ヤリチンEpisode note.16「負けさせてくれる男」

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ChatGPT Image 2026年3月6日 23_11_25.png
光の端に立つ女性がいた。
雨上がりの夜は、街の輪郭が少しだけ濃くなる。

濡れた路面が光を拾って、嘘みたいに綺麗に見える。

彼女はその光の端に立っていた。

38歳。開業している。

地味なコート。けれど、手元だけが妙に上品で、
指先は静かだった。



「遅れてごめん」



声はハスキーとまで行かないが、低く落ちついている。



「今日、二十七人見た」



小さなバーに入る。
彼女は席に着くと、グラスに触れる前に言った。



「今日、二十七人見た」



それ以上は言わない。
言わないのに、背中から全部漏れている。

疲れと、苛立ちと、
誰にも触れられない孤独。



僕の出会い方は少し特殊だ。
説明すると安っぽくなる。
だから言わない。

ただ、こうして彼女が目の前にいる。
彼女は僕を見て、ほんの少し眉を動かした。
驚きじゃない。確認だ。



「…写真より、静かなんだね」



僕は笑った。
彼女も笑ったけど、すぐに消えた。



彼女はきれいだ。
でも、艶というよりは“整い”に近い。
崩れない顔。崩れない話し方。
崩れないからこそ、どこか歪んで見える。



「男ってさ」



彼女はどこの国かも分からないウイスキーボトルを見ながら言った。

「私に対して、最初に“値段”を付けるの。年齢とか、肩書きとか、そういうので」



それが彼女の人生の癖だ。
値札の付いた自分を、ずっと見せられてきた。



「あなたは…付けないの?」



僕は答えない。
沈黙は、たいてい正解に近い。



その沈黙の間に、彼女の視線が一度だけ泳いだ。
いつも主導権を握っている人が、握れないときの目だ。



重力みたいな強さ



不思議なことに、僕は“強い”と言われる。

見た目じゃない。
何か別の、言語化しにくいもの。



イケメンが持っている強さって、だいたい表面にある。
声、笑い方、距離の詰め方。
ああいうのは分かりやすい。
だから崩れやすい。

小麦粉でくるんで、揚げただけみたいなもんだ。

僕は、少し意識していて。違う。
刃物じゃなくて、重力みたいな。
気づいたら、女性は負けている。

彼女は、少しだけ喉を鳴らした。

「…なんか、変だね」



「なにが」



「“賢い女”でいられない」



賢い女は、負けない。
負けない代わりに、誰にも触れられない。

彼女はそれを長くやりすぎた。


賢い女でいられない

店を出る。
風が冷たい。

彼女は傘を差さずに歩いた。
濡れてもいいみたいに。

ホテルに入るまで、会話はほとんどなかった。
言葉が少ない方が、体温は伝わる。

明かりはいらない
部屋に入って、彼女は照明をつけなかった。
暗がりのほうが、素直になれる。


コートを脱ぐ。
近づいた瞬間、女の香りがした。。
香水じゃない。疲れと、清潔と、少しの焦り。

触れるのは急がない。
彼女はまた“強い女”に戻ってしまうから。


降伏の呼吸

キスをしたとき、彼女は一度息を止めた。
抵抗じゃない。

降伏だ。

僕のシャツを掴んで、小さく笑った。



「…ずるいなー。」

「なにが?」


「怖くないふり、上手すぎ」



僕は上手くなんてない。
ただ、怖がってる。

怖さを外に出さないだけだ。

ベッドに沈むと、暗闇の中で彼女の輪郭が柔らかくなる。

肩の力が抜けて、
言葉が少なくなって、
呼吸だけが本当になる。

彼女は僕の胸に頬を押し当てて、囁いた。

「私ね」

「うん」

「勝てる男ばっかり選んできた。
勝てるって、コントロールできるって意味」

彼女の声が少し掠れた。

「でも、コントロールできる男って…
結局、何もくれないんだよね」



その“何も”を、彼女は言わない。
色っぽい傷があった。

僕は背中を撫でた。
メスで背中を割くように。

彼女は目を閉じて、すっと息を吐いた。


負けさせてくれる男


「シンヤさんって」

彼女が言う。

「嘘みたいに強いね」

「そんなことないよ。」

素直に答えた瞬間、魔法が解ける気がした。

暗がりの中で、彼女の指が僕の肩に食い込む。
それは求める指だった。確認する指じゃなく。


彼女が男を求める理由は、たぶん欲望じゃない。

“負けたい”んだ。

勝ち続けるのに疲れた人が、安心して負けられる相手。
そしてなぜ、チー牛の僕に惚れるのか。


彼女にとって僕は、

勝てる男じゃない。

負けてもいい男でもない。



負けさせてくれる男。



静かに。

確実に。

誠実に。

嘘みたいに。
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