陽菜の前では、“いつもの言葉”が、うまく出てこない。

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コラム
陽菜の言葉が、まだ胸の奥に残っている。
『「無理してる感じ」してた。』

凪は、何も返せなかった。
返そうと思えば、返せたはずなのに。

「そんなことない」とか。
「普通だよ」とか。

いつもみたいに。

でも、陽菜の前では、
その“いつもの言葉”が、
うまく出てこない。

夜の公園は静かだった。
ブランコの鎖が、風に揺れている。

街灯の光が、二人の影を長く伸ばす。

凪は、少しだけ下を向いた。

「……別に、頑張ってないし」
小さく言う。

その声は、自分で思っていたより弱かった。

陽菜は、すぐには返事をしない。

少しだけ首をかしげて、
凪を見ている。

“ちゃんと聞いてる”目だった。

「凪ってさ」
陽菜が静かに言う。

「いつも、“大丈夫な人”やってるよね」

その瞬間、凪の呼吸が、少しだけ止まる。

“大丈夫”。
その言葉は、ずっと自分を守ってきた。

迷惑をかけないように。
空気を壊さないように。
心配させないように。

そうしていれば、
ちゃんとここにいられる気がしていた。

「……そうしないと」
気づけば、口から漏れていた。

凪は、自分で少し驚く。
言うつもりじゃなかった。

でも、陽菜の前だと、
時々、本音が先に出る。

陽菜の目が、少しだけ揺れる。

「そうしないと?」
やわらかい声。

急かさない。

でも、逃げ道も作らない。

凪は、言葉を探す。

胸の奥が、少し苦しい。

でも、嫌な苦しさじゃない。

ずっと閉じていた場所に、
空気が入ってくるみたいな感覚。

「……嫌われるから」
小さな声。

風に消えそうなくらい。

でも、ちゃんと陽菜には届いた。

沈黙。

ブランコが、きい、と鳴る。

遠くで、車の音。

夜は静かなままなのに、
凪の胸の中だけが、
少しずつほどけていく。

陽菜は、すぐには何も言わなかった。

ただ、ほんの少しだけ近づく。
肩が触れそうで、触れない距離。

その温度だけが、近い。

「凪」
名前を呼ばれる。

それだけで、
胸の奥が、静かに揺れる。

「嫌われないように頑張るよりさ」
陽菜が、小さく笑う。

「凪が楽なほうが、見てて安心する」

その言葉に、凪の目が、少しだけ開く。

安心。

その言葉を、
こんなふうに言われたことはなかった。

“ちゃんとしてるから安心”じゃない。

“無理してないから安心”。

そんなふうに、
誰かに見られたことなんて、なかった。

凪は、ゆっくり息を吐く。

胸の奥が、少し熱い。

苦しいのに、どこか楽だった。

「……変なの」
凪が、小さく笑う。

陽菜も、少しだけ笑う。

その笑い方が、昨日より近い。

夜風が、二人の髪を揺らす。

ブランコが、また小さく鳴る。

その音の中で、
凪は、少しずつ気づき始めていた。

“好かれるための自分”じゃなくて、
“自分のままでいたい”と思ってしまう相手が、
ここにいることに。
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