「外国人観光客の動向と商店街の活性化」九州大学共創学部2025年

「外国人観光客の動向と商店街の活性化」九州大学共創学部2025年

記事
学び

(1)問題


問1

(1)資料1は日本における訪日外客数と出国日本人数の推移である。また資料2から5は日本の観光政策に関連して発出された政府の文書から,およそ15年おきに一部を抜粋したものである。資料2から5が出された社会的背景について,資料1から読み取れる観光客数の動向を資料2から5のうちに示された情報と関連付けながら,一連の文章のかたちで時系列に沿って説明しなさい。ただし次のキーワードのうち3つ以上を用いること。
キーワード:少子高齢化,バブル経済,海外旅行自由化,貿易黒字,地方の衰退,新型コロナウイルス,円安,オーバーツーリズム,高度経済成長

(2)資料6から8は近年の日本におけるインバウンド観光についての資料である。資料6から8および資料1から読み取れる情報をもとに,日本のインバウンド観光の特徴について説明しなさい。また資料4で示された『観光立国推進基本法』制定の目的が達成されているかどうかについて,あなたの考えを述べなさい。

問2
あなたは,JR博多駅および福岡空港から電車で60分ほど離れた地方都市,A市の駅前にある商店街で,商店街の運営と活性化のプロジェクトに携わることになった。
あなたはこの街に生まれ育った大学生であり,家族はここで雑貨屋を営んでいるものとする。この商店街は1990年代初頭から衰退が進み,現在はおよそ40軒ある店舗のうち半数ほどが閉店している状態である。だがここ数年は福岡県のインバウンド観光の余波から,商店街を歩く外国人旅行者の姿をよく目にするようになった。ただし現在のところ商店街では特別なインバウンド対応を実施しておらず,資料9に示されるような一般的な課題があることもわかっている。あなたなら商店街を含めた地域の活性化のためにどのような施策を取るだろうか。明確なコンセプトを設定したうえで,実現可能かつコンセプトと整合した一貫性のある計画を立てなさい。資料10および資料11も参考にしながら,商店街の立地特性を考慮し,それぞれの施策のデメリットにも触れつつ記述すること。
なお商店街の近傍には海水浴場と眺望豊かな山,温泉地,および創建1000年と伝えられる古社があり,いずれもバスを利用すれば15分程度でアクセス可能である。
※インバウンドとは,外国人が訪れてくる旅行のこと。日本へのインバウンドを訪日外国人旅行または訪日旅行という。これに対し,自国から外国へ出かける旅行をアウトバウンドまたは海外旅行という(「JTB総合研究所·観光用語集」)



資料2

我が国の国際観光政策
観光政策審議会が昭和48年8月末に「国際観光の意義及び政策の方向」と題する答申を行ったが,その中で述べられているように,最近の国際観光をとりまく状況は,(1)我が国の経済規模の急速な拡大に伴って,我が国の国際社会に与える影響力が強まり,世界諸国と国際観光等の国際交流を通じた相互理解の必要性が増大していること。(2)外貨獲得に重点をおくという従来からの国際観光振興策について見直しを迫られるにいたっていること。(3)一連の海外旅行の自由化措置によって日本人の海外旅行者が激増しており,その旅行の安全の確保,旅行マナーの啓発等につき所要の施策を講ずる必要性が認識されていること。(4)我が国の発展途上国に対する国際観光の分野における協力援助を一段と強化する必要があること等により大きく変貌している。
したがって,従来からの国際観光振興策を再検討するとともに,観光交流を通じた相互理解という国際観光本来の立場に立って,国際観光をいっそう振興する必要が生じている。
『昭和48年度(1973年度)運輸白書』より抜粋

資料3

海外旅行倍増計画(テン·ミリオン計画)の推進
(1)計画の策定及び見直し
日本人の海外旅行の促進を図ることは,国際相互理解の増進に役立つだけでなく,受入国においては雇用機会の増大や観光関連産業の発展等による経済振興に資するとともに,我が国及び相手国の国際収支のバランス改善にも寄与するものであることから,相互依存関係の深まる国際社会において我が国の安定的な存立を確保するために極めて重要なものとな
っている。運輸省は日本人海外旅行者数(昭和61年[1986年]552万人)を概ね5年間で1,000万人に倍増するとの目標を定めて,海外旅行を計画的かつ総合的に推進するため昭和62年9月に「海外旅行倍増計画(テン·ミリオン計画)」を策定し,昭和63年7月には各方面からの提言等を取り入れつつ日本人の海外での安全対策や長期休暇取得運動の充実を図るため所要の改正を行い,国民の海外旅行を促進するための施策を強力に推進している。
その結果,平成元年[1989年]の日本人海外旅行者数は,対前年比14.7%増の966万人と史上最高を記録し,目標年次より1年早い平成2年において1,000万人という目標を達成することが確実となっている。
『平成2年度(1990年度) 運輸白書』に基づく。文
中に一部で西暦を補ってある。


資料4

観光は,国際平和と国民生活の安定を象徴するものであって,その持続的な発展は,恒久の平和と国際社会の相互理解の増進を念願し,健康で文化的な生活を享受しようとする我らの理想とするところである。また,観光は,地域経済の活性化,雇用の機会の増大等国民経済のあらゆる領域にわたりその発展に寄与するとともに,健康の増進,潤いのある豊かな生活環境の創造等を通じて国民生活の安定向上に貢献するものであることに加え,国際相互理解を増進するものである。
我らは,このような使命を有する観光が,今後, 我が国において世界に例を見ない水準の少子高齢社会の到来と本格的な国際交流の進展が見込まれる中で,地域における創意工夫を生かした主体的な取組を尊重しつつ,地域の住民が誇りと愛着を持つことのできる活力に満ちた地域社会の実現を促進し,我が国固有の文化,歴史等に関する理解を深めるものとしてその意義を一層高めるとともに,豊かな国民生活の実現と国際社会における名誉ある地位の確立に極めて重要な役割を担っていくものと確信する。
しかるに,現状をみるに,観光がその使命を果たすことができる観光立国の実現に向けた環境の整備は,いまだ不十分な状態である。また,国民のゆとりと安らぎを求める志向の高まり等を背景とした観光旅行者の需要の高度化,少人数による観光旅行の増加等観光旅行の形態の多様化,観光分野における国際競争の一層の激化等の近年の観光をめぐる諸情勢の著しい変化への的確な対応は,十分に行われていない。これに加え,我が国を来訪する外国人観光旅客数等の状況も,国際社会において我が国の占める地位にふさわしいものとはなっていない。
これらに適切に対処し,地域において国際競争力の高い魅力ある観光地を形成するとともに,観光産業の国際競争力の強化及び観光の振興に寄与する人材の育成,国際観光の振興を図ること等により,観光立国を実現することは,二十一世紀の我が国経済社会の発展のために不可欠な重要課題である。ここに,観光立国の実現に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため,この法律を制定する。
平成18年(2006年)『観光立国推進基本法』「附則」

資料5

○ 国内外の観光需要は急速に回復し多くの観光地が賑わいを取り戻しているが,都市部を中心とした
一部地域への偏在傾向も見られ,観光客が集中する一部の地域や時間帯等によっては,過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響や,旅行者の満足度の低下への懸念も生じている状況であり,適切な対処が必要。地方部への誘客をより一層強力に推進し,全国
津々浦々あまねく観光客を呼び込んで行く。
観光客の受け入れと住民の生活の質の確保を両立しつつ,持続可能な観光地域づくりを実現するためには,地域自身があるべき姿を描いて,地域の実情に応じた具体策を講じることが有効であり,国としてこうした取組に対し総合的な支援を行う。「オーバーツーリズムの未然防止·抑制に向けた対策パッケージ」令和5年(2023年)10月18日観光立国
推進閣僚会議決定 より抜粋

 資料6
資料6:都道府県別訪問ランキング.png

資料7
資料7:外国人延べ宿泊者数の出身国および地域別シェア.png

資料8
資料8:訪日外国人旅行者が訪日前に期待していたこと.png

資料9
資料9:商店街側が考える外国人旅行客が不便と感じていること.png

資料10
資料10:今後の地方エリアへの訪問意向を高めるもの(観光コンテンツ).png


資料11
資料11:外国人延べ宿泊者の出身国および地域別シェア(九州、2023年).png

(2)解説


問1(1)

キーワードの説明

●バブル経済
・1980年代後半、特に1986年ごろから株価・地価が急激に上昇した時期を指す。
・バブル景気の期間
1986年11月から1991年2月まで
●海外旅行自由化
・日本で海外旅行が自由化されたのは1964年 昭和39年。
この年から、日本人は観光を目的としても、基本的に自由に海外へ行けるようになった。
●貿易黒字
・1980年代に入ると黒字額が急拡大。
1983年度 345億ドル → 1984年度 456億ドル → 1985年度 616億ドル
●地方の衰退
・2000年代半ばから地方から
・若者が進学や就職で都市部へ移動し、高齢者だけが残りやすい構造
・製造業が衰退し、地方で少子高齢化と人口減少が進む
●新型コロナウイルス
2020(平成年)~2023年5月
●円安
・2021年頃から
・アメリカが利上げに動き始め、日本との金利差が拡大し始めたころから、ドルに対してじわじわ円安が進行。
●高度経済成長
・1955(昭和30)~1973(昭和58)年
<解説>円高が進行すると日本人の海外旅行が増える理由
円高は、日本円の購買力(海外での買い物力)が上がる。1万円を両替したときに、円高の方が多くのドルやユーロを受け取れる状態。その結果、同じ旅行内容でも「円高であると旅行代金の総額が安く済む。
現地での食事・買い物・観光料金、現地通貨建てのホテル代、現地発着のツアー代金など


日本経済史と観光業との関係を年表にまとめた
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外国人観光客.png

(3)解答例


問1(1)

 1955~1973年にかけての高度経済成長期の1964年、海外旅行自由化に伴い海外への日本人の観光旅行が始まるが、出国日本人数はそれほど増えず、1970年代から出国日本人数が少しずつ増加となり、日本人の海外旅行がじわじわと増えている。これは。政府の国際観光振興策の後押し(資料2)によるものである。

 1985年のプラザ合意によりドル安・円高が進行した。この円高が後押しをして1986年出国日本人数が500万人を超える。1980年代後半に日本の貿易黒字が拡大した。特にアメリカ向けの集中豪雨的輸出は現地の工場閉鎖、失業問題を引き起こして雇用を減らし、アメリカとの貿易摩擦が深刻化した。資料3で「我が国及び相手国の国際収支のバランス改善にも寄与するものである」とあるように、政府は日本の貿易黒字額を減らし、日米貿易摩擦を解消する狙いにより、日本人海外旅行者数(昭和61年[1986年]552万人)を概ね5年間で1,000万人に倍増するとの目標を定めて、日本人の海外旅行を推進した。これにより、1986~1991年のバブル経済の時期には、出国日本人数が急速に増加し、1990年には1000万人以上となる。

 2000年代半ばから、円高により日本の工場が海外に移転し、産業の空洞化が進展し、地方の衰退が顕著となった。1964年から訪日外客数は増加しているが、2006年には頭打ちの状態となった。国際観光の振興をより地域経済の活性化、雇用の機会の増大を促し、地方の活性化を図るため政府は観光立国構想を進めた(資料4)。

 2011年の東日本大震災により訪日外客数が一時的に落ち込むが、2012年以降急激に増加し、2018年には3000万人を超える。

 2020~2023年の新型コロナウイルスの感染拡大期、各国ともに入国・出国制限を実施したため、出国日本人数、訪日外客数が急激に落ち込んだ。
2021年頃から円安が進行し、コロナ明けの2023年頃から出国日本人数、訪日外客数が急速に回復し、2024年には訪日外客数はコロナ前の時期に戻りつつある。一方、大量の観光客が一部地域へ集中し、過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響悪化といったオーバーツーリズムが社会問題化した(資料5)。

(2)

 アフターコロナの日本のインバウンド観光の特徴を以下に述べる。

 資料6より、都道府県別訪問率は東京都が50%以上を占めていて突出しているが、大阪府、千葉県、京都府が30%を超えていて、特定の都府県に偏っている。こうした特定地域への観光客の集中がオーバーツーリズム問題を深刻化させている。観光立国構想の目的は「潤いのある豊かな生活環境の創造等を通じて国民生活の安定向上に貢献する」とあるが、オーバーツーリズム問題を解決しなければ、この目標の到達には難しい。

 資料7より、外国人宿泊者数は中国、台湾、香港で33%(全体の約三分の一)を占め。韓国、ASEANを加えると51%となり、全体の半数以上がアジアからの観光客で占められている。観光立国構想の目的は「国際社会の相互理解の増進」や「国際相互理解」の増進を目指しているが、欧米からの観光客をさらに増やさなければこの構想は掛け声倒れに終わってしまう。

 資料8より「訪日外国人旅行者が訪日前に期待していたこと」について、日本食を食べること、ショッピング、繁華街の街歩きが、コロナ前の2019年に比べると、アフターコロナの2023年には6%以上の伸びを示している。このことは、新型コロナウイルス感染拡大期には、まん延防止等重点措置で都道府県をまたぐ不要不急の外出の自粛や飲食店に対する営業時間短縮の要請が出されたことで、制限されていたことが解除されて、できるようになったことで、アフターコロナの2023年こうした観光に対する期待が高まったと考えられる。このような訪日外国人旅行者の期待に応えることで「地域経済の活性化,雇用の機会の増大等国民経済のあらゆる領域にわたりその発展に寄与する」とある観光立国構想の目的に到達することができる。

問2

 JR博多駅および福岡空港から電車で60分ほど離れた地方都市,A市の駅前にある商店街電車のアクセスが良いので、宿泊客に加え、日帰り客も取り込むプランを提案する。特に商店街の飲食物の食べ歩きをして、回遊性の高い街作りを策定する。

 資料11より、韓国からの宿泊客が多い。台湾、香港、中国を合わせれば75%と全体の四分の三となる。中国圏と韓国の旅行客をターゲットにした戦略を立てる必要がある。

 資料9より、商店街が抱える、外国人観光客が不便に感じていること」の上位に「コミュニケーションがとれない」「サイン・案内板がわかりにくい」「マップ・パンフレットがわかりにくい」がある。こうした問題に対応するためにucode タグを商店街の店舗につけることを提案する。外国人観光客がスマホをucode タグに近付けると、福岡県の地元のとんこつラーメンやかしわめし・かしわおにぎり、焼きうどん、地元の食材であるごまさばや明太子を使った、韓国人が好む辛口の新商品などの飲食店マップとグルメ情報、近傍の海水浴場や景勝地、日帰り温泉、神社・仏閣などの日本の歴史的文化財の情報などの観光情報が出てくる。説明は英語のほか、中国語、韓国語などの多言語対応にすることで、外国人観光客の不便に対応することができる。休憩所やベンチを商店街の各所に設置し、九州ゆかりのアニメやドラマ、映画作品にかかわるキャラクターのフィギュアやポスターを商店街の各所にちりばめ、回遊性を確保する。このような試みにより、中・韓の観光客が商店街をくまなく歩くことで、商店街全体の売り上げ増加につながり、観光客を近隣の観光地にも誘導することで、地域活性化の効果を期待できる。

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