中小企業経営のための情報発信ブログ189:なぜ戦略の落とし穴にはまるのか

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今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
今日は、伊丹敬之著「なぜ戦略の落とし穴にはまるのか」(日経ビジネス人文庫)を紹介します。
著者の伊丹氏は国際大学学長、一橋大学名誉教授で、経営戦略が専門です。
伊丹氏は、「経営戦略の論理」という名著で、戦略の「いい内容とその論理」について語っています。一方で、この「なぜ戦略の落とし穴にはまるのか」では、いい内容を持つ戦略を作るのに、なぜ多くの企業が失敗するのか、つまり、なぜ戦略策定の落とし穴にはまるのかについて、書かれています。
戦略の論理はある意味どのような企業においても共通していますが、戦略の失敗・つまり落とし穴は企業によってまちまちです。そうはいっても、共通点はあるはずです。
伊丹氏は、戦略の失敗を3つのタイプに分けています。
Ⅰ:環境が事前の想定と大きく違った展開をしたために事前構想としてはうまくつくられた戦略が結果的に失敗に終わるというタイプ
 Ⅱ:戦略策定の際に落とし穴にはまっていい戦略が作れなくなってしまうという失敗
 Ⅲ:戦略の実行プロセスがゆがむという失敗
第1のタイプは、事前構想ではうまくいくはずが、リーマンショックやコロナ感染拡大などの急激な環境変化に巻き込まれてせっかく作ってきた戦略が台無しになるケースです。この場合、経営陣に責任がない場合もあります。もっとも、こうした未曾有の危機が起きた場合の対処について、危機管理体制の見直しやコンティンジェンシープランの策定が不十分なところに責任はあります。
第2のタイプは、戦略思考をしようとしているが、落とし穴にはまって思考が混乱し、その結果適切な戦略が作れないというケースで、この本の主題となっているものです。
第3のタイプは、事前にはいい戦略が作られているのに、実行段階で失敗するケースです。実行段階で戦略策定時に想定できなかった環境変化などが起き、うろたえる人が出て、うまく軌道修正できず実行プロセスが歪むケースです。
企業が「戦略策定の落とし穴」にはまるのは、「戦略」という言葉の定義が不明瞭だからです。「戦略とは何か」ということが明確に議論されていないからです。戦略という言葉は便利な言葉で、企業の計画であれば何でもかんでも「戦略」で言い表されてしまいます。それでは、良い戦略を作ることはできません。以前リチャード・P・ルメルト著「良い戦略 悪い戦略」という本を紹介しましたが、戦略の基本は「最も弱いところに、こちらの最大の強みをぶつけること、別の言い方をするならば、最も効果の上がりそうなところに、最大の武器を投じること」です。重要なのは「選択と集中」です。
そのときに書きましたが、「良い戦略」には十分な根拠に基づいた「核」があり、その「核」が一貫した行動に繋がっているのです。
伊丹氏は、戦略には3つの要素が必要であると言っています。
Ⅰ:ビジョンと目標・・・比較的抽象度が高い「思い」としてのビジョンと、そのビジョンがもたらすはずの経営業績としての「目標」
Ⅱ:ありたい姿・・・思い定めたビジョンと目標を達成するために、どのような事業の姿になっていなければならないか、なっていたいかという到達点での事業構造の姿
Ⅲ:変革のシナリオ・・・未来の到達点へと現状から事業を導くための行動計画。ありたい姿と現状とのギャップを埋める「変革のプロセス」
この本で扱われているのは、「戦略策定のプロセス」ですが、そこで生まれる落とし穴を2つのタイプに分けています。
 Ⅰ:思考プロセスの落とし穴・・・戦略策定のための「思考プロセスそのもの」で待ち構えている落とし穴
戦略内容の落とし穴・・・戦略策定プロセスの結果として生まれてくる戦略の内容が甘くなるという落とし穴
第1の落とし穴である「思考プロセスの落とし穴」は、①人間の理性には限界があるので、思考の緩みや歪みが生まれる ②組織・集団内での忖度や配慮、誤解などから思考の緩みや歪みが生ずるのです。
第2の落とし穴である「戦略内容の落とし穴」は戦略内容が甘くなるということです。これは、思考プロセスの緩み・歪みが大きな原因ですが、真剣に考えたのに、最後に周囲に配慮しすぎて不徹底となったり、決断ができずに甘い内容になったりします。戦略は組織として市場で事業活動を行なうための基本設計図ですから、顧客・競争相手・技術動向・自社の資源や能力・人々の心理など考慮すべき要因は多いのです。だから思考が余程精密・正確でなければ甘さが生まれやすく、さらに組織内のしがらみが甘さをい生むことになるのです。
伊丹氏は、「こうした落とし穴に『ついつい』はまってしまう」と言います。明確な見落としや間違いではなく、いつの間にか意識しないうちにはまる落とし穴です。戦略策定の小さな落とし穴についついはまってしまった場合、結果として大きな失敗になってしまうことも多いのです。
その原因は3つあると言います。
1つ目は、戦略というだけにことは重大で、間違いを起こすと被害が大きいことが予想され、慎重になりすぎて頭が混乱し、思考の緩みや歪みが生ずるのです。混乱した結果、あれもこれもと盛り込んだ発想になり、メリハリのない、つまり「選択と集中」が行なわれていない戦略になるのです。
2つ目は、戦略というのは常に考えるものではないからです。誰もが慣れておらず、普段着での発想ではなく、ぎこちない、場合によっては突拍子もない発想になるのです。
3つ目は、世の中に良い戦略とは何かについて常識的見解がたくさんあり、それらに引っ張られるのです。引っ張られると自分の頭で考えなって、何処かで論理を飛ばしたりして思考の緩みや歪みが生まれるのです。また、常識的にみんなが納得しそうなことを並べ立てて、結局特徴のない発想になるのです。
「ついつい」は頻繁に起きます。だからそれを逆手にとって、常に明示的に意識して、落とし穴にはまらないようにすればいいのです。
この書の構成は、
第Ⅰ部 思考プロセスの落とし穴 
 第1章 ビジョンを描かず現実ばかりを見る
 第2章 不都合な真実を見ない
 第3章 大きな真実が見えない
 第4章 似て非なることを間違える
第Ⅱ部 戦略内容の落とし穴
 第5章 絞り込みが足らず、メリハリがない
 第6章 事前の仕込みが足りない
 第7章 段階を追った、流れの設計がない
 第8章 正ばかりで奇も勢いもない
 終章  人間性弱説の戦略論
となっています。
この本では戦略の思考プロセスと戦略の内容そのものと、多くの人がはまりそうな落とし穴について語られています。
自社の戦略策定や戦略の失敗について振り返るには参考になると思います。
誰も好んで落とし穴にはまるわけではありません。ついついはまってしまうのです。
伊丹氏は、「人間は性善なれど 弱し」だから、ついつい落とし穴にはまるのだと言います。「ものの考え方」や「思考プロセス」に性弱な人間の本性が反映されるばかりでなく、戦略の内容にも影響が出てくるのです。性弱だから、ついつい絞り込むが不足する(第5章)、事前の仕込みも一歩足りない(第6章)、段階を追った思考になりにくく流れの設計まで気が回らない(第7章)、性弱だから奇を戦略に組み込む思い切りができず、勢いを出すところまで考えが及ばない(第8章)、のです。
人間が性弱であるから、そのことをきちんと考慮に入れて目配りをしながら戦略を考える必要があるのです。これが、伊丹氏が言う「人間性弱説による戦略論」(第9章)です。
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