脳卒中というと、多くの方が高齢者の病気をイメージするかもしれません。しかし、実は15歳から49歳までの「若年成人」と呼ばれる世代にも、脳卒中の影響が広がっており、無視できない問題となっています。今回紹介する研究論文は、1990年から2021年までの世界のデータを分析し、若年成人における脳卒中の実態を調査しています。
その結果、驚くべきことに、若年成人の脳卒中の絶対的な患者数(新しく発生したケースや治療中のケース)は、この期間に世界全体で増加しています。
特に気になるのは、2015年以降、「虚血性脳卒中(脳の血管が詰まるタイプ)」と「クモ膜下出血(脳の表面で出血するタイプ)」の年齢で調整した発生率が上昇傾向にあることです。若年成人での脳卒中は、その後の人生に深刻な影響を及ぼします。体の麻痺が残るだけでなく、うつ病や記憶力の低下につながることもあり、仕事や社会生活、家族関係にも大きな負担となります。
これは、人生の最も活動的な時期に起こるため、本人だけでなく、社会全体にとっても大きな損失となります。
では、どのようなことが脳卒中のリスクを高めるのでしょうか。
若年成人の脳卒中に関連する障害(DALYs)に最も大きく影響している要因は、「高血圧」であることが分かっています。
ただし、脳卒中のリスク要因の傾向は、住んでいる地域やその地域の所得水準によって大きく異なります。
例えば、所得の高い地域では、「喫煙」「高LDLコレステロール(悪玉コレステロールが高い)」「高BMI(肥満)」との関連が高い傾向が見られます。
一方、所得の低い地域では、「固体燃料の使用による家庭内の空気汚染」や「野菜不足の食事」の寄与が高いという特徴があります。さらに、1990年から2021年にかけて、一部のリスク要因による脳卒中関連の発生が世界的に増加しています。
増加に大きく寄与しているのは、「高BMI(肥満)」「高血糖」「大気中の微小粒子状物質汚染」「高LDLコレステロール」「高血圧」などです。
これらの要因の増加は、若年成人における脳卒中増加の一因と考えられます。性別によるリスク要因の違いもあります。男性では「喫煙」や「アルコール摂取」がより大きな影響を与える傾向があり、女性では「受動喫煙」「高BMI」「運動不足」の寄与が高い傾向が見られます。
特に25歳未満の女性では、妊娠に関連する高血圧などもリスク要因となり得ます。
このように、若年成人の脳卒中は増加傾向にあり、様々なリスク要因が複雑に関わっています。
この問題に対処するためには、高血圧などの主要なリスク要因の管理に加え、地域ごとの特徴や、個人の生活習慣、性別による違いを考慮した、費用対効果の高い、きめ細やかな予防策や対策が緊急に必要とされています。
論文タイトル:Global Burden and Risk Factors of Stroke in Young Adults, 1990 to 2021: A Systematic Analysis of the Global Burden of Disease Study 2021.
研究目的
この研究は、1990年から2021年にかけての若年成人(15歳から49歳)における脳卒中(虚血性脳卒中、脳内出血、クモ膜下出血、および全体の脳卒病)の患者数、死亡数、健康損失などと、それらに関連するリスク要因の世界的な状況と傾向を詳細に分析することを目的としています。
特に、最新のGBD (Global Burden of Disease Study) 2021のデータを用いて、この年齢層における脳卒中の実態を包括的に把握し、効果的な対策立案に役立てることを目標としています。
方法
この研究には、世界の204の国と地域における1990年から2021年までのGBD 2021のデータが使用されました。
データには、371の疾患や傷害、および88のリスク要因に関する包括的な評価が含まれています。
脳卒中の負荷と傾向を評価するために、年齢調整率(異なる年齢構成を持つ集団間での比較を可能にするための指標)と、その推定年間変化率(EAPC)が用いられました。
EAPCは、年齢調整率の経時的な変化傾向(増加か減少か安定か)を示す指標です。 また、疾病や障害による健康損失を測定する指標であるDALYs (Disability-Adjusted Life Years)が広く用いられました。
DALYsは、単に死亡数だけでなく、障害を抱えて生きる年数も含めて、健康な状態で失われた年数を数値化したものです [会話履歴]。
特定のリスク要因が健康損失にどれだけ寄与しているかを示すために、Attributable DALYsという概念も使用されました。
地域の社会経済的発展度を測るために、所得、教育、出生率に基づいた社会人口統計学的指標(SDI)が用いられました。
脳卒病はWHOの臨床基準に従って定義され、虚血性脳卒中(脳の血管が詰まる)、脳内出血(脳内での出血)、クモ膜下出血(脳の表面での出血)といった病型も分類されました。
リスク要因の寄与度を推定するためには、比較リスク評価のフレームワークが適用され、主要な19のリスク要因について分析が行われました。
結果
1. 患者数の増加と発生率の傾向 1990年から2021年にかけて、若年成人における脳卒中の絶対的な患者数(新規発生および有病者数)は世界的に増加しました。新規発生数は36%増加、有病者数は41%増加しました。
ただし、年齢構成の変化を調整した年齢調整率では、脳卒病全体としては減少傾向が見られました。しかし、特に懸念すべき点として、2015年以降、虚血性脳卒中とクモ膜下出血の年齢調整発生率が世界的に上昇傾向に転じています。
2. DALYsとそのリスク要因 2021年時点で、若年成人における脳卒中によるDALYsは、全世界で約2137万DALYsに達しました。
これは、若年成人においても脳卒中が相当な健康上の負荷となっていることを示しています。 脳卒中関連DALYsの主要なリスク要因は高血圧でした。 しかし、リスク要因の寄与は地域やSDIによって大きく異なります。
高SDI地域では、喫煙、高LDLコレステロール(悪玉コレステロールが高い)、高BMI(肥満)、環境中の微小粒子状物質汚染の寄与が相対的に高くなっています。
低SDI地域では、固体燃料の使用による家庭内空気汚染、野菜不足の食事が相対的に高く寄与しています。1990年から2021年にかけて、リスク要因による若年成人の脳卒中関連DALYsの総数は12%増加しました。この増加に最も大きく寄与したのは、*高BMI(肥満、202%増)、高血糖(76%増)、環境中の微小粒子状物質汚染(66%増)、高LDLコレステロール(39%増)、高血圧(35%増)でした。高アルコール摂取、低運動なども増加に寄与しています。
3. 病型、年齢、性別による違い 2021年、若年成人で最も多かった新規脳卒中病型は虚血性脳卒中(51%)でしたが、DALYsへの寄与が最も大きかったのは脳内出血(全体の65%)でした。
年齢調整発生率、死亡率、DALYsは、女性よりも男性の方が高い傾向が見られました。ただし、年齢調整有病率は女性の方が高かったです。これらの率は年齢が上がるにつれて全て増加します。
25歳未満の若年層では、一部の低SDI地域を除き女性の方が発生率が高い傾向が見られ、これは妊娠関連高血圧やホルモン避妊薬の使用など、女性特有のリスク要因の影響が考えられます。
性別によるリスク要因の違いもあり、男性では喫煙やアルコール摂取、高ナトリウム摂取がより大きな影響を与え、女性では受動喫煙、高BMI、低運動の寄与が高い傾向が見られました。
結論
年齢調整率が全体的に減少しているにもかかわらず、若年成人における脳卒中の絶対数が増加していることは、世界の公衆衛生上の重要な課題です。
特に、2015年以降の虚血性脳卒中とクモ膜下出血の年齢調整発生率の上昇は懸念される傾向です。脳卒中のリスク要因のパターンは、地域や社会経済的な状況、性別によって大きく異なります。
したがって、この問題に対処するためには、高血圧などの主要なリスク要因の管理に加え、それぞれの地域や個人の生活習慣、性別の違いを考慮した、きめ細やかで費用対効果の高い予防策や対策が緊急に必要とされています。
特に、増加傾向にある高BMI、高血糖、大気汚染などへの対策を強化する必要があります。
引用論文
Global Burden and Risk Factors of Stroke in Young Adults, 1990 to 2021: A Systematic Analysis of the Global Burden of Disease Study 2021. Zhang M, Long Z, Liu P, Qin Q, Yuan H, Cao Y, Jia Y, Liu X, Yu Y, Wu Y, Pei B, Ye J, Wang M, Wang F.J Am Heart Assoc. 2025 May 15:e039387. doi: 10.1161/JAHA.124.039387. Online ahead of print. PMID: 40371619