判例評釈「フリーランスに対するハラスメントにかかる委託者の安全配慮義務を認めた事例」

記事
学び
アムールほか事件(東京地判令和4年5月25日、労働判例1269号15頁)

1.事件の概要
 X(原告・平成7年生まれの女性)は2017(平成29)年に大学を卒業後、アルバイトをしながら、将来はフリーの美容ライターとして生計を立てたいと考え、個人のWebサイトを開設するなどしていた。そうした中、2019年(平成31)年3月、サイトを通じて連絡してきた、エステティックサロンを経営する株式会社であるY1(被告)社の代表者Y2(被告・令和2年当時40歳前後の男性)からの依頼を受け、Xは同社Webサイトの記事の執筆やサイトの運営などを行うことになった。
 Y2は、上記体験記事の執筆のためにXとの打ち合わせや同人への施術を行った。しかし、施術や打ち合わせを重ねる中で、Y2がXに対し、①これまでの性体験などに関する質問をする②無理やりにでも裸になった方が施術の時にくすぐったく感じなくなるなどと述べて、バストを見せるように求める③施術用の紙パンツを脱ぐよう指示し、Xの陰部を触った上、自分で陰部を触ることを要求して従わせ、さらにY2の性器を触ることを要求する④キスを迫り、Xの臀部にY2の股間を押し付けるなどの行為をした。
 2019(令和元)年6月頃、Y2はXに対し、Y1専属のWeb運用責任者として、1日1回上質な記事をY1ホームページに掲載し、SEO対策を通じて集客につなげるY1ホームページを制作・運用することを依頼した。Y2からの依頼に対し、Xは同年7月1日、Y2に対し、契約書の案文を交付した。当該契約書案には押印がなされていなかったものの、当該契約書案の内容について修正を求められることはなかった。
 その後、Xは、2019年8月1日から同年10月17日までの間、Y2の指示を仰ぎながらコラム記事をY1ホームページに掲載するなどして業務を履行した。しかし、Y2は、同年8月以降、⑤Xが執筆した記事の質が低いことなどを理由として契約を打ち切る旨を告知する⑥Xとは契約を交わしていない⑦今のXはプロフェッショナルではない、書く記事全てが上位に表示されないのであれば意味がないなどとメッセージを送信する⑧仕事の質が低いことや兼業していることなどについて不満を述べる、などの行為をした。
 Y2の行為を受けて、Xには不眠などの症状が出て病院でうつ病と診断され、労働組合や警察に相談するに至った。Xは訴訟を提起し、Y1社とY2に対し、Y1の安全配慮義務違反、Y2の不法行為責任を主張し、ハラスメントの慰謝料など総額550万円の損害賠償を請求するとともに、Y1社に業務委託契約に基づく執筆などの報酬(月額15万円)を請求した。

2.裁判所の判断
 裁判所は、XのY1に対する業務委託契約に基づく報酬請求について、2019年7月頃には、XとY1との間で、業務委託契約が成立していたと認めるのが相当とした。
 その上で、Y2の言動は、Xの性的自由を侵害するセクハラ行為であるとともに、業務委託契約を結びながら報酬の支払いを正当な理由なく拒むという嫌がらせにより、経済的な不利をパワハラ行為にも当たる(XがY2に従属し、Y2がXに優越する関係にあったものというべきであるから、上記の言動はXに対するセクハラ行為ないしパワハラ行為に当たるものと認められる)と判断した。
 裁判所の判断に対し、Y2は、自身はXに対し優位な立場にあるわけではなく、ハラスメントには当たらないと反論したが、裁判所は、XはY2の指示を仰ぎながら執筆などの業務を行っていたとして、Y2の優位性を認めて反論を否定し、Y2自身の不法行為責任(民法709条)を認めた。
 さらに、Xは執筆などについてY1社の指揮監督下にあり、Y1社は信義則上、Xに安全配慮義務を負っていると述べた上で、Y1社は代表者(Y2)自身によるハラスメント行為によって安全配慮義務に違反したとして、Y1社自身の債務不履行責任(民法415条)も認めた。
 以上により、裁判所は、Y1社とY2に連帯して慰謝料等150万円をXに支払うことを命じた。なお、正式な契約書は交わされていなかったものの、Xが実際に業務を行っていたことから、月額15万円の報酬を支払う業務委託契約がXとY1社の間に成立していたことを認め、Xの請求通りに報酬を支払うこともY1社に命じた。

3.考察
 本判決は、フリーランスについて委託者の安全配慮義務を肯定した点で先例的な裁判例であると言える。安全配慮義務は本来、使用者(事業者)が労働者(従業員)の心身の健康と安全を守るために配慮すべき義務を指すためだ。社会通念上、労働契約法第5条に定義される「労働者の安全への配慮」を意味するケースが大半である。
 ただ、判例を踏まえると、労働契約関係にない当事者間でも安全配慮義務が成立するとする本判決の判断は、妥当ともいえる。事実、「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間で、当該法律関係の付随義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」(最高裁昭和50年2月25日第三法定判決)とし、労働契約関係に限定しない安全配慮義務を認める判例がある。また、請負元の労働者が請負先の会社で作業する際に当該労働者の転落事故が発生した事案(環境施設ほか事件・福岡地判平成26年12月25日、労働判例1111号5頁)では、労働契約関係が認められない当事者間についても、指揮監督関係があることを理由に安全配慮義務が認められた。
 これらの司法判断に基づくと、裁判所が業務委託契約によるフリーランスについて、専属性や業務上の指示の存在という背景から、実質的な指揮監督関係があるとして、安全配慮義務を肯定したのは従来の判例の流れをくんだものと評価できる。
 厚生労働省は2023年秋に業務委託契約の軽貨物自動車運転手が負ったけがを労働災害と認定したほか、フリーランスの保護を目的としたフリーランス保護新法が24年秋に施行される予定だ。フリーランスの安全な就労環境を確保するための行政上の判断や法整備が進んでおり、今後の事案についても、より広い範囲で業務委託契約に安全配慮義務が認められる可能性が高い。しかしながら、報告義務や就業場所・稼働時間の指定がなく、指揮監督の程度が低い事案で、本判決と同等の安全配慮義務が認められるかどうかは、今後の検討課題になると推察する。
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