私のルーツ旅・第1話|たった一行の戸籍が300年の旅の始まり
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コラム
「どうして、
戸籍なんて事務的な紙切れから、
旅が始まるんですか?」
そう聞かれたら、
私は少し笑って、
こう答えることに
しています。
自分でも、
最初はそう思っていましたよ
…と。
自分のルーツを知る旅が、
こんなにも心を動かされるものになるとは——
正直、思ってもいませんでした。
私は長年、
行政書士として
相続や終活の支援をしてきました。
遺言、成年後見、
エンディングノート。
いわば“人生の終わり方”
を扱う仕事です。
そんな日々の中で、
ある疑問が、
ずっと心の奥に残っていました。
本当に、
これで
いいのだろうか?
財産の分け方、
手続きの整備。
それも大切な備えです。
でも、もっと根本的な
「問い」があるように
思えたのです。
それは、
「想い」をどう託すか。
相続を“争続”にしないためにも
大切な視点です。
けれど、言うは易し。
その「本当の想い」を
言語化する必要がある訳ですから
実際にはとても難しい。
ある日、
一通の戸籍を見ながら
語ってくれた方がいました。
「父はね、
若いころ村を飛び出して、
東京で働きはじめたんですよ。
でも……
最後は、
故郷に戻ってきたんです。
この住所、
ああ、ここが……
父の帰ってきた
場所なんですね。
……もっと、
父と話しておけば
よかったなあ。
父なら、
今の状況をどう思うんだろう
静かなひと言でした。
けれど、その瞬間、
私ははっきりと気づいたのです。
想いを知る手がかりは、
“未来”ではなく、
“過去”にあるのではないかと。
「そもそも、自分は、
どこから来て、
どこへつながっていくのか?」
その問いに向き合えたなら——
生き方そのものを再定義できるのではないか。
死に方は、生き方である。
これは、おひとりさまの
成年後見業務で私が実感
してきたことです。
ただの住所のように見える、
本籍地の一行。
けれどその裏には、
確かに“物語”が宿っていました。
その方は、父の戸籍を手に取りながら、
まるで自分のルーツを
辿るように語っていたのです。
それは、一枚の戸籍が
時を超えて手渡してくれる
「旅の地図」のようでした。
「そうだ、私も、自分のルーツをたどってみよう」
そこから、私自身の「ルーツの旅」が始まりました。
最初は行政書士としての興味でした。
しかし、辿るうちに——
それはまったく別の旅へと
変わっていったのです。
名前しか知らなかったご先祖。
聞いたことのない地名、
旧字で書かれた住所、
知らない親族の名。
それらが、まるで
呼びかけてくるようでした。
戸籍の裏側には、静かに生き、
忘れられてきた人生の痕跡がありました。
この旅が教えてくれたのは、
「私が今ここに在る理由」
そして、
「過去を知ることが、
これからの生き方に光を当ててくれる」
ということ。
これは単なる家系図づくりでは
ありませんでした。
一枚の戸籍から始まった、
“もうひとつの人生”との出会い。
——そんな気さえ、
しているのです。
初めに取り寄せたのは、
自分自身の戸籍。
相続の仕事で何度も見慣れた、
あの役所の書類です。
けれど、今回は違いました。
「この場所は……どこだろう?」
知らない地番、
見たことのない人の名前や旧字。
そこに記された“他人のような家族”に、
私は不思議と惹き込まれていきました。
「祖先のことなんて、あまり気にしてこなかった」
そんな私が、はっきりと気づいたのです。
戸籍は、ただの書類じゃない。
それは、“人生の設計図”であり、
“旅の地図”なのだと。
そこに刻まれた名前の
ひとつひとつが、
誰かの人生のしるし。
名前も顔も知らない
先祖たちの歩んだ道に、
私は静かに足を踏み入れていきました。
これは、忘れられた人生を、
誰かに手渡す旅なのかもしれない。
自分の過去をたどる旅が、
誰かの人生を変えるのだろうか?
そう思った瞬間、
心の奥に小さな火が灯りました。