「誰でもミックスが出来る時代」に第三者のミックスが必要な理由。

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音声・音楽
2020年、世界がコロナ禍に陥った中、音源制作業界にも一つの話題が持ち上がりました。

コロナ禍に入り、「ステイホーム」で発信するコンテンツ需要が高まり、YouTubeやTwitterでのコンテンツ発信が以前より活発になったことは皆様も周知の事実であるかと思います。

その中にあって、大手楽器販売店様では、オーディオインターフェース、マイク、スピーカーの在庫切れが起こりました。

元々は音源制作も一部のクリエイターによる専門的業務という位置付けでしたので、
音源制作機材もどちらかと言えばニッチな製品でした。
そのため、需要と供給のバランスが比較的安定しており、機材の入手に苦心することはそうそうありませんでした。


それがコロナ禍に入り、「自宅で自分だけでコンテンツ制作を完結できる」ことに多くの一般ユーザーが注目し、こぞって音源制作機材を購入されていったという経緯があります。


私もリモート先で急遽モバイルで使えるインターフェースが必要になったのですが、どのインターフェースも在庫切れの状態でした。
特に1万円台のインターフェースは人気で、楽器店に問い合わせても「次回入荷の目処がない」という返答でした。
こんなことはそれまでにはありませんでした。


その背景の一端として、ビリーアイリッシュがベッドルーム制作でグラミー賞を受賞したというニュースも後押ししたと予想されますが...





正直なところ、DTMは既にPCと機材さえあれば、自宅でリリースまでを完結出来る環境が整っている時代であると考えます。



DTMの歴史は、PCのマシンスペックの進化の歴史と共にありました。


PCのマシンパワーが不十分な時代(およそ10年ほど前)は、
DTMが登場しても暫く、PC内部で全てを完結させるためには高額なPCを必要としました。

とりあえず、録音は出来る。バーチャルインストゥルメントも立ち上げられる。

しかしスタジオクオリティの制作をしようと思うと、処理を重ねるにつれてPCの動作が鈍化していき、よほど高額でハイパワーなマシンを持たなければ、満足のいく作業には程遠かったのが実態でした。


結果、商用スタジオの大型コンソール、ビンテージ機材を使ったミキシングがまだまだ主流な時代が続きました。





しかし昨今は、10万円も用意すれば内部で全てを完結させられるだけのマシンパワーを持ったPCを手に入れることが出来ます。
価値観は様々かと思いますが、これはおよそ10年前に比べると革命的なことです。

アナログ機材の質感を求めているのであれば、UADを筆頭とした高品質なアナログモジュレーションプラグインを用いて、DAW内部でそれを限りなく再現することが出来ますし、
実際にプロの現場で使用されているプラグインなども、ちょっと頑張れば誰でも手に入るものとなりました。

アナログ機材を必ずしも否定するわけではありませんし、それらによって得られる質感には代え難いニュアンスも当然ありますが、
マルチバンドコンプ、マルチバンドエキサイター、ダイナミックEQ、果てはAIによるミキシング処理など、デジタル領域だからこそなし得るプラグインや処理が主流になり、現在皆様が耳にされている音源を支えていることは紛れもない事実です。

それは言ってみれば、大型コンソールやアナログ機材を必ずしも必要としないパッケージが既に世に溢れている証拠であり、
レコーディングスタジオでの数年に渡る下積み経験を経ずとも、全ての人がベッドルームで音楽を発信することが出来る可能性を秘めているのです。



それを後押しするように特筆すべき点は、
今の時代は「クオリティ」以上に、コンテンツをリリースする「スピード」が重要になってきたことも言えます。


YouTubeなどにおいては、社会の「タイムリーで旬な空気感」が視聴数に直結するため、
「今から制作を始めて、1ヶ月後に公開」
というスピード感では、同業他社にアイディアを先取りされる恐れが大いに出てきました。

従来のアーティストモデルは、
「1年のこの時期にツアーがあるから、このタイミングでCDをリリースする必要があり、そこに逆算すると何ヶ月前に音源をパッケージしている必要があって...」
というスケジュール感だったものが、
最近では各種サブスクリプションでも1曲だけで新曲を配信する、というフォーマットが主流になりつつあります。

音源リリースがその他のスケジュールと抱き合わせなのではなく、
時代の流れに対してタイムリーに、
いかにピンポイントで発信して話題性を作れるかが昨今の音楽コンテンツ発信の主流になりつつあります。


そのため、コンテンツ発信の「スピード」を確保するために外部に頼らず、ベッドルームで自身のコンテンツをリリースまで完結させることは、
ますます合理的な選択になってくるであろうと考えています。






それでは、その中にあってわざわざ第三者にミックスを発注する必要があるのか。以上のコラムでは、それは必要ないことのように聞こえます。





答えは「必要ある」です。
具体的に申し上げるならば、「だからこそ周りと差を付けるクオリティを確保したいのであれば、知識とノウハウを持った第三者にパッケージを任せるべきである。」という事です。




そもそもミックスとは、「正解のない、それぞれの感性による作業」と受け取られがちです。

しかし、ミックスには明確なルールとゴールがあります。

それは、
【44.1kHz / 16bit の制限の中で、いかに綺麗に音をまとめあげるか】
です。

ミックスとは例えるならば、同じ大きさの弁当箱の中に、必要な料理を、いかに見栄えとセンス良く詰め込み整理するか、という作業です。

弁当箱の大きさは、どのような楽曲でも、誰が作業しても、常に同じです。

ご飯が多すぎればオカズが少なくなって旨味がなくなるでしょうし、
オカズが多すぎてご飯が少なければ、満腹にはなれないでしょう。

或いは欲張って、ご飯もオカズもぎゅうぎゅうに詰め込んでエイッ!と無理やり押し込んで蓋を閉めても、
開けてみればそこには無茶苦茶に潰れた料理だった何かが並んでいるだけです。

確かに胃袋の中に入ればみんな一緒かもしれません。
しかし、

「この弁当の中から好きなものを選んで食べてください」

となると、やはり見た目は非常に重要です。
そして音楽は、本来食べても食べなくてもどちらでもいいものです。
それを、「これは食べてみたい!」と思わせて、「美味しかった!」と言わせるためには、美しいパッケージが必要なのです。


喩え話が長くなりましたが、要するにミックスで詰め込める音には制限があって、
各パーツをその制限の中でどう際立たせるかが、各人の腕が光るポイントと言えます。


想像し易いと思いますが、その作業を行うために必要なノウハウというのは実に奥深く複雑で、
オンラインやYouTubeの講座だけで情報を追いかけるというやり方ですと、
ゴールには果てしなく長い時間がかかるものです。



私自身、学生の頃に組んでいたアマチュアバンドでレコーディングをしようということになり、予算がないながらもリハーサルスタジオに併設されているレコーディングスタジオでレコーディングしてもらったのが初めてのレコーディング体験でした。

10時間で1曲ミックスまで、という、今考えるとありえないプランでした。

その仕上がりを聞いた際に愕然としたのを覚えています。
とんでもなくチープな仕上がりに肩を落としました。

「これに10万円払うなら、その10万円で機材を買って自分でレコーディングした方がましだ!」

そう思ったのがDTMへの入り口でした。


それから紆余曲折あり一線のレコーディングスタジオで勤務するようになりました。
初めて先輩エンジニアのプロフェッショナルな仕事を目の当たりにした時は息をするのも忘れたのを覚えています。
とにかく的確で高速な作業を迷いなくされるのです。
画面のどこをみているのか、
音のどこを聴いているのか、
どのように音を捉えているのか、
何度も質問攻めをしました。

それを経て私は、
「オンラインの情報だけで学ぶには限界がある」
という事を悟ったのでした。





沢山の方が音楽機材を購入し、
とりあえず何となく誰もがコンテンツを発信出来る環境の中にあって私が思うことは、
これからの時代はアマチュアとプロの差が一層開いていくだろう
ということです。


作業環境はイーブンでも、ノウハウの差で作品のクオリティは変わってしまう
と考えます。


実際のところビリーアイリッシュも、最終ミックスは外部のエンジニアに委託しています。

それはノウハウと、作品への客観性を保つ両方の意図があるように思えます。


コロナ禍になり、プロフェッショナルな現場へ飛び込んでノウハウを学ぶ事が益々難しい時代になりました。


そもそも、
「楽しんで音楽をしたいから、そういう作業は人に任せたい!」
と思っていらっしゃる方が多数かもしれません。

そうしたノウハウは1日2日で習得できるものではありません。

であれば、ご自身は歌や制作に没頭して頂いて、作品の質は外部に任せる。
それが最も精神衛生上優しいように思います。




コロナ禍に入りコンテンツ制作を始めた方が急増した新しい時代だからこそ、
皆様の音楽制作の手助けを出来ればと思っています。



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