夜の風がカーテンを揺らし、部屋の中にすっと忍び込んできます。
仕事や人間関係で少し疲れた夜、静けさに包まれると、
ふと心の奥の声が強く響いてくることはありませんか?
「まだ足りないんじゃないか」
「お前はもっとできるはずだ」
「このままでは取り残されてしまう」
その声は冷たく厳しい響きを帯びています。
まるで心の奥に潜む“悪徳裁判官”が、私に判決を下しているかのようでした。
どれだけ頑張っても、どれだけ与えられていても、
「まだまだだ」と責め立てる。
そんな声に背中を押されて走り続けてきたけれど、
気づけばいつも心は不安と不足感に追い立てられていたのです。
湯のみから立ちのぼる湯気を見つめていると、
ふと別の感覚が胸の奥に広がりました。
今日、誰かと交わした笑顔。
道端に咲いていた小さな花。
家に帰ったときに感じた、ほっとする安心感。
「それでも、ありがたいな」
そんな思いが浮かんできた瞬間、
胸の中にあたたかな灯りがともるのを感じました。
不思議と、そのとき悪徳裁判官の声は弱まっていきました。
彼は沈黙し、静かに身を引いたのです。
気づいたのです。
「もっともっと」と求め続ける間は、決して幸せにはなれない。
けれど、今あるものに「ありがとう」と目を向けると、
たちまち心は満ちていく。
努力することも大切だけれど、
同じくらい「足ることを知る」という姿勢が、
心を守り、豊かさを広げてくれるのだと。
夜風がまたカーテンを揺らしました。
私は目を閉じ、その静けさを胸いっぱいに吸い込みました。
悪徳裁判官がいつ再び現れても大丈夫。
今の私は、その声に呑まれず、
「ありがたい」とつぶやける自分を持っている。
その確かさが、深い安心となって、
静かな夜に溶け込んでいきました。