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漂流記(終)

ここが良さそうだ、竹の筒を使って灰を穴の中に吹き入れた。潮が引いた浅瀬のあちこちで、子供たちが伝統のタコ漁をしている。「出て来たぞ、捕まえろ」小さな岩ダコが灰を吹き付けられた刺激で穴の中から這い出て来る。其処をすかさずに捕まえるのだ。この漁は昔から、伝統の漁で五島のいつもの光景だ。茹でて食べると美味なタコだ。幼い兄弟がタコを獲っている。兄「こっちにはもういないようだ」と言いながら数匹入っているバケツを下げながら別の場所に移動している。弟「ここの穴はどうかなぁ」兄「ここに灰を吹き付けてみるか」弟「僕、他に居そうな所を探してみる」と言って少し深めの所の潮だまりに足首までつかりながら歩いて行った。大きな岩を回り込んで岩ダコが居そうな適当な穴を探しているその目線の先に小さなボートが瀬に乗り上げ傾いた形で乗っかっている。弟はその光景を訝し気に見ていたが、やがてなんだか怖いような気持が襲ってきたが、好奇心の方が勝った。恐る恐る近づいてボートの前まで来た。中を覗き込むのには勇気が要ったが、この島の子供たちは海で育った勇敢な子たちばかりだ。弟はボートの中を覗き込んで仰天した。人間が死んで横たわっているのを真直に見たのだ。弟は慌てて兄の所へ走った。跳ね上がる潮で体が濡れるのも構わず走った。弟[にいちゃーん!向こうで人が死んでるよー!]と今来た方角を小さな指で示した。兄も弟の様子に驚いたのか、どっちだと言いながら体は動かない。でもやっぱり好奇心が勝ったのだろう、ゆっくりと弟が言う方向へ進んで行った。先ほどの弟と同じようにボートの中を覗いた兄は仰天し、まっしぐらに家に走った。その後を弟も負けないよう
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漂流記②

イカとり船だ。イカ漁の真っ最中だ。イカの集魚灯を煌々と照らして波間に揺れている。この集魚灯は人工衛星からも分かる程の明るさだ。多分200tクラスの大きさだ。長さが約50メートル位ある。甲板では数十人の甲板員がヘルメットを被り雨合羽を着て、忙しそうに動き回り仕事をしている様子がはっきりと見えた。甲板の上はまるで昼間のような明るさだ。そして甲板の上に取り付けられたスピーカーから作業の指示が大きな声で聞こえている。漆黒の闇の中に眩しいばかりの存在が目の前に展開された。彼の気持ちは急激に高揚した。助けてもらおう、これで助かるかもしれない。イヤ絶対に 助けてもらうのだ。一番、距離が近づいた時に声を上げて発見してもらうのだ。しかし、そのチャンスは一度きりだ。そのチャンスを逃すと生存の可能性は消えるだろう。彼は目測で今だと判断した。あらん限りの声でイカとり船に向かって、おおーいいーー!たすけてくれーー!と何度も叫んだ。しかしイカとり船の甲板員達に声は届かなかった。甲板上は戦場のような忙しさだ。スピーカーからは間断なく大音量で指示の声が放たれているのだ。それに彼が一番近づいた距離と思っても、海では目の前に見えても簡単に100メートル以上の距離は有る。そんな遠くから一人の人間が生の声で叫んでも全く聞こえないだろう。それに彼はもう疲労の極限に近づいていた。ずっと海に振り落とされないように揺れる小舟に力いっぱい掴まっていたからだ。どんなに声を張り上げてもイカとり船は彼に気付く事は無かった。ただ、むなしくイカとり船と彼のボートの距離は急速に離れて行った。遠ざかるイカとり船の光を彼は見つめながら、飛び込
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漂流記①

小さな船外機が付いているボートで沖へ魚釣りに出て行ったら、150㎞位深夜の海を漂流し流されてしまった。午前中に彼と友達と、その子供さんと合計三人で船外機付きのボートで沖合3㎞程度のポイントを目指して出航したが、ポイントに着いて暫くしたら急に天気が崩れて来た。雲が広がり風も多少だが吹いて来たので友達は帰ると言った。だから、出航した場所まで戻って友達とその子供さんは下船したが、彼は釣りが好きなので、友達を下した後に彼一人で又、沖合を目指してエンジンを回した。ポイントに着いた頃は結構風も強くなり空は鉛色の雲に覆われていた。それでも釣りが好きな彼は釣りを続けていた。彼は一瞬不安が心を掠めたが今まで何度もこんな経験はした事がある。今回も大丈夫だと自分に言い聞かせた。が波が大きく、うねってきたのを見て流石にこれはヤバイと思い、岸を目指してエンジンを回した。波は大きなうねりとなり小さなエンジンとスクリューでは、思うように進んでくれない。彼は多少のパニックになった。そして、エンジンを最大限に回して岸をめざしたが岸の方へは進んでくれないで大きく帰りの進路から外れてしまった。それでも舵を岸の方へ向けてエンジン最高回転にして目指していた、突然エンジンが沈黙した。余りにも負担を掛けたので故障したようだ。その後なんどもセルモータ回しても二度とエンジンは唸らなかった。その頃は日没を迎えていた、空は更に暗く波は高くなっていた雨も少し降って来た。その中を小さな船外機の船は木の葉のように荒波にもまれ、風の吹くままに流され始めていた。東風に流されているのは南の方から低気圧が近づいて来ていたからだ。岸から東の方向へ
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