上さん旅行会社の添乗員さんみたい』
と雅子は三上と会えて嬉しかった。
いつも着物姿の雅子だったが
今日は初めてのデートでお洒落をしたかったのに
お墓参りに行くと嘘をついたので
地味な服を着るしか方法がなく、残念な気持ちで仕方がなかった。
三上のほうはカジュアルな服装で
いつものスーツ姿よりも何歳か若く見えた。

自由がない身の束の間の時間。
映画の時間も、食事の約束も、いつの間にか
意味を失っていた。
そして気づけば雅子は、
三上の腕の中で、知らない自分になっていた。
それは雅子にとって、
ただ身を委ねた「初めて」ではなかった。
誰かの人生に足を踏み入れた、
初めての瞬間だった。

この一日が雅子の運命を決定させた。

『もしもし三上さん、大変なことになったの』
と雅子は消え入りそうな声で電話をしてきた。
『えっ?どうしたんだ、何かあったのか?』
あの日の「初めて」は祝福ではなく、始まりだった。
『実は私、、、』
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