『アルバムと、老いた峰と。── 7月24日の午後に』

記事
コラム
今日は7月24日。
ベランダから入る風が、少しだけ秋の気配を連れてきていて──奈央は、ふと思い立って、本棚の奥から一冊のアルバムを引っぱり出した。

「卒業アルバムの日、なんだって」
朝のニュースがそんなことを言っていたのを思い出した。

ページをめくると、笑っている自分と、もう何年も会っていない友達の顔。
見慣れたはずの写真なのに、今日はやけに懐かしい。


午後になって、珈琲を淹れて、静かなドキュメンタリー番組を観ることにした。
テーマは──「天空の神秘、マチュ・ピチュ」。

「発見されたのは、1911年の7月24日」
語り手の男性が、落ち着いた声でそう話す。
偶然? それとも、なにかの縁?

画面に映ったのは、霧に包まれた山々と、石で築かれた不思議な都市。
青空に浮かぶようにして佇むその姿は、何百年も時を越えてそこにあることが、ただ不思議だった。

──なぜ、こんな場所に都市を?
──どうやって、こんなにも精巧な石を積み上げたのか?

「誰かの祈りが、そこに残ってる気がする」
奈央は、独り言のようにつぶやいた。


夕暮れ時。
風がやわらかくなってきたころ、奈央はアルバムのページを一枚だけめくって、そっと閉じた。

「あの頃の私は、いまの私を想像できたかな」
不思議と、マチュ・ピチュの「老いた峰」が重なって見えた。
時を超えて、何かを残すこと。
大切なものを、そっと抱いて、生きていくこと。

それは、あの石の都市のことでもあり、
自分の中の“記憶の街”のことでもあった。

そして今夜、奈央は眠る前に、日記帳に一言だけ書いた。

「懐かしいって、心の奥にちゃんと場所がある証拠だと思う」

ページを閉じた時、どこか遠くの山で、風が吹いた気がした。


サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら