『将来が不安で』と貯金を続けた私が、本当は何を恐れていたのか

記事
コラム

言葉にならない不安


その日、オンラインカウンセリングの画面に映ったクライエントは、どこか疲れた表情をしていた。

クライエント「お久しぶりです、ダイキさん。今日もよろしくお願いします」

ダイキ「こんにちは。お久しぶりですね。お元気でしたか?」

クライエント「まあ、元気といえば元気なんですけど......最近、すごく悩んでいることがあって」

少し間があいた。クライエントは言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。

クライエント「実は、転職を考えているんです。今の仕事も悪くはないんですけど、学生の頃に勉強していたマーケティングの仕事がしたくて。でも、未経験だからスクールに通ったり、資格を取ったりしないと厳しいかなと思っていて」

ダイキ「なるほど、マーケティングの仕事をしたいと。それで、スクールや資格を検討されているんですね」

クライエント「はい。でも......」

そこで、クライエントは言葉を詰まらせた。何か言いたいことがあるのに、うまく言葉にできない様子だった。

ダイキ「でも?」

クライエント「......お金が、かかるじゃないですか。スクールも30万とか50万とかするし、資格も受験料だけじゃなくて勉強のための教材費とか。貯金はそれなりにあるんですけど、減らすのが......なんか、怖くて」

「怖い」という言葉を口にした瞬間、クライエントの表情がさらに曇った。

貯金という安心


ダイキ「お金が減ることが怖い、と」

クライエント「はい。なんか、変ですよね。自分でもおかしいなって思うんです。だって、スキルを身につければ、将来的にもっと稼げるかもしれないのに。でも、いざ貯金を崩そうとすると、『これ使っちゃって大丈夫かな』『もし失敗したら』って考えちゃって」

ダイキ「その『もし失敗したら』というのは、具体的にどんなイメージですか?」

クライエント「えっと......スクールに通っても、結局転職できなかったらどうしようとか。お金だけ使って、何も得られなかったら......って」

クライエントは小さく息を吐いた。

クライエント「あと、今って貯金が400万円くらいあるんです。実家暮らしだから、家賃もかからないし、コツコツ貯めてきて。でも、これを使っちゃったら、もう戻らないじゃないですか。それが、すごく不安で」

ダイキ「400万円を、コツコツ貯めてこられたんですね」

クライエント「はい。社会人になってから、毎月決まった額を貯金してきました。最初は10万円くらいだったけど、昇給したタイミングで15万にして、ボーナスも全部貯金に回して......」

その声には、どこか誇らしさと同時に、苦しさが混じっていた。

ダイキ「それだけ貯められたのは、すごいことですね。でも、その貯金を使うことに対して、強い抵抗があると」

クライエント「そうなんです。なんでこんなに抵抗があるのか、自分でもよくわからなくて」

「備え」の正体


ダイキ「貯金をすることで、何を守ろうとしているんでしょうね」

クライエント「......安心、ですかね。将来、何があるかわからないから」

ダイキ「将来、何があるかわからない」

クライエント「はい。たとえば、病気になったらとか、親に何かあったらとか。あと、会社が倒産したらとか......いろいろ考えちゃうんです」

ダイキ「なるほど。もしもの時のために、貯金があると安心できる」

クライエント「そうです。だから、減らしたくないんです。でも、一方で、今のままじゃずっと同じ仕事を続けることになるし、それも嫌で......」

そう言いながら、クライエントは深いため息をついた。

ダイキ「貯金を守りたい気持ちと、新しいことに挑戦したい気持ちの、両方があるんですね」

クライエント「はい......どっちを選んでも、後悔しそうで」

少しの沈黙の後、ダイキは静かに尋ねた。

ダイキ「ちょっと聞いてもいいですか? その『将来の不安』って、いつから感じるようになったんでしょう」

クライエント「......いつからだろう。たぶん、子どもの頃からかな」

母の言葉


クライエント「うちの母が、すごくお金に厳しい人だったんです」

ダイキ「お金に厳しい、というと?」

クライエント「無駄遣いは絶対にダメ。必要最低限のものしか買わない。あと、『女はお金を持っていないとダメになる』ってよく言ってました」

クライエント「母は専業主婦だったんですけど、父が給料を全部渡してくれるわけじゃなくて。母は『もっと自分でお金を稼いでおけばよかった』『お金がないと選択肢がなくなる』って、よく愚痴っていて」

ダイキ「お母さんの経験が、あなたの中にも影響しているのかもしれませんね」

クライエント「......そうかもしれません。私、中学生くらいから、お金のことをすごく気にするようになったんです。バイトもして、でも使わないで全部貯めて。大学の学費も自分で出したくて、奨学金を借りて......」

クライエント「だから、社会人になって貯金ができるようになった時、すごく安心したんです。『これで、私は大丈夫』って」

ダイキ「お金があることが、安全の証だったんですね」

クライエント「......はい」

クライエントの声が、少し震えた。

クライエント「でも、いくら貯めても、不安は消えないんです。400万あっても、500万あっても、きっと足りないって思うんだろうなって」

その言葉を口にした瞬間、クライエントは自分でも気づいていなかった何かに触れたような表情をした。

予測できない未来


ダイキ「貯金を増やし続けても、不安は消えない」

クライエント「......そうですね。実際、400万貯まっても、やっぱり不安なままで」

ダイキ「それはなぜだと思いますか?」

クライエント「......わからないです。でも、なんか、いくら貯めても『足りない』って思っちゃうんです」

ダイキ「未来に何が起こるか、わからないから」

クライエント「はい」

ダイキ「でも、貯金をいくら増やしても、未来に何が起こるかは、コントロールできないですよね」

クライエントは、その言葉にハッとした表情を見せた。

クライエント「......そうですね。どんなに貯金しても、予想外のことは起きますよね」

ダイキ「そうなんです。貯金というのは、未来への『予測』なんです。『もしかしたらこういうことが起きるかもしれない』という予測に基づいて、備えている」

クライエント「予測......」

ダイキ「でも、予測って、どこまでいっても予測でしかないんですよね。当たるかもしれないし、外れるかもしれない」

クライエント「......たしかに」

ダイキ「一方で、スキルを身につけるというのは、未来への『コントロール』なんです」

クライエント「コントロール?」

ダイキ「はい。自分の能力を高めることで、どんな状況になっても対応できる力をつける。それは、予測とは違って、自分でコントロールできることです」

クライエントは、しばらく黙って考え込んでいた。

クライエント「......なるほど。貯金は、『もしも』のための備え。でも、スキルは、『どんな時でも』使える力」

ダイキ「そうですね。貯金がなくなることはあるけど、身につけたスキルは、誰にも奪われない」

クライエント「......そっか」

その言葉を、クライエントはゆっくりと噛みしめるように繰り返した。

手持ちの資源から始める


ダイキ「今、貯金を使うことに抵抗があるのは、すごくよくわかります。でも、一つ質問してもいいですか?」

クライエント「はい」

ダイキ「もし、お金を使わずに、今できることがあるとしたら、何かありそうですか?」

クライエント「お金を使わずに......?」

ダイキ「たとえば、マーケティングの勉強を少しずつ始めてみるとか。無料のオンライン講座を受けてみるとか。今の仕事の中で、マーケティング的な視点を取り入れてみるとか」

クライエント「......ああ、そういうのもありますね」

ダイキ「いきなり50万円のスクールに申し込む必要はないんです。まずは、今あるもので始めてみる。それで、『やっぱりこの道に進みたい』と確信が持てたら、その時にお金をかければいい」

クライエント「......そうか。いきなり大きく動かなくても、いいんですね」

ダイキ「そうです。起業家の研究で、こんな考え方があるんです。『未来を予測しようとするよりも、今ある資源を使って、コントロールできる範囲から始める』という」

クライエント「今ある資源......」

ダイキ「あなたには、すでにマーケティングの基礎知識がある。それに、現在の仕事で培ったスキルもある。まずは、それを使って小さく始めてみる。それが、最初の一歩になるかもしれません」

クライエントは、少しずつ表情が明るくなっていった。

クライエント「たしかに......いきなり『400万円を使う』って考えるから、怖くなるのかもしれません。でも、まずは無料でできることから始めて、それで様子を見てみる」

ダイキ「そうですね。そして、少しずつ進んでいく中で、『ここにはお金をかける価値がある』と思えたら、その時に使えばいい」

クライエント「......なんか、すごく気持ちが楽になりました」

失敗を許容する


ダイキ「それと、もう一つ。あなたは『失敗したらどうしよう』って、すごく心配していましたよね」

クライエント「はい......」

ダイキ「でも、小さく始めれば、失敗してもダメージは小さいんです」

クライエント「......ああ」

ダイキ「たとえば、無料の講座を受けてみて、『やっぱり違うな』と思ったら、やめればいい。お金はかかってない。そこで学んだことは無駄にならない」

クライエント「たしかに......」

ダイキ「大きく投資してから『失敗した』と気づくよりも、小さく試しながら『これは違う』『これは合ってる』って確かめていく方が、安全ですよね」

クライエント「......はい。それなら、私にもできそうです」

クライエントの声には、少し希望が混じっていた。

クライエント「実は、マーケティングの動画を見たりはしてたんです。でも、『これだけじゃ意味ないよな』『ちゃんとお金かけなきゃダメだよな』って思って、見るのやめちゃって」

ダイキ「それ、すごくもったいないですね」

クライエント「......そうですよね。今思うと」

ダイキ「今ある資源を活かすこと、それがスタートです。お金をかけるかどうかは、その後でいい」

クライエント「......わかりました。まずは、動画をもう一回見てみます。あと、図書館でマーケティングの本も借りてみようかな」

ダイキ「いいですね」

クライエント「それで、もし『やっぱりちゃんと勉強したい』って思ったら、その時に考えます。いきなり50万円じゃなくて、まずは数万円の講座とかから試してみてもいいかもしれないし」

ダイキ「そうですね。そうやって、少しずつ自分の中で『これは必要だ』っていう確信を育てていけば、お金を使うことへの抵抗も減っていくと思います」

価値の再定義


クライエント「ダイキさん、さっき『貯金は予測、スキルはコントロール』って言いましたよね」

ダイキ「はい」

クライエント「それって、すごく腑に落ちたんです。私、ずっと『お金があれば安心』って思ってたけど、本当に安心できるのって、自分の力なんですね」

ダイキ「どうしてそう思いましたか?」

クライエント「だって、お金は使ったらなくなるけど、スキルは一生使えるから。たとえ会社が潰れても、病気になっても、スキルがあれば何とかできる」

ダイキ「そうですね」

クライエント「母は、お金がなくて選択肢がないって言ってました。でも、本当は、スキルがなくて選択肢がなかったのかもしれない」

その言葉を言った時、クライエントの表情には、深い気づきがあった。

クライエント「もし母がマーケティングとか、何か専門的なスキルを持っていたら、もっと違う人生があったかもしれない。でも、母にはそれがなくて、だからお金に執着するしかなかったのかな......」

ダイキ「お母さんの経験から、あなたなりに学ばれているんですね」

クライエント「......はい。母の苦労を見てきたから、私は同じようにはなりたくない。だから、貯金じゃなくて、スキルで自分を守りたい」

クライエントの声には、強い決意が込められていた。

小さな決断


ダイキ「では、今日の時点で、何か決めたことはありますか?」

クライエント「はい。まずは、今ある資源を使って、マーケティングの勉強を再開します。無料の講座とか、図書館の本とか。それで、1ヶ月くらい続けてみて、『やっぱりこれを仕事にしたい』って思えたら、次のステップを考えます」

ダイキ「いいですね」

クライエント「それと、貯金についても考え方を変えようと思います。貯金は全部使わなくてもいいけど、『自己投資』に使うことは、浪費じゃなくて『未来へのコントロール』なんだって」

ダイキ「素晴らしい気づきですね」

クライエント「ありがとうございます。今日、話してみて、すごくスッキリしました」

ダイキ「何かモヤモヤしていたものが、少し晴れた感じですか?」

クライエント「はい。自分が何を怖がっていたのか、わかった気がします」

ダイキ「それは?」

クライエント「未来が予測できないこと。でも、予測できないからこそ、自分でコントロールする力を持たなきゃいけないんですね」

ダイキ「そうですね。未来は誰にもわからない。でも、自分の力を高めることで、どんな未来にも対応できる」

クライエント「......はい。頑張ります」

その言葉には、今までになかった前向きさが感じられた。

エピローグ:新しい一歩


カウンセリングが終わった後、クライエントはすぐに行動を起こした。

まず、マーケティングの基礎講座を3つ受講した。次に、図書館で借りた本を読み、ノートにまとめた。そして、現在の仕事の中でも、「これはマーケティング的にどう考えるべきか?」という視点を意識するようになった。

1ヶ月後、クライエントは再びダイキとのセッションを予約した。

クライエント「ダイキさん、報告があります」

ダイキ「どうでしたか?」

クライエント「やっぱり、マーケティングの仕事がしたいです。勉強すればするほど、面白くて。それで、まずは5万円の短期講座に申し込んでみることにしました」

ダイキ「素晴らしいですね」

クライエント「最初は、5万円でも高いなって思ったんですけど、でも『これは未来へのコントロールだ』って思ったら、躊躇がなくなって」

ダイキ「その決断ができたこと、すごいと思います」

クライエント「ありがとうございます。それに、貯金が減ることへの不安も、前よりはマシになりました。『お金は減っても、スキルは増える』って思えるようになって」

ダイキ「それは、大きな変化ですね」

クライエント「はい。まだ完全に不安がなくなったわけじゃないですけど、でも、前よりは動けるようになりました」

クライエントの表情は、以前とは明らかに違っていた。不安はまだ残っているけれど、同時に希望も見えている。

クライエント「これからも、小さく試して、少しずつ進んでいこうと思います」

ダイキ「応援しています」

クライエント「ありがとうございます」

この対話から見えたこと


この対話では、クライエントが「貯金」という形で未来の不安に対処しようとしていた背景に、母親の影響や、「お金がないと安心できない」という価値観があることが明らかになった。

しかし、対話を通じて、クライエントは重要な気づきを得た。それは、「貯金は未来への予測であり、スキルは未来へのコントロールである」という考え方だ。

貯金をいくら増やしても、未来に何が起こるかは予測できない。一方で、スキルを身につければ、どんな状況でも対応できる力を持つことができる。この違いに気づいたことで、クライエントは自己投資への抵抗を減らし、小さな一歩を踏み出すことができた。

また、「いきなり大きく動かなくてもいい」「今ある資源から始める」というエフェクチュエーション的な考え方も、クライエントの不安を和らげるのに役立った。完璧な計画を立ててから動くのではなく、まず小さく試してみる。その中で学び、次のステップを考える。こうしたアプローチは、不確実な未来に対する現実的な対処法である。

カウンセリングの役割は、答えを与えることではなく、クライエント自身が気づきを得るための場を提供することだ。この対話では、クライエントが自分自身の言葉で、自分なりの答えを見つけることができた。それが、最も大切なことである。



サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら