【短編小説】籠の中の少女

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「今日からここがお前の家だ」

 そう言って連れてこれらたのは、マンションの一室だった。
 いままで住んでいたところとは、比べ物にならないくらいにキレイな部屋だ。こんなキレイな所に、物心ついた頃から住んでいたなら、もっと違った人生があったのかもしれない。そんなことを妄想したくなるくらいに。
 だけど、ここは私の牢獄だ。
 キレイに見えても、勝手に出ることは出来ない牢獄だ。
 なぜなら、私はここへ、売られてきたのだから。

          *

「はーい。今日は荷物が届く日です。今、届きました。早速開けて中を見ていきましょう」

 テープを引き剥がして箱を空ける。

「えーっと、まずは、木の棒? なんでしょう、武器でしょうか。今度来た人を殴ってみましょうか。あとは、木の板。デカいですね。まな板の倍くらいの大きさがあります」

 よくわからない道具が続いて、その後に粉の入った袋が出てくる。

「えっと、これは、『そば粉』って書いてありますね。粉をどうすればいいんでしょうか。吸うのかな」

          *

 1LDKの二部屋のうち、リビングとダイニングキッチンを兼ねた部屋にはカメラが置いてある。
 システムキッチンを斜め前から映すのが一台。
 部屋の入り口から中央を狙うように一台。
 そして部屋の隅からテーブルを見下ろすように一台。
 三台のカメラで部屋中を映している。

 映像はネットで公開されるらしい。なんでもそれが金になるらしく、稼いだ分だけ借金から引いてくれるらしい。どうせ見るのは、ハダカ目当ての変態どもだろう。
 そう思っていた。だが、案内した男は下着姿でうろつかないようにとか、お風呂の後もパジャマを着てから部屋に入るようにとか、そんなことばかりを言ってくる。じらす趣向なんだろうか。面倒臭い。

          *

「それでは、『そば粉』を使った料理をしていきたいと思います。コメントくれた方、ありがとうございます。麺を作るのは難しいとのことなので、まずは『蕎麦がき』に挑戦です」

 キッチンでそば粉とお湯を、均等になるまで混ぜる。
 それを強火にかけて、水分が飛んで粘りが出るまで。そうレシピサイトには書かれていたけど、粘りというのがどのくらいなのかサッパリだ。なんか固くなってくるのは分かっても、どこまでやればいいのかが分からない。適当に手が疲れたくらいで止める。

「あっと、少し焦げたところが出ていますね。大丈夫でしょうか。とりあえず、ツユにつけて頂いてみましょう」

「……うーん、微妙。味のない煎餅みたいです。これツユだけ舐めてても変わらなくないですか?」

「それでは午後は『手打ちそば』に挑戦してみたいと思います」

          *

 隣にある寝室には、目に見える所にはカメラはない。
 ベッドとタンスがあるだけの殺風景な部屋だ。
 どうせ、どっかに隠してあるんだろうけど。
 それともカメラには映さずに、ここで売りをやれとでも言われるだろうか。そのためにカメラの前では服を着た姿で興味を引く。ありがちな話だ。

 だが、部屋を案内した男は、売りの話をしない。
 食べ物は二日に一度届けるとか、必要なものがあればその時に言えだとか、暮らしていくための話しかしない。
 タンスの中には数着の衣服とパジャマ、そして下着。すべて地味なものばかりだ。楽な恰好ってやつだ。楽ではあっても|釣れる《・・・》服じゃない。頭悪いのかあのおっさん。

          *

「それでは、今日は、このゲームで、運動を、していきたいと、思います。もう、やる前から、疲れてます」

 ガッシャンガッシャンとコントローラーを動かす。固い。

「んぎいぃぃぃ」

 早く攻撃しろよ、待たせんがあぁぁぁ。

「ぜえ、ぜえ、ぜえ」

 無理。もう無理。

「んにゃあぁぁぁぁ」

 ばたり。

「はい、なんとか、勝てました。これで、今日は、おしまい、です」

 這うように寝室に移動して、ベッドに倒れる。

          *

 届いた|食べ物《・・・》てやつは、材料だった。
 なんだよ弁当じゃないのかよ。こんなもの寄越しやがって。料理なんて出来るわけないだろうが。
 玉ねぎにかじりつく。

「ばっ、ごほっ、ごほっ」

 ありえないくらい辛い。食えないじゃねえかよ。
 キュウリにかじりつく。こっちは平気だ。一本食い切れば、とりあえず腹は一杯になる。
 あと2本ある。2日に一度だっけ。まあ、そこまでは死なずには済むな。でも文句は言ってやんないと。
 あとは、米? 固いな。弁当に入ってる米とは違う。とりあえず口に入れてみる。

 ガリッ。

「ペッ」

 固くて食えたもんじゃねえ。なんだこれ。

          *

「お゛あよー」

 ずるずると足を引きずるように寝室から出て、かすれた声で挨拶だけ口にする。
 なにを求めてるのかは知らないが、朝の起きる時間あたりでも見ているヤツらが結構いるらしい。挨拶くらいしろ。この前の荷物と一緒に、そんな話をされた。

 なんとかキッチンまで辿り着き、パーコレーターをセットする。
 初めからキッチンにあったものだけど、使い方が分からずに放置してあったやつだ。分からないまま、暇に飽かせていじってたら、コメントで教えてくれる人がいた。
 コーヒー豆も荷物の中に入っていたのがそうだった。
 お湯を入れても溶けないから、変だとは思ってたんだ。

「あ゛ーーーー」

 ずずっとコーヒーを口にすると生きてることを思い出す。
 タブレットを取り出して見ると、見覚えのある名前のヤツらが挨拶を返してくれる。
 ……結構、いるな。こんな時間に、なにしてんだこいつら。

          *

 文句は聞き流された。
 この部屋の映像は見ていたらしく、足りないものは入れておいたという。荷物が入った箱だけ残して、男は去っていった。

「なんだこれ」

 入っていたのは食べ物の他には料理の本と、タブレット。
 タブレットには、ご丁寧にも使い方がついている。そんなものなくても使えるんだよ。スマホの画面がでかいだけのもんだろ。
 電源を入れるとアイコンが一つだけあって、タップすると米の炊き方の説明動画が流れ出す。

「料理を覚えて下さい、だと。くそが」

 それでも空腹よりはマシだ。調べてみると、キッチンに炊飯器があった。

「なんだよ。簡単なんじゃねえか」

 米と水を入れてスイッチを押すだけ。それで固かった米が柔らかくなる。食えるようになる。
 料理なんてチョロいな。

          *

 この部屋に来て、何日も経った。
 何日なのかは数えてないから知らない。
 二日毎の荷物は今も届いている。
 ただ暮らしているだけの映像なんて、誰得なのかわからない。それは今でもだ。食料が届いているってことは、その分くらいは儲けがあるのかね。

 荷物が届いた時に、一言、二言程度には会話がある。足りないもの、そろそろなくなりそうなもの。まだ脱げとも、売れとも言われてはいない。逆にだらしない恰好をするなとか、朝は何時ころには起きろとか、そんなことを言われる。

 カメラ越しの見世物。
 インターネット型の動物園。
 格子の見えない籠の中。
 私はここで飼われている。

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