漂流記(終)
ここが良さそうだ、竹の筒を使って灰を穴の中に吹き入れた。潮が引いた浅瀬のあちこちで、子供たちが伝統のタコ漁をしている。「出て来たぞ、捕まえろ」小さな岩ダコが灰を吹き付けられた刺激で穴の中から這い出て来る。其処をすかさずに捕まえるのだ。この漁は昔から、伝統の漁で五島のいつもの光景だ。茹でて食べると美味なタコだ。幼い兄弟がタコを獲っている。兄「こっちにはもういないようだ」と言いながら数匹入っているバケツを下げながら別の場所に移動している。弟「ここの穴はどうかなぁ」兄「ここに灰を吹き付けてみるか」弟「僕、他に居そうな所を探してみる」と言って少し深めの所の潮だまりに足首までつかりながら歩いて行った。大きな岩を回り込んで岩ダコが居そうな適当な穴を探しているその目線の先に小さなボートが瀬に乗り上げ傾いた形で乗っかっている。弟はその光景を訝し気に見ていたが、やがてなんだか怖いような気持が襲ってきたが、好奇心の方が勝った。恐る恐る近づいてボートの前まで来た。中を覗き込むのには勇気が要ったが、この島の子供たちは海で育った勇敢な子たちばかりだ。弟はボートの中を覗き込んで仰天した。人間が死んで横たわっているのを真直に見たのだ。弟は慌てて兄の所へ走った。跳ね上がる潮で体が濡れるのも構わず走った。弟[にいちゃーん!向こうで人が死んでるよー!]と今来た方角を小さな指で示した。兄も弟の様子に驚いたのか、どっちだと言いながら体は動かない。でもやっぱり好奇心が勝ったのだろう、ゆっくりと弟が言う方向へ進んで行った。先ほどの弟と同じようにボートの中を覗いた兄は仰天し、まっしぐらに家に走った。その後を弟も負けないよう
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