大問3は物語文。出典は岩瀬成子氏の小説『地図を広げて』(偕成社)です。
主人公の鈴は中学1年生。4年前に両親が離婚し、母は弟の圭だけを連れて出て行きました。
母を恋しく思いながらもいつしか疎遠となったまま、ふた月前に母が急逝。
小学3年になっていた弟の圭は、父のもとへと呼び戻され鈴と暮らし始めますが、新しい環境になかなかなじめません。
そんな弟の思いを察した鈴が、母の思い出が残る福山の祖母の家に行くシーン。そこから出題がなされています。
張りつめた心の動きをありふれた言葉ですくい取る、独特の静かなリアリズムが印象的。
2人を迎えた鈴の祖母もまた、幼い頃から幾多の死を経験してきており、彼女の言葉には寂しさともあきらめともつかない響きが感じられます。
「これ、お母さんの携帯電話」と、圭は小さい声で言った。
(中略)
圭はつぎつぎに写真を開いてみせた。
(中略)
「わかったでしょ。ぼくとお母さんはいっしょだったんだよ」と、画面を見たまま圭は言った。
引用:岩瀬成子『地図を広げて』(偕成社)
問5はそんな圭が就寝前に、家から持参した古い漫画本を読むシーンに関する選択肢問題。
2冊の「かなり傷んでいる」漫画をリュックから取り出し、「読むけど、いい?」と姉にことわってから読み始める圭。
「新しい漫画を買えばいいのに」
(中略)
「この本にあきたら買うから」と、仰向いて圭は言った。
「まだあきていないの?」
「だって、気づいていないところが見つかるもん」
引用:岩瀬成子『地図を広げて』(偕成社)
小学3年生なら、新しい本を欲しがるのが普通でしょう。
それなのに圭は、悪びれもせず同じ漫画を何度もくり返し読み返します。
漫画であれドラマであれお笑いであれ映画であれ、人が同じ1つのコンテンツに長くとどまろうとするのは、決まって心が耐えがたくさみしい時です。
「気づいていないところが見つかる」と圭が言うのは照れ隠しに過ぎません。
モノとしての漫画本が母の思い出と結びつくわけでもなく、むろんストーリーやキャラクターの魅力に心酔して夢中になっているわけでもないのです。