みどり荘の人々⑬

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翌朝、ディーゼルエンジンが唸る音で大宮は目が醒めた。
朝の六時半だ。
その音は地響きと共に近づいて来た。
大宮は布団の中で目を擦って目を開けた。
早朝の暁の日は爽やかな空気と共にハーモニーを奏でていたが、その美しさを
台無しにする無粋なディーゼルエンジンの音が大宮の耳をつんざいた。
奴ら来やがったなと大宮は弾かれたように布団から飛び出た。
急いで着衣を身に着け窓の外をみると、ブルドーザとパワーシャベルの重機を先頭にその後ろから作業服を着た連中が総勢20人くらい連なってこちらに侵攻してくる。
戦場で進行する時は戦車の後ろに兵隊が敵の弾に中らないよう身を隠しながら進行する。
さながらその様相だ。
大宮は少しの滑稽さを感じたが、同時に大宮は強い緊張感に包まれた。
みどり壮の敷地の入り口にコンクリート製の門柱があるがその手前で
連中は停止した。この部隊を指揮するヤツが大声で言った。
今日はどうしても出て貰うぞ。
早く出ていないと怪我するぞと叫んだ。
そしてトラックの二台から大量の藁を下してアパートの門扉の内側に積み上げた。
全員が出て行かないなら燻し出してやると言ったかと思ったら藁にバーナで火を点けた。
乾燥した藁は忽ち紅蓮の炎を昇り龍のように空に向かって回転ながら伸びて行く。
熱気と共に凄まじい煙が、みどり壮全体を包んだ。
外の騒がしさと煙の為に他の住人達も寝ているどころじゃない。
全員が窓の外を見て恐怖の表情でひきつっている。
大宮が叫んだ。
みんなー!外に出て散水栓にホースを繋いでみどり壮に水を掛けるんだー!と叫んだ。
真っ先に出て来て消化の用意をしたのはリサイクルショップ経営の佐々木だった。
手際よく散水栓に長さ10メートルの水道ホースを繋いだ。
藁は景気よく炎を上げて燃えているが、みどり壮には未だ火は延焼していない。
あっははは・・・
ざまあみろ・・早く出て行かないと焼け死ぬぞと現場作業員の指揮者が言った
他の連中も、まるでタヌキのいぶし追い出しだなぁと言って笑っていた。
俺達は今日この場所で廃材を焼却する許可を消防に取ってあるから通報してもムダだとうそぶいていた。

みどり壮の全員が大宮の周りに集まって来た。
大宮さんこれからどうなるのと加島まきが言ったが、大宮としても事の成り行きを見守るしかなかった。
藁の燃える煙が風向きで全員の方へ濃く流れて来た。
喉が痛い。眼が痛い。
呼吸困難に陥る。苦しい。
みんなー、風上に移動するのだー!。
全員が風上に移動して多少は楽になったが、その逃げ惑う様子を見ている作業員達は笑って見ている。
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