今夜の一頁。
あなたの呼吸に合わせて。
小さく光る羅針盤を、あなたの手に。
静かな鍵が回る音だけが、廊下にほどけた。
運命図書館、開館です。
今宵の月は、欠けゆく細い月。下弦を過ぎました。
いらないものを手放し、必要なものを並べ直す時期です。
言葉も歩幅も、少しゆっくりで大丈夫。
あなたは分かれ道の前に立っています。
地面は乾いているのに、胸にだけ波の音。
ポケットから小さな羅針盤を出します。誰にもらったのかは覚えていません。 針は北も南も示しません。ただ、鼓動に合わせてかすかに動きます。
机にノートを置き、三つに折ります。
最初の段は「今」。
昨夜は浅い眠り。肩は少し重い。支払いのメモが机の端にあります。
二段目は「近い未来」。
新しい習慣は、まだ靴擦れのよう。
家計は波の途中。でも手は動いています。
三段目は「遠い未来」。
誰と笑っているか。どの窓辺に座るか。はっきりはしません。
でも、その輪郭は見えます。
部屋の奥に、真鍮の天秤があります。
左は「失うもの」。右は「得るもの」。
小さな石を置いていきます。
役割という石。
静けさという羽根。
時間という砂。
誇りという灯芯。
石を置くたび、小さな音がします。合計は取りません。
大きく響いた方だけ覚えておきます。
いくつかは石ではなく殻でした。殻を外すと、手が軽くなります。
選ばなかった道は、いったん「保留」にします。
名前をつけると、あとで見つけやすいからです。
たとえば「海沿いの道」。
その道に惹かれた理由を三つだけ、短く書きます
——日差し/風の音/笑い声。 メモに日付を添えて、ノートの最後のページに挟みます。捨てません。ただ保管します。
必要になれば、取り出して読み返せます。
外では風。胸はまだ波立っています。
タイマーを一回だけ回し、お湯をわかします。
塩をひとつまみ。 湯気を吸って、吐いて。今日あったことを三行だけメモして、閉じます。決めたことには手を触れません。
波は高いままでも、足元までは来ません。 波はまだ高い。でも、足もとは洗われません。
夜更け。扉に手をかける。 肩の力がふっと抜けました。 歩く音は小さい。さっきまでの迷いの響きではありません。
眠りは浅かったけれど、朝のコップの水が少し甘い。
呼吸が一拍、深くなります。
眠りは浅くても、朝の水が少し甘い。
それは、あなたが合う方角へ向いている合図。
同じ言葉や同じ数字を、三度見ます。
たまたま、が続いた日に、あなたは羅針盤を見ます。
針は北でも南でもありません。「いまのあなた」を指します。
正しさではなく、合う方角。霧は残ります。
でも、層は分かれて見えます。
濃いところには手を当て、薄いところから足を出します。
今の月にあわせましょう。吸う息を五つ、吐く息を七つ。 言葉は短く。歩みはゆっくり。 それだけで、月は味方になります。
—— 霧の先に灯りを。
ー未来の章ー
月詠 ☪︎ 心の羅針盤案内人