ちゃんと目、合わせてね。

ちゃんと目、合わせてね。

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コラム
電話の向こうで、陽菜の笑い声がふわっと広がる。

その余韻が、耳に残る。

凪は、なぜかすぐに次の言葉が出てこない。

沈黙。

でも、
切りたくない。

このまま少し続いてほしい。

「……ねえ」
陽菜が、先に声を出す。

凪の心臓が、少しだけ跳ねる。

「なに?」

できるだけ普通に返す。

でも、少しだけ声がやわらいでいる。

陽菜が、少しだけ間をあける。

その“ため”に、ドキドキする。

「さっきさ」

ゆっくりと。

「迎えに行くって言ったじゃん」

凪の指が、スマホをぎゅっと握る。

「……うん」

陽菜が、少しだけ笑う。

「ほんとに行くからね」
その言い方。
軽いのに、逃げ道がない。

凪の頬が、少しだけ熱くなる。

「……そんな、わざわざ」
つい言ってしまう。

その瞬間、陽菜がかぶせる。
「わざわざじゃない」

少しだけ強い声。

でも、優しい。

「行きたいから行くの」
その一言。

まっすぐすぎて。
凪の心が、止まりそうになる。

言葉が出ない。

でも、嫌じゃない。

むしろ、うれしい。

凪は、少しだけ息を吸う。

「……じゃあ」
小さく。
でも、ちゃんと。

「待ってる」
その言葉が出た瞬間。

胸の奥が、ふっとほどける。

陽菜が、すぐに笑う。

「うん」

短い。
でも、すごく嬉しそう。

そのとき。

風が、またカーテンを揺らす。
夜の空気が、静かに流れる。

凪は、窓の外を見る。

暗いはずの夜が、
少しだけ明るく感じる。

「ねえ、凪」

陽菜が、もう一度呼ぶ。

「なに?」

今度は、少し自然に返せる。

陽菜が、少しだけ声を落とす。
「明日さ」

間。

「ちゃんと目、合わせてね」
その一言。

一気に、距離が近づく。

凪の心臓が、大きく鳴る。

逃げたくなる。
でも、逃げない。

「……うん」
少しだけ照れながら。

でも、ちゃんと答える。

電話の向こうで、陽菜がくすっと笑う。

その音が、やさしく響く。

通話は、まだ続いている。

もう言葉じゃない
空気が、つながっている。

そして、明日。

ただの帰り道だったはずの時間が、
“少しだけ特別な時間”に変わる。
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