人生の進路設計アドバイザー井上です。
納得できない選択で人生を進めたくない人のために、判断の理由を言葉にしています。
今回は、相談現場でよく耳にする違和感を、一つのケースとして整理します。
「頼られているはずなのに、なぜか自分の仕事の手応えだけが薄れていく」
そんな感覚が生まれるとき、仕事やキャリアの中では、何が起きているのでしょうか。
ご相談ケース:期待されているはずなのに、仕事が薄く感じる
※複数の相談内容をもとに再構成した仮想ケースです。
相談者は36歳の女性。
IT系企業のカスタマーサポート部門で、中堅ポジションを担っています。
育休から復職して約2年。
現場対応も広範囲のフォローもでき、いわゆる「安定枠」として見られている存在です。
トラブルが起きると自然と声がかかり、
新人が困ると、なぜか自分の席にやってくる。
同僚からは「いてくれると助かるよね」
と言われることも多く、外から見ると順調そのものです。
けれど、本人が強く引っかかった瞬間がありました。
定例ミーティングで、新しい改善案の話が出たとき。
上司から、こう言われたそうです。
「この部分は、いつもの対応でまとめてもらっていい?」
よくある一言かもしれません。
けれどその瞬間、ふとこんな感覚が浮かんできたといいます。
「もしかして私は、新しい話には呼ばれにくい存在なんじゃないか」
期待されていないわけではない。でも、広げていく役割でもない。
頼られてはいるけれど、
自分がどう扱われているかが固定されてしまったような感覚。
そこから動かせない気がする。そんな違和感でした。
成長できていない? 仕事が合っていない?
この相談を聞いて、例えば
・成長できていないから苦しいのでは
・仕事が合っていないのでは
と結論づけるのは、状況の整理が追いついておらず、判断が難しいと感じます。
まず整理したいのは、
この方が「何を失った感覚になっているのか」という点です。
今回の違和感の軸は、成長そのものというよりも、
自分で選べていた感覚が、静かに薄れていったこと
ここにあるように見えました。
それまでの仕事の手応えは、どこにあったのか
この方にとって、これまでの仕事の手応えは、
・どう対応するかを自分で考える
・少し違うやり方を試してみる
・結果を見て、調整する
といった、「自分で確かめながら進めるプロセス」にあった可能性があります。
一方、現在の仕事では、
・役割が先に決まっている
・期待が先に固定されている
・対応は「いつもの形」に寄せられていく
そんな場面が増えている。
仕事は忙しく、頼られてもいる。
ただ、自分で選んでいる実感だけが、少しずつ見えなくなっている。
このズレが、違和感として表に出てきていました。
なぜ、こうした状態は起きやすいのか
ここは補足ですが、
この状態は特別なものではありません。
人は、安心して任せられる存在になるほど、
「変化を起こさない前提」で見られやすくなります。
それは能力評価の結果であって、
意欲が低い、伸びしろがない、という意味ではありません。
特に育休後は、
・慣れた業務を任せる
・仕事を限定する
という流れが重なり、
役割が固定されやすくなります。
その中で、自分が大切にしていた「選べていた感覚」が抜け落ちると、
苦しさだけが後から残ることがあります。
ここからが分かれ道
ここで、いきなり仕事を変える必要はありません。
まず考えたいのは、二つの方向です。
一つは、今の役割の中に、まだ動かせる余白があるのか。
もう一つは、この固定感を理解したうえで、受け入れて進む選択が、
自分にとって納得できるものなのか。
どちらが正解という話ではありません。
ここまで整理してきたことを、どう受け取ればいいか
ここまで見てきたケースは、
「仕事が合っていないかどうか」を判断する話ではありません。
また、
「もっと成長しなければならない」
「このままではまずい」
という話でもありません。
ポイントは一つだけです。
今の仕事の中で、自分の考えや選択が、どの位置で扱われているのか。
その位置が、以前とどう変わっているのか。
違和感が生まれる境目
今回のケースでは、
・仕事は回っている
・周囲からの信頼もある
・役割としては安定している
一方で、
・判断の方向性は、すでに周囲が決めている
・自分は「いつもの形」に整える役割に寄っている
という状態が重なっていました。
このとき起きているのは、
能力の低下でも、意欲の問題でもありません。
仕事の中で、自分の意思が関与する余地が、
以前よりも後ろに下がっている。
その変化に気づかないまま働き続けると、
「なんとなく薄い」
「前に進んでいない感じがする」
といった、言葉にしづらい違和感として表に出てきます。
見るべきなのは「向き・不向き」ではない
この段階で、
・向いていないのではないか
・別の仕事を探した方がいいのではないか
と考えてしまうのは、自然な流れです。
ただ、この記事で整理したかったのは、
その一歩手前の話です。
今の役割は、自分の判断が積み上がっていく位置にあるのか。
それとも、安定のために固定される位置にあるのか。
どちらが良い・悪いではありません。
ただ、自分が大事にしてきた感覚と、
今置かれている位置がずれている場合、
違和感は静かに溜まっていきます。
この先を考える前に
だからこそ、いきなり答えを出す必要はありません。
まずは、
・今の仕事で、自分の考えはどこまで反映されているのか
・役割として、どこまでが「任されている範囲」なのか
その輪郭を、一度言葉として捉えてみる。
それができて初めて、
・今の延長で満たせるのか
・役割を動かす余地があるのか
・別の選択肢を考えるべきなのか
を、落ち着いて検討できます。
キャリアの進路を決めるための判断は、
そこからでも遅くありません。