漂流記①

記事
コラム

小さな船外機が付いているボートで沖へ魚釣りに出て行ったら、150㎞位深夜の海を漂流し流されてしまった。
午前中に彼と友達と、その子供さんと合計三人で船外機付きのボートで沖合3㎞程度のポイントを目指して出航したが、ポイントに着いて暫くしたら急に天気が崩れて来た。雲が広がり風も多少だが吹いて来たので友達は帰ると言った。
だから、出航した場所まで戻って友達とその子供さんは下船したが、彼は釣りが好きなので、友達を下した後に彼一人で又、沖合を目指してエンジンを回した。
ポイントに着いた頃は結構風も強くなり空は鉛色の雲に覆われていた。それでも釣りが好きな彼は釣りを続けていた。彼は一瞬不安が心を掠めたが今まで何度もこんな経験はした事がある。今回も大丈夫だと自分に言い聞かせた。
が波が大きく、うねってきたのを見て流石にこれはヤバイと思い、岸を目指してエンジンを回した。波は大きなうねりとなり小さなエンジンとスクリューでは、思うように進んでくれない。
彼は多少のパニックになった。
そして、エンジンを最大限に回して岸をめざしたが岸の方へは進んでくれないで大きく帰りの進路から外れてしまった。
それでも舵を岸の方へ向けてエンジン最高回転にして目指していた、突然エンジンが沈黙した。余りにも負担を掛けたので故障したようだ。
その後なんどもセルモータ回しても二度とエンジンは唸らなかった。
その頃は日没を迎えていた、空は更に暗く波は高くなっていた雨も少し降って来た。
その中を小さな船外機の船は木の葉のように荒波にもまれ、風の吹くままに流され始めていた。
東風に流されているのは南の方から低気圧が近づいて来ていたからだ。
岸から東の方向へ海にでた、その後東風によって西に流されている。
真西なら野母半島の東海岸のどこかに漂着しただろう、しかし風は意地悪にも南西の方向へその時は吹いていた。
野母半島の先端を、かすめるようにして小舟は更に西へと漂流して行った。
エンジンは二度と掛からない沈黙したままだ。
釣りのポイントは野母半島と天草の間の海原だった。
彼はその時になって漸く事の重大さに気が付いた。俺は死ぬかもしれない。
強烈な恐怖が襲ってきた。夏の7月と言うのにガタガタ寒さに震えていた。
やがて、周りは漆黒の暗闇となった。光と言えば自分が腕にはめている夜光時計アウトドア用の腕時計の針だけだ。
天気が良ければ満天の星が見える所だろう、しかし今は空一面の、ぶ厚い雨雲に覆われている風も東風が酷く吹いている雨も霧雨だが降りつけている。
釣りの用具などは全部海に投げ出されてしまった。後は自分も海に投げ出されないようにボートに必死にしがみ付いていた。この恐怖の地獄のような試練の時が過ぎてくれ、早く夜明けが来てくれと木の葉のように荒波に揉まれる小さなボートに掴まりながら時計の針ばかりを見ていた。
身体も疲れ果て希望を失いかけた時に暗闇の波間の遠くに小さな光を見た。
その光は、うねりの波間に消えたり又現れたりしてチカチカと見えていた。やがて段々とその光が近づいて来た。その光はこのボートが流される方向の先にあるようだ。段々とその光の正体が見えて来た。






サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す