最短距離を進むことが、いつも正解だと思っていました。
無駄を省き、すぐに成果を出す。それが「できる人」の証のように感じていたからです。
けれど、デザインの仕事をしていると、まっすぐ進めない場面に何度も出会います。
イメージが定まらない、色がしっくりこない、言葉が浮かばない──
そんな時間を「遠回り」と感じることもありました。
でも、あるとき気づいたのです。
その“まわり道”こそが、デザインの奥行きを生んでいるのではないかと。
まわり道には、3つの力があると思います。
ひとつは、観察力。
寄り道をすると、いつもと違う景色が見えます。
ふとした会話や、通りすがりの色の組み合わせが、
思いがけずデザインのヒントになることがある。
最短ルートを進んでいたら、きっと見落としていたものたちです。
ふたつめは、共感力。
悩んだり、行き詰まったりした経験があると、
相手の“迷い”にも気づけるようになります。
まっすぐなデザインよりも、少し揺らぎを残したデザインのほうが、
人の心を動かすのはそのためかもしれません。
そして最後は、深み。
時間をかけた分だけ、作品に温度が宿る。
まわり道の途中で感じた小さな感情や記憶が、
仕上がりの空気をやわらかくしてくれる。
効率を重んじる世の中では、まわり道はしばしば「ロス」に見えます。
けれど、デザインは効率だけで生まれるものではありません。
遠回りした時間の中で、見る力・感じる力・伝える力が育っていく。
最短距離を走るよりも、
最深距離を進むことのほうが、きっと本当の近道。
そう思えるようになってから、
私は“止まること”や“考えること”を恐れなくなりました。
まわり道は、いつも私に大事なことを教えてくれます。
焦らず、丁寧に、感じながら進む。
その先に生まれるデザインは、きっと誰かの心に、静かに届くはずです。