[設問1] 別添の資料1~5は,農林水産省が作成した資料「鳥獣被害の現状と対策」(令和5年7月)の一部である。その内容に関して以下の問いに答えなさい。
問1 [80点]
(1)資料1~5の内容を基に,日本の農林水産業に関する鳥獣被害の推移と現状を文章で説明しなさい。ただし,その説明のなかで下記のキーワードを全て用いること。
キーワード:利害関係者 生態系:地方自治体 経済
注)利害関係者とは,ステークホルダーと同義である。
(2)資料1~5の内容を参考に,将来(現在から5年後)における日本の農林水産業に関する鳥獣被害を軽減するための対策を考え,文章で説明しなさい。なお,対策は一つでも複数挙げても構わない。
問2[70点]
あなたが,A県B市の「鳥獣害対策課」の課長(政策決定者)であると仮定する。A県では,科学的な調査の結果を基に,鳥獣害をもたらす野生動物の個体数管理を進めてきた。資料6は,A県における主要な害獣であるシカの生息密度と捕獲密度の2002年から2017年までの推移を5つの市町別に示したものである(B市は(2))。このような状況のなか,「鳥獣害対策課」では,B市の2018年以降の鳥獣害対策に関する政策案を作成している。そうしたなか,B市の市民から,資料7にある2件の要望が「鳥獣害対策課」に寄せられた。上記の状況を踏まえた上で,「鳥獣害対策課」としてどのような回答をするべきかを考え,要望への回答書を作成しなさい。ただし,回答書は個別の要望に対してそれぞれ書くのではなく,要望1·2の双方に対してまとめて回答すること。
注)
「鳥獣害対策課」とは,ここでは,野生動物による鳥獣害の被害を軽減するための政策案をとりまとめ,決定した政策を実行していく市の部署とする。
資料6
A県各市町におけるシカの生息密度(推定値)と捕獲密度の推移。折線グラフのそれぞれの点は、糞塊密度などのデータを基に推定した各年度の生息密度の中央値、灰色の範囲は95%信用区間を表す。棒グラフは各年度の捕獲密度(森林面積1km2あたり捕獲頭数)を示す。
出典:高木 2019(一部改変)
※設問の都合上、書誌情報の一部を省いてある。
資料7
要望1
「鳥獣害対策課」担当者の方へ
私は,B市の農村部に暮らす住民です。田んぼでの稲作や山の斜面での畑作を主な収入源としています。最近,昔に比べてシカを見かける機会が増え,作物への被害が大変深刻になっています。私たち農家にとっては,死活問題です。対策課ではどのような対策をとっているのでしょうか?もっとシカを捕獲し,数を減らしていただくように要望いたします。
要望2
「鳥獣害対策課」担当者の方へ
私は,B市の農村部に暮らす住民です。専業農家ですが,他地域の人たちと動物愛護団体を組織し,野生動物が暮らしやすい社会をつくろうと活動をしています。貴課では,野生動物を駆除するために,毎年多数の野生動物を殺しています。これは,人間の自分勝手な行動で,他の生き物の命を奪うことは倫理的に許される行為ではありません。すぐにこのような捕獲活動を中止していただくように要望いたします。
(2)考え方
[設問1]問1(1)(2) 資料ごとの読みとり
資料1
対策:
・被害対策の担い手の確保
→ハンターの養成、ただし5年間でどれだけ増やすことができるか?
・捕獲の一層の推進、捕獲等の技術の高度化のための技術開発の推進
→これが現実的。猟銃で撃つ以外の狩猟法にはどのようなものがあるか?
・捕獲鳥獣の利活用の推進、捕獲鳥獣の食肉処理施設の整備・充実、流通の円滑化
→ジビエのレシピ開発、店舗・調理人の確保・養成、宣伝・広告
・市町村への国の支援
① 財政支援:特別交付税の拡充、補助事業、捕獲等の費用の補助
② 権限移譲:市町村の鳥獣の捕獲許可
③ 人材確保:鳥獣被害対策実施の設置、捕獲隊員には狩猟税の軽減措置
・法的措置:銃刀法の規制緩和(更新時の技能講習免除)
資料2
被害額の推移:平成22年(239億円)から令和3年(155億円)にかけて約6割に減少。
特徴:
・シカ、イノシシ、サルの被害が全体の約7割を占めている。
・森林の被害面積の約7割がシカによるもの。
・水産被害は河川・湖沼ではカワウによるアユの捕食、海面ではトドによる漁具の破損。
・鳥獣被害は営農意欲の減退、耕作放棄・離農の増加、森林の下層植生の消失による土壌流出、希少植物の食害等をもたらしている。
資料3
・シカは平成元年~令和3年で約8倍に増加、平成26年度以降減少傾向にあるものの
そのペースは鈍い、イノシシは平成元年~令和3年で約4倍に増加、平成26年度以降は大幅に減少。
資料4
令和5(2023)年までの目標として、シカ、イノシシの生息頭数を基準年(2011年)の半分に減らす。431万頭から約215万頭(シカ310万頭から約155万頭、イノシシ121万頭から約60万頭)
資料5
・シカ、イノシシの捕獲頭数は平成14年の12万頭から令和3年の72万頭へ6倍に増えている。
問2
資料6の(2)のB市におけるシカの生息密度と捕獲密度との間に一定の比例関係があることを読み取る。そのうえで、シカの個体数管理をB市の鳥獣害対策課が行っていることを読み解く。
(3)解答例
問1 (1)
資料2から、シカ、イノシシ、サルの被害が全体の約7割を占めている。森林の被害面積の約7割がシカによるものである。水産被害は河川・湖沼ではカワウによるアユの捕食、海面ではトドによる漁具の破損が深刻である。被害額は平成22年の239億円から令和3年の155億円へと約6割に減少している。これは、地方自治体への財政支援や権限移譲に加えて人材確保等の国の対策が少しずつ効果を上げていることを示していると考えられる。鳥獣被害は農林水産業の経済的な損失だけでなく、森林の下層植生の消失や希少植物の食害等などにより、希少植物や昆虫等が絶滅の危機に瀕している。生態系への影響といった被害額が数字に表れる以上に農山漁村に深刻な被害をもたらしている。
資料3のシカ、イノシシの個体数推定結果については、シカは平成元年~令和3年で約8倍に増加し、平成26年度以降減少傾向にあるもののそのペースは鈍い、イノシシは平成元年~令和3年で約4倍に増加し、平成26年度以降は大幅に減少している。資料4のシカ、イノシシの生息頭数を令和5(2023)年までに基準年(2011年)の半分に減らす(シカ約155万頭、イノシシ約60万頭)という目標を国は掲げているが、資料5では、令和3年時点でシカ中央値222万頭、イノシシ中央値72万頭という現状から考えると目標達成は厳しい。
資料1より、国は被害対策の担い手の確保や捕獲の一層の推進、捕獲等の技術の高度化のための技術開発の推進、捕獲鳥獣の利活用の推進、捕獲鳥獣の食肉処理施設の整備・充実、流通の円滑化などの具体策を掲げているが、農林水産業の生産者だけでなく流通、小売業等の利害関係者の視点から総合的に対策を立てているところに特徴がある。
(2)
資料2では、野生鳥獣による農林水産被害の大半はシカ、イノシシで占められている。そこで、このシカ、イノシシ、サルを中心に対策を提案してみたい。内容は、シカ、イノシシ、サルなどの野生動物を農地に近づけないこととシカ、イノシシの捕獲の2点を挙げて考察する。
前者については、電気柵を農地周辺に設置する。また、一定の間隔で爆裂音を出す装置や野生動物の嫌う臭いを出す物質を農地周辺に設置する。設置定費用は公費で補助する。
後者については、特にシカ、イノシシ肉を用いた食肉の商品開発を進める。ジビエの魅力を消費者に浸透させるために広告・宣伝活動に力を入れる。学校や福祉施設の給食メニューにジビエを加える。個人のレストランには限界があるので、企業の協力を仰ぎ、飲食店で提供するだけでなく、ハンバーグ等に加工して小売り販売する。
消費者の口に入るには、生産・加工・流通の整備が必要となる。ジビエの精肉の生産量を増やさなければ消費量も増えない。地方では人口減少が進み、猟師の数が減り高齢化が
進んでいる現状を鑑みると、5年でハンターを急増させるのは困難である。そこで、罠猟などの捕獲法を深化させ、猟銃免許を持っていない人でも簡単にシカ、イノシシを捕獲できるようにする。また、地方の拠点ごとに食肉加工場の整備を進め、公費で援助する。
先に学校や福祉施設等で需要を増やして売り上げを伸ばして、食肉関係業者の収益が上がれば、このフードチェーンはさらに普及するだろう。
問2
B市では2010年頃からシカの生息数が急激に増加し、それに伴い市民から鳥獣害が多く報告されてきました。農林業の経済的損失を鑑み、シカの駆除を行っていますが、動物愛護と種の保存の見地から度を越した駆除を慎まなければなりません。そこで私どもの鳥獣害対策課では、農林業の持続的発展と動物倫理上の動物保護の倫理的精神、双方の立場に配慮して、シカの個体数管理を行っております。シカの生息数と生息密度を毎年調査し、推定生息数の30%を毎年捕獲し、これを超える駆除は制限しております。農林業の皆様お生活を営む権利と動物の生存権のどちらも、B市の発展のために欠かせない権利であります。私たちB市の市民の子孫のためにも、豊かな自然と共存した暮らしは残しておかなければならいことは私たちの責務です。市民の皆様におかれましては、どうか、このことをご理解賜ることができれば幸甚です。
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