ミミちゃんに会いたくて
うさぎのミミちゃんは喋ることができません。
もともと喋れなかったわけではないのです。
お父さんとお母さんとレストランに食事に行った帰り道、飲酒運転の車に突っ込まれました。
運転席と助手席に乗っていたお父さんとお母さんは即死でした。
そのショックからミミちゃんは喋ることができなくなってしまったのです。
それからミミちゃんはおばあちゃんと一緒に暮らしています。
おばあちゃんもお母さんも共に一人娘を授かるのが遅かったので、
おばあちゃんはもうすっかりおばあちゃんです。
幼稚園の頃から一緒に住んでいるおばあちゃんはとっても優しくて、学校に行っている以外の時間は、いつもミミちゃんの隣にいてくれています。
小学校のお友達も、先生たちも、ミミちゃんにとっても優しくしてくれます。
なかでも校長先生は常にミミちゃんのことを気にかけてくれていました。
みんなと喋れないミミちゃんを気にしていつも見守ってくれています。
こっそりとお菓子をくれたり、
風邪で学校を休んだ時には家にお見舞いに来てくれたりしたこともありました。
大きな体のくま校長先生は、体以上に大きな優しさと愛でいっぱいでした。
小学校を卒業して中学生になりました。
町にひとつしかない中学校は3つの小学校の生徒が通うことになります。
今まで小学校ではみんなが優しくしてくれました。
でも大きな中学校にはたくさんの人がいるので、ミミちゃんのことを馬鹿にしてくる人もいます。
ミミちゃんは喋れないけど、何を言っているのかは理解できます。
だからだんだんと学校に行けない日も出てきてしまいました。
困ったおばあちゃんは考えました。
くま校長先生に相談してみようと。
くま校長先生に会わせてあげようと。
そしてくま校長先生に会いに小学校へ行きました。
くま校長先生は今までと変わらない笑顔でミミちゃんを迎えてくれました。
帰りにはそっとお菓子を手に渡してくれました。
ミミちゃんはとっても嬉しくて、何かお礼をしたいと思いました。
それからミミちゃんとおばあちゃんは夕方に小学校に行くのが日課になりました。
おばあちゃんに教えてもらって作ったお菓子を持って。
クッキー。
チョコレート。
ドーナッツ。
あんまり上手には作れなかったけど、くま校長先生は嬉しそうに受け取ってくれました。
一週間がたった日、くま校長先生は学校を休んでいました。
次の日も、次の日も。
それでも毎日毎日学校に行きました。
すると五日目の日、
「いますよ。でも、、、」
と言って校長室に目をやりました。
担任だったリス先生はどこか後ろめたさからか、囁くように教えてくれました。
教頭先生が校長室に入っていくのが見えました。
でもくま校長先生はなかなか姿が見えません。
しばらくすると大きな体をやっとの思いでこちらに向かってくるくま校長先生がいます。
ゆっくりと時間をかけて、たった数メートルの距離が数百メートルもあるように。
目の前に来たくま校長先生はミミちゃんに話しかけました。
「ごめんね、ミミちゃん。
先生はね、大きな病気にかかっているの。
これから病院に行って入院しなくちゃいけない。
今日はね、荷物を撮りに来たの。
ごめんね、ミミちゃん、
明日からは会ってあげられないの。」
ミミちゃんの目からは大きな涙がつたいました。
「うーえー、こおおたおて、
えんいにぃ、あっええ」
ミミちゃんは持っていたお菓子を差し出しながら、一生懸命しゃべりました。
心の中ではこういいました。
「先生、これを食べて、
元気に、なって」と。
一生懸命喋った言葉が伝わったのか、
くま校長先生の目にも涙が溢れています。
その日からくま校長先生は病院に入院しました。
ミミちゃんはとっても会いたかったけれど、くま校長先生の病室に入っていい人は限られていました。
それはくま校長先生の家族と、交代でお世話のお手伝いをする小学校の先生たちだけです。
ミミちゃんはくま校長先生のことが気になり、何も手につかず、完全に中学校にも行けなくなってしまいました。
その代わり毎日毎日病院の前に来て、くま校長先生がいるであろう病室を見上げていました。
手にはお菓子を持って。
おばあさんも何も言わず、ミミちゃんに寄り添っています。
ある時、ミミちゃんたちの前にリス先生が来ました。
そしてこう言います。
「今だったらご家族はいないから、5分だけだったら会わせてあげる」
リス先生は毎日ミミちゃんが来ていることを知っていたのです。
そしてルールを破ってでも、もしかしたら、もう二度と会えなくなってしまうことを考えたら、
いてもたってもいられなくなってしまったのです。
ミミちゃんたちはそっと病室に入りました。
くま校長先生は寝ています。
いや、起きていたとしても、意識が朦朧としていて、たぶん目の前にミミちゃんたちがいることにすら気づいていないでしょう。
ミミちゃんはくま校長先生の手を取ってこう言います。
「えんえい、ああ、あいたお、あおうぇ」
ミミちゃんはほんの数分間だけど、くま校長先生に会うことができました。
おばあさんは久しぶりに笑っているミミちゃんの姿を見ることができました。
ミミちゃんたちが帰ってからリス先生がくま校長先生の体を拭いてあげると、
握られていた手のひらから溶けたチョコレートを発見しました。
なんだろう?これ?
と思っていると、くま校長先生が何日かぶりに目をあけました。
手を綺麗に拭いてあげようとしてチョコレートを取り上げようとすると、
くま校長先生はぎゅっとチョコレートを握りしめました。
そしてこう言います。
「リス先生。
私ね、ずっと夢を見ていたの。
ミミちゃんが私のことをずっと呼んでくれるんだけど、その姿は見えないの。
ミミちゃんの存在をわかっているはずなのに、ミミちゃんの顔が思い出せないの。
ずっとずっとそのことが悲しくてね。
寂しくて泣きそうになっていたら、、
暖かい風が吹いて、眩い光の中に包まれたの。
そしたらね、手のひらの中に小さなチョコレートが入っていたの。
ミミちゃんはここに来てくれたのかしら?」
リス先生は涙をポロポロこぼしながら答えました。
「ええ。
ミミちゃんは毎日校長先生に会いに来てくれていましたよ。」
その言葉を聞いてくま校長先生は微笑むと、また眠りにつきました。
さっきよりもずっと穏やかな顔で。
手にはチョコレートを握りしめたまま。
翌日リス先生が病室に行くと、
くま校長先生はまばゆい太陽を、
大きな体いっぱいに浴びていました。
お医者さんはゆっくりと休めたことが回復に向かったのだろうとおっしゃっていました。
でもくま校長先生も、リス先生も、話を聞いた他の先生たちも、みんな知っています。
ミミちゃんの優しさが一番の薬だったことを。
10年後、
ミミちゃんは看護師になりました。
喋れないけれど、
誰よりも優しい看護師。
喋れないけれど、
誰よりも思いやりのある看護師。
たくさんの人がくま校長先生のような
奇跡を体験することになります。