【第三話】名前は分かった。でも、人は何も分からなかった

【第三話】名前は分かった。でも、人は何も分からなかった

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コラム
祖母の父の戸籍を、一通り見終えたあと。
私は、しばらく手を止めていました。


名前は分かる。
生まれた年も、
亡くなった年も分かる。
誰の子で、誰の親かも、
戸籍にはきちんと書いてあります。


けれど、
その人がどんな人だったのかは、
どこにも書いてありませんでした。


「遊び人だったらしい」
という、
母から聞いた一言。


それが事実なのか、
それとも誰かの印象だったのか。
戸籍をいくら見ても、
判断はつきません。


このあたりで、
少しずつ、
気持ちが重くなってきました。


方法が分からないわけではありません。
先祖調査の本も、
何冊か買ってみました。


戸籍の先に、何を調べていくのか。
図書館、市町村史、郷土資料――
やり方自体は、
本に書いてあります。


けれど、
実際に一人で進めてみると、
何かが違いました。


これで合っているのか。
今、自分は
ちゃんと前に進んでいるのか。


誰かに聞くほどのことでもない。
でも、


一人で判断するには、少し心細い。


仕事で戸籍を見るときは、
目的がはっきりしています。
必要な範囲を確認して、
次の手続きに進む。


でも、
先祖を知る、という視点で戸籍を見ると、
見るべき情報が多すぎて、
どこから手をつけていいのか
分からなくなりました。


情報はあるのに、
手応えがない。
進め方は書いてあるのに、
自分がどこにいるのかが分からない。


そんな感覚でした。


この時、
「これ以上、見ても意味があるのかな」
そう思ったわけではありません。


ただ、
一人で続けるのは、
思っていたより、しんどいかもしれない。


そんな気持ちが、
はっきり言葉になる前のところで、
立ち止まっていました。


名前は分かった。
でも、人は、まだ何も分かっていない。


この時点では、
それ以上でも、
それ以下でもありませんでした。
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