なぜ私は比べてしまうのか──「あの子より上」を求める心の裏側

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コラム

始まりは些細な違和感から


「ダイキさん、最近、何だか疲れちゃって...」

30代前半のクライエントは、カウンセリングルームのソファに座ると、小さくため息をついた。目の下には薄いクマができている。

「職場でも、友達との集まりでも、何というか...」

言葉を探すように天井を見上げる。

「いつも誰かと比べられてる感じがするんです」

ダイキ「比べられてる」

繰り返すように言うと、クライエントは少しうつむいた。

「はい。給料がどうとか、彼氏がどうとか、結婚がどうとか。みんな、さりげなく自分の方が上だってアピールしてくる感じで」

その声には、戸惑いと、そして少しの怒りが混じっていた。

ダイキ「最近、そう感じることが増えた?」

「...そうですね。前からあったのかもしれないですけど、最近、特に気になって」

クライエントは自分の手をじっと見つめながら続けた。

「何でみんな、そんなに競争したがるんですかね」

女子会での出来事


ダイキ「具体的に、どんな時にそう感じますか?」

クライエントは少し考えてから、話し始めた。

「この前、久しぶりに大学時代の友達と会ったんです」

ダイキ「うん」

「4、5人で集まって。そしたら、一人が婚約したって話になって」

少し間が空く。クライエントは言葉を選ぶように、ゆっくりと話す。

「最初は『おめでとう!』ってみんなで喜んだんです。本当に嬉しかった。でも、その後が...」

ダイキは黙って頷く。クライエントが続けるのを待った。

「『私の婚約者、年収結構いいの』って、さりげなく言い出して。『海外旅行も行けそう』とか」

クライエントの表情が、少し曇る。

「で、別の子が『私も最近、いい人見つけたんだ』って、対抗するみたいに話し出して。『職業は〇〇で』『年齢は』『どこで知り合って』って」

ダイキ「それで?」

「私...何も言えなくて」

クライエントの声が、少し小さくなった。

「彼氏もいないし、年収も別に高くないし。その場にいるだけで、何だか...惨めな気持ちになっちゃって」

そう言って、クライエントは膝の上で手を握りしめた。

部屋に、しばらく沈黙が流れる。

ダイキは急かさずに待った。

「帰り道、一人で泣きそうになりました」

その言葉は、小さくて、でも確かだった。

自分への嫌悪


ダイキ「その時、どんな気持ちでしたか?」

クライエントは、ゆっくりと顔を上げた。

「...悔しいっていうか、置いてけぼりにされた感じ。『私だけ取り残されてる』って」

「うん」

「でも同時に、『なんで私、こんなこと気にしてるんだろう』って思って」

クライエントは、自分の膝を見つめながら続けた。

「友達が幸せならそれでいいはずなのに。なのに、素直に喜べない自分が...すごく嫌で」

その声は、少し震えていた。

ダイキ「嫌、ですか」

「はい。『私、性格悪いな』って。本当は祝福したい気持ちもあるのに、心のどこかで妬ましく思っちゃう自分が」

クライエントの目に、うっすらと涙が浮かんだ。

「SNS見ても同じなんです。友達が結婚式の写真上げてたり、旅行の写真上げてたり。『いいな』って思うけど、その後に『それに比べて私は...』って落ち込んで」

ダイキは、静かに頷いた。

「つらいですね」

「はい...」

クライエントは、そっとハンカチで目元を押さえた。

進化心理学が教えてくれること


少し間を置いてから、ダイキはゆっくりと話し始めた。

ダイキ「実は、今あなたが感じているその感情は、とても自然なものなんです」

クライエントは、少し驚いたように顔を上げた。

「え...?」

「変だと思われるかもしれませんが、女性同士が互いに比較し合うのは、ある意味、本能的な行動だと考えられているんです」

「本能...ですか?」

ダイキは、少し前のめりになって説明を続けた。

「人類の歴史の大部分、私たちの先祖は狩猟採集生活を送っていました」

クライエントは、ゆっくりと頷く。

「その時代、女性にとって『どんな男性と一緒になるか』は、自分と子どもが生き延びられるかどうかに直結していたんです」

「...」

「強くて、狩りが上手で、資源を持ってくる男性。そういう『優れたパートナー』は、限られていました」

ダイキは、一呼吸置いた。

「つまり、同性の他の女性は、ある意味『ライバル』だったんです」

クライエントの表情が、少しずつ変わっていく。

「だから、無意識に『私の方が優れている』とアピールしたり、他の女性の魅力を相対的に下げようとする行動が、生き残るための戦略として発達したと考えられています」

「...じゃあ」

クライエントは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「あの人たちが自慢してくるのも、私が悔しくなるのも、全部...本能みたいなものなんですか?」

ダイキ「完全にそうとは言えません。でも、そういう側面はあります。特に、結婚や恋愛、外見、経済力といった『パートナー獲得に有利だった要素』について、競争が起きやすいんです」

クライエントは、じっと考え込んでいた。

自分の中の競争心


しばらく沈黙が続いた後、クライエントが口を開いた。

「でも...」

その声は、少し小さい。

「私も、正直なところ、友達が成功してると...ちょっと妬ましく思うことあるんです」

ダイキ「うん」

「特に、SNSで幸せそうな写真見た時とか。『いいな』って思うと同時に、『それに比べて私は』って落ち込んで」

クライエントは、自分の手を見つめながら続けた。

「でも、本当は、友達のことを祝福したい気持ちもあって。なのに...」

言葉が詰まる。目に涙が浮かんでいた。

「なのに、素直に喜べない自分が、すごく嫌で...」

その瞬間、クライエントの涙がひとつ、こぼれた。

ダイキは、静かに待った。急かすことはしない。

クライエントは、ハンカチで涙を拭いながら、小さな声で言った。

「私、どうしたらいいんでしょうか」

気づきへの扉

ダイキは、穏やかな声で尋ねた。

ダイキ「その『嫌だ』という気持ちは、どこから来ていると思いますか?」

クライエントは、ハンカチを握りしめたまま、じっと考えた。

部屋には、時計の秒針の音だけが響いている。

30秒、1分...

やがて、クライエントがゆっくりと口を開いた。

「...私、多分」

声が震えている。

「自分に、自信がないんだと思います」

その言葉は、小さいけれど、確かな重みがあった。

ダイキは、静かに頷いた。

クライエントは、涙を拭きながら続けた。

「他の人と比べて、自分が劣ってるって感じるのが、すごく怖くて」

「うん」

「だから、マウンティングされるのも嫌だし...でも、自分も無意識に人と比べちゃう」

クライエントは、自分の手をじっと見つめた。

「『あの子より私の方が』とか、『私はまだマシ』とか。心のどこかで、そう思ってる自分がいるんです」

その告白の後、クライエントは静かに泣いた。

ダイキは、その涙を否定しなかった。ただ、静かに寄り添うように座っていた。

競争の根っこにあるもの


しばらくして、クライエントが落ち着きを取り戻した頃、ダイキは静かに尋ねた。

ダイキ「その『自信のなさ』は、いつ頃からあると思いますか?」

クライエントは、ゆっくりと考えた。

「...昔から、かもしれません」

「昔から?」

「小さい頃から、親に『もっと頑張りなさい』って言われ続けて育ったんです」

クライエントの声が、少し遠くを見るような響きになった。

「テストの点数も、部活の成績も、いつも『もっと上を目指せ』『〇〇ちゃんはもっとできてる』って」

ダイキ「比べられていた」

「はい。だから、多分、ずっと誰かと比べられてきたんだと思います」

クライエントは、少しずつ落ち着いてきた様子で、言葉を続けた。

「自分の価値を、順位とか、相対的なもので測る癖がついちゃってて」

「なるほど」

「『〇〇より上』『〇〇より下』。いつもそういう物差しで、自分を見てきた気がします」

クライエントは、深く息を吐いた。

「疲れますよね...ずっと競争してるみたいで」

転換点


ダイキは、優しく言った。

ダイキ「大切な気づきですね」

クライエント「...そうですか?」

「はい。今、あなたが語った言葉の中に、とても大切なヒントがあります」

クライエントは、少し不思議そうな顔をした。

「『自分の価値を相対的なもので測る』という言葉です」

「...」

「もし、自分の価値を、他人との比較ではない別の基準で測れたとしたら、どうでしょうか?」

クライエントは、少し考え込むような表情になった。

「別の基準...?」

ダイキ「例えば、『今日、自分は何を大切にできたか』『今日、どんな小さな喜びがあったか』。そういう、自分の内側にある基準です」

「内側...」

「結婚しているかどうか、年収がいくらか、といった外側の基準ではなく」

ダイキは、ゆっくりと言葉を選びながら続けた。

「『自分は今、どう生きたいか』『何を大切にしたいか』という基準です」

クライエントは、じっと考えている。

部屋に、また静かな時間が流れた。

やがて、クライエントが小さく頷いた。

「...それができたら、楽になれそうですね」

「簡単ではないですよ」

ダイキは、正直に言った。

「長年染み付いた価値観を変えるのには、時間がかかります」

「...そうですよね」

「でも」

ダイキは、優しく続けた。

「まず気づくことが第一歩です。『今、私は人と比べている』『今、マウンティングを感じている』。そう気づくだけでも、その感情に飲み込まれにくくなります」

クライエントは、少し前を向くような表情になった。

「気づくこと...」

「そうです。気づくことから始めましょう」

小さな一歩


クライエントは、少し考えてから言った。

「じゃあ、まず...今度また『比べちゃってるな』って思ったら、立ち止まって、自分に『今、比べてるね』って声をかけてみます」

ダイキ「いいですね」

「すぐには変われないかもしれないけど...」

クライエントは、少し安心したような表情で、深く息を吐いた。

「でも、こうやって話して、少し楽になった気がします」

もう一つの視点

ダイキ「ちなみに、もう一つ興味深い研究があります」

クライエント「...何ですか?」

「女性の競争心は、ホルモン周期によっても変化することが分かっているんです」

クライエントは、少し驚いた表情を見せた。

「ホルモン...ですか?」

「はい。排卵期前後、つまり最も妊娠しやすい時期には、無意識に他の女性を『ライバル』として認識しやすくなることが研究で示されています」

ダイキは、ゆっくりと説明を続けた。

「その時期には、自分をより魅力的に見せようとする行動が増えたり、他の女性の魅力を評価する目が厳しくなったりするんです」

「へえ...」

「これも、子孫を残すための本能的な戦略の名残りと考えられています」

クライエントは、少し考え込むような表情になった。

「そう言われてみれば、時期によって、人と比べちゃう度合いが違う気がします」

「そうですか」

「生理前とか、特にイライラして、友達のSNS見ては『何でみんなそんなに幸せそうなの』って落ち込んだり」

ダイキ「それも、ホルモンの影響かもしれませんね」

クライエントは、少し安心したような表情を見せた。

「そうか...全部、自分の性格のせいじゃないんですね」

「性格というより、人間の自然な反応です。でも」

ダイキは、優しく続けた。

「だからといって、その感情に支配される必要はありません。気づいて、受け入れて、そして『今、私はホルモンに影響されてるな』と理解するだけでも、楽になれます」

具体的な対処法


クライエント「他にも、何か...できることはありますか?」

ダイキは、少し考えてから言った。

ダイキ「いくつか提案できることがあります」

「お願いします」

「まず一つ目は、『比較日記』をつけてみること」

クライエント「比較日記...?」

「はい。『今日、どんな時に人と比べたか』『その時、どんな気持ちだったか』を記録するんです」

ダイキは、具体的に説明を続けた。

「例えば、『友達のSNS見て比べた。悔しかった。でも、よく考えたら私も今日、美味しいランチ食べて幸せだった』みたいに」

「なるほど...」

「書くことで、自分のパターンが見えてきます。どんな時に比べやすいか、どんな感情が出やすいか」

クライエントは、頷きながら聞いている。

「二つ目は、『感謝リスト』を作ること」

「感謝リスト?」

「寝る前に、その日の小さな良かったこと、感謝できることを3つ書くんです」

ダイキは、優しく説明した。

「『今日、晴れて嬉しかった』『コーヒーが美味しかった』『同僚が優しかった』。本当に小さなことでいいんです」

「...」

「他人と比べる視点から、自分自身の良かったことに目を向ける練習です」

クライエントは、真剣な表情で聞いていた。

「三つ目は、SNSとの距離を見直すこと」

「ああ...」

クライエントは、少し苦笑いした。

「もし、SNSを見て比べてしまうことが多いなら、一時的にアプリを削除するとか、見る時間を決めるとか」

「確かに、見すぎてるかもしれません」

「SNSは、みんなの『良いところだけ』を切り取った世界です。それと自分の『日常すべて』を比べたら、苦しくなるのは当然です」

クライエントは、深く頷いた。

「そうですよね...みんな、苦労してるところは投稿しないですもんね」

「そして、四つ目」

ダイキは、少し間を置いてから言った。

「自分の『価値観リスト』を作ることです」

「価値観リスト...」

「『自分は何を大切にしたいのか』『どんな時に幸せを感じるのか』を書き出すんです」

クライエントは、じっと聞いている。

「それが明確になると、他人の価値観に振り回されにくくなります」

「...やってみます」

クライエントは、静かに決意を込めて言った。

カウンセラーからの最後の言葉


ダイキ「最後に、一つだけ覚えておいてほしいことがあります」

クライエント「はい」

「マウンティングをする人も、実は同じように苦しんでいることが多いんです」

クライエントは、少し驚いた表情を見せた。

「...そうなんですか?」

「はい。『自分の方が上だ』とアピールする人は、心の奥底で『自分は十分じゃないんじゃないか』という不安を抱えていることが多いんです」

ダイキは、穏やかな声で続けた。

「だから、必死に自分の価値を証明しようとする。他の人に認めてもらおうとする」

「...」

「つまり、マウンティングをする人も、される人も、根っこにあるのは同じ『自信のなさ』なんです」

クライエントは、じっと考え込んでいた。

「そう考えると...少し、その人たちのことも理解できる気がします」

「そうですね」

ダイキは、優しく微笑んだ。

「人は皆、何かしらの不安や恐れを抱えて生きています。それを責める必要はありません。ただ、気づいて、受け入れて、少しずつ変わっていければいいんです」

クライエントは、静かに頷いた。

「ありがとうございます」

「これからも、ゆっくりで大丈夫ですから」

ダイキは、最後にこう付け加えた。

「自分に優しく、他人にも優しく。そして、自分の人生を生きてください」

クライエントは、来た時よりも、ずっと軽い表情をしていた。

カウンセリングルームを出る時、その背中は、少し真っ直ぐになっていた。

対話を終えて


この対話の数週間後、クライエントからメッセージが届いた。

「先日、また友達と会ったんですが、前よりは楽でした。『あ、今比べてる』って気づけたので。まだ完璧じゃないですけど、前より自分に優しくできてる気がします」

小さな一歩。でも、確かな一歩だった。

まとめ


マウンティングや女性同士の競争は、単なる「性格の悪さ」ではありません。進化の過程で形成された本能的な側面もあれば、幼少期からの価値観の刷り込みもあります。

大切なのは、自分の感情に気づき、それを受け入れること。そして、他人との比較ではなく、自分自身の内側にある価値観を育てていくこと。

それは簡単な道のりではありませんが、気づくことから、変化は始まります。



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