スーパーゼネコン役員から「どうやったんですか?」と聞かれた採用改革の中身

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あるとき、社長と役員がスーパーゼネコンの本社に呼ばれました。

役員からの話はこうでした。「最近、現場に御社の新卒がやたらいますよね。何かやられているんですか?ぜひ教えてください」と。

土木施工管理の世界では、中小の建設会社が毎年1名新卒を採れれば「御の字」と言われます。そんな業界で、1年目6名、2年目10名の新卒採用を実現した話を書きます。

入社したとき、採用実績はゼロでした。

私のバックグラウンド:元銀行員が採用担当になった

少し自己紹介をします。私はもともと銀行員です。13年間、中小企業の法人営業を担当し、財務分析・融資・事業承継を扱ってきました。

転職のきっかけは、銀行時代に担当していた建設会社の社長から声をかけてもらったことです。融資や財務の相談を通じて関係を築いてきた会社だったので、「管理部門を任せたい」という話を自然な流れで受けることができました。

建設会社に転職し、管理部門(採用・人事労務・会計・総務)を統括しながら、採用を一人で担当することになりました。採用のプロでもなく、建設業の生え抜きでもない。ある意味、何の先入観もない状態でゼロから始めました。

結果として、この「よそ者感覚」と「銀行員のキャリア」が採用において強烈な武器になりました。後ほど詳しく書きます。

なお、この記事で書く手法は、主に工業高校からの採用が成立する業界向けのものです。

まず「求人票」を本気で作り直した

求人票は戦場です。事務的に高校に送るだけ、求人の時期に持って行くだけでは、他のどの会社とも同じです。

生徒や先生が求人票を手に取ったその瞬間に、「面白い」「この会社に行きたい」と印象付けられるかどうかが大事。同業他社の一つに埋没するのではなく、「この業界に進むなら○○だ」と名前を覚えてもらうことが必要です。

今までの求人票は、文章は硬く、見た瞬間に読む気が失せるものでした。求人票の書き方を変えるだけで反応に変化が生じます。これはハローワークでも通ずるものです。

そして最近見逃せないのが、求人票のDX化です。
高校向けの求人にも検索機能が付くようになってきました。給与・年間休日・休暇制度などで絞り込めます。つまり、検索で引っかかる条件を一つ作るだけで、一気に目立てます。

例えば、有給休暇を法定日数より1日増やすだけでいい。それだけで検索結果に浮かび上がるようになります。コストを最小限に抑えながら差別化できる、見落とされがちなポイントです。

給与設計で「初年度の見栄え」を変えた

もう一つ、他社がやっていない工夫をしました。給与設計の変更です。

新卒の夏のボーナスを減額し、その分を月給に上乗せしました。

入社して数ヶ月の新卒社員に、フルのボーナスを払う合理性はありません。でも会社として初年度はサポートしたい。だから月給に載せる。結果、求人票の月給の数字が上がりました。

重要なのは、総支給額は変わらないという点です。既存社員との給与逆転も起きません。全員が筋の通った形で受け入れられる構造です。

工業高校攻略の核心:「先生の頭の中に入り込む」

建設業の新卒採用で最も重要なのが、工業高校との関係構築です。ここが今回の採用改革の本丸です。

高校生の就職活動は、大学生のような自由な応募ではありません。基本的に担任や進路指導の先生が間に入り、生徒に求人を紹介する形で動きます。つまり、いくら生徒に会社を知ってもらっても、先生との関係がなければ話が進みません。

工業高校の3年生には、約30人のクラスに対して3,000枚もの求人票が届きます。当然、誰も3,000枚なんて読みません。生徒が進路相談に来たとき、先生が自然に「ああ、あの会社あるよ」と言える状態を作る。それが目標でした。

①訪問回数を増やす
どの会社も求人票を出しに行くとき、年1回は学校を訪問します。そこに1〜2回上乗せしました。年3回の訪問。それだけで「あの会社、よく来るな」という印象になります。顔を覚えてもらえます。やることはシンプルで、続けることが大事です。

②出前授業の枠を勝ち取る:「元銀行員」が最大の武器になった
工業高校では「出前授業」という文化があります。企業が学校に出向き、自社の仕事や業界について生徒に話す機会です。採用につながる重要な接点ですが、枠は限られています。新参の会社にはなかなか回ってきません。
先生が乗り気にならない限り、枠は来ません。だから先生自身が「聞きたい」と思えるテーマから入ることにしました。

ここで銀行員のキャリアが炸裂しました。
最初に提案したのが「お金の授業」です。
・給料の中身(手取りと総支給の違い、社会保険の仕組み)
・その給料でどんな生活ができるか(家賃・食費・貯蓄のリアルな試算)
・建設業の平均年収と将来性
・資産運用(NISAを使った増やし方)
・そして最後に「だから建設業、しいては弊社はすごい」という着地
生徒だけでなく、先生自身も気になるテーマです。お金の話は誰でも聞きたい。これで最初の授業枠を勝ち取りました。

授業の構成は時間によって変えます。

1コマ(45分)の場合はお金の授業30分+現場紹介15分。現場紹介は短いので、迫力ある動画と名物現場の写真で、動く職人の数やプロジェクト規模を視覚的に伝えます。

2コマ(90分)取れた場合は、1コマ目にお金の授業(資産運用パートを増やす)、2コマ目に現場の話を丸ごと使います。1日の流れ、建設業の将来性、安全装備(ハーネス等)の設置演習まで体験させます。給与体系や福利厚生もここで伝えます。

登壇者の人選にもこだわりました。
私の持論があります。「自分もああなれるかもしれない、と思わせる人間を前に立てる」のが正解です。

イメージで言うと、木村拓哉が登壇して「君たちも俺みたいになれる」と言っても、生徒は「いや、無理でしょ」と感じます。それより、星野源のような「手が届きそうな理想」を体現している人の方が、「自分も入社したらこんな人になれるかも」とリアルに思えます。

私自身はお金の話を担当するのでメイン登壇になります。そのうえで、現場パートを説明する現場担当者として星野源的な雰囲気の人間、つまり生徒が「この人みたいになりたい、なれそう」と感じられる人をいつも選んでいました。

現場所長に来てもらう時は30代半ば〜40代半ばの、顔が少しいいか、優しそうな所長に来てもらいました。「この人みたいになれそう」「この人なら怖くなさそう」と生徒が感じられる人選です。憧れと現実味の両立。役員クラスはオーラで「会社の格」を示す役割として機能するので、出てきてもらうことにも意味があります。

③現場見学まで持ち込む:スーパーゼネコンを巻き込んだ
授業ができた次は、現場見学を提案しました。

規模はさまざまで、一学年60人強の大規模見学から、個別の職場見学1人単位まで柔軟に対応しました。

大規模の場合は全員分のインカムを用意し、ちょっと良いお弁当まで手配しました。「羽振りの良い、なんか凄い会社」という印象を植え付けることも、採用においては立派な戦略です。

さらに、**協力関係にあるスーパーゼネコンにも声をかけました。**大規模な現場でゼネコン側の所長や副所長にクイズを出してもらい、大型プロジェクトの現場を肌で体感させる演出をしました。中小の建設会社単独では絶対に作れない体験です。(これはスーパーゼネコンからも好評で、「また若い人たちと触れ合える機会を作って欲しい」と、ありがたい言葉を何度もいただきました。)

ここまで来ると、先生も生徒も会社を忘れなくなります。「知っている会社」になります。志望者が自然と出てきます。

3段階の構造で「忘れられない会社」になる

ステップやること効果
①訪問回数を増やす年3回訪問顔を覚えてもらう
②出前授業を取るお金の授業で先生を動かす生徒の記憶に残る
③現場見学で強烈に印象を刻み込む
この3段階を踏むことで、3,000枚の求人票の中から「あの会社」として想起される存在になれます。

まとめ

採用ゼロから2年で計16名の新卒採用。
管理部門を兼務しながら、特別な予算もなく出した結果です。

変えたのは3つだけです。求人票の見え方、給与設計の構造、そして先生との関係。

採用ゼロから16名。これは運でも熱量でもなく、設計の結果です。何を・どの順番で届けるか。その構造を変えることで、採用は再現性のある仕組みになります。


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