みどり荘の人々⑭

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大変な事になった。
奴らは俺らを殺す気だ。何と言う奴らなんだ、あんな建設会社が有るのか。
あの連中は作業服を着て工事用のヘルメットを被っているが暴力団の連中だ。
この土地を買った不動産屋が奴らを使って俺達を追い出しに掛かっているのだ。と橋田が言った。
なるほど、この乱暴ブリは常人にはできない所業だ。
そうなれば我々も大人しく防戦一方で逃げる事は無い。
戦いだ。
先ず、あの勢いよく燃えている藁の火炎を何とかしよう。
熱くて煙たくて堪らない。
幸い未だ、みどり荘には燃え移っていない。
佐々木がさっき手際よく10メートルの水道ホースを散水栓に繋いでいた、蛇口を手早く全開にした。
水は勢いよくホースの先から迸り、燃え盛る火炎を忽ちの内に消火した。
藁からは少しの煙と水蒸気が立ち上っている。
俺達はタヌキじゃないんだ。
藁の火を消された連中は、そんな事では怯まない。
連中の親分格がユンボを前に進めろー!と怒鳴った。
ユンボはディーゼルエンジの底響きを唸らせながら、みどり荘のコンクリートの門柱を物ともせず破壊しながら中庭に入って来た。
そこで止まったかと思ったら今度はユンボの長いアームを高々に上げた。
その先には獰猛なバケットが有り強靭で巨大な鉄の爪が飛び出している。
そして其の儘、前進して又止った。
上げたユンボの剛健なアームをゆっくりと降ろだした。
みどり荘の屋根の棟の僅か10センチの所で止った。
其の儘アームを下されたら木造のみどり荘はその重量で簡単につぶされてしまう。
アームだけの重量だけでも4トン近くあるそれにユンボの本体の重量は10トン近くある。
ユンボを操作している男がレバーを握りながら言った。
これからゆっくりとユンボのアームをおんぼろアパートみどり壮の棟におろしてやるから見てろと薄笑いを浮かべながらアームを操作するレバーをゆっくりと動かしだした。
4トンもの重量のアームは静かに降りて行く。このまま重量を掛けかれたらみどり壮は全壊だ。
万事休すのその瞬間に、大宮がユンボの方へ近づいて行く。
大宮さん危ない!
と佐々木が叫んだが大宮は委細構わずユンボの方へ近づいていく。
そして大宮の胸位まで高さが有るユンボのキャタピラの前まで行くとキャタピラに掌を置いた。そしてユンボ全体に合気を注入する。
まさにあと数センチでユンボの獰猛なアームがみどり荘の棟に届こうする寸前に静止した。
アームを操作していた男は盛んにレバーを動かしているが一向に反応しない。そしてエンジン迄止ってしまった。
暴力団の連中もみどり壮の人達も何が起きているのか分からない。
ただ、ジッとみんな黙り込んだまま見ているだけだった。
大宮は今度は暴力団の連中に向かって掌を振りながら佇んでいる。
今迄凶暴な面構えの連中の表情はみるみる温和な顔つきになってしまった。
そして、みんなぞろぞろと帰り支度をしながらやがてみんな姿を消してしまった。
その一部始終を見ていた、みどり壮の人達も一体何が起きたのか見当もつかない。
みんなの元に戻って来た大宮に佐々木は一体何がどうなったのか尋ねた。
大宮さんがユンボのキャタピラに掌をふれた時から様相が一変した。
大宮さん何を遣ったのかと尋ねた。
大宮は口を開いた。
愛を施したのさ。
愛ですか。
そうだ愛だ。
私もあの時は自身が無かった。下手をすればキャタピラに下敷きになって居たろう。恐怖心は最大だった。
しかし他に方法は思いつかなかったのだ。
でもなぜ愛?
私にもわからない。
しかし私は昔スピリチュアルの研究をしていた時期が有った。
魂が宿っているのは生命が有るものだけでは無いと知っていた。
物質にも魂が宿っていると。
例えば使っている道具に愛を注いで大事にすると故障もしないし永く使える。
やかんでも車でも家具でも衣服でも電化製品でも。
例えば車を洗車してワックスを掛けると断然乗り心地が良くなる。
これは車の魂が喜んだ証拠だ。
料理の前に食材に感謝して調理すると美味しい料理ができる。
喧嘩の相手に愛を送ると忽ち争いが消える。
このように愛は全てを生かすのだ。
さっきユンボのアームが、みどり荘の棟を破壊する寸前に、この真理が正しいならこの状況が変わるはずだと、私は信念をもって勇気を振り絞ってユンボのキャタピラに触れたのだ。
きっとユンボの魂も愛をうけて愛に反するような動きを拒否したのだろう。
そして暴力団の連中も愛のやさしさに真の人間性を取り戻したのだろう。
その時、大宮のスマホにメールが入った。不動産からだった。
かねてから事業としてやっていた太陽光発電事業の採算が取れなくなって事実上倒産した。したがって、みどり荘の土地は不要になった。色々迷惑をかけたが赦して呉れとの内容だった。
みどり荘の人々は欣喜雀躍して喜んだ。
これで又みんな、元の生活に戻れると喜んだ。






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