【短編小説】元日のチボリ公園

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デンマーク・コペンハーゲンにあるチボリ公園。
冬季は閉鎖されているが、元日の朝ともなればその入り口付近に人々が集う。
その中に黒いコートを着た長身の男がいた。そこに小太りのこれまた黒いコートを着た男がやってきた。
「閉鎖されているのに、皆、寒いのによく来ますね」
小太りの男がそう言うと、長身の男は小太りの男の持ったバッグを見て、
「ブツは全部回収できたのか」
と尋ねた。
「それが、半分しか…」
「倉庫で間違いに気づいて、すぐ荷車を追ったんだろう?なのに、どうして全部回収できなかったんだよ。あれが回収できなかったらボスにどういう目に遭わされるか、わかっているんだろうな」
「もちろんですよ、でも、警官や他の組織の人間に出くわして見失ったりして、見つけた時は小売店の店先に並べられて、それを回収するのがやっとで」
「それで、半分っことか、で、後の半分は」
「そこの店主の話だと、半分は娘に持たせて通りで売らせていると。もちろん、すぐにその娘を探しましたよ。大晦日のこの街の隅から隅まで、警官や他の組織の人間に見つからずに」
小太りの男がそう言うと、長身の男は体を摺り寄せて、小太りの男の腕を強い力で掴んだ。
「だから、後の半分はどうしたんだって言っているんだ」
「痛い痛い、だから、それは、店主の娘が。見つけた時は路地の隅で死んでいたんですよ。マッチの燃えカスを持ったまま、微笑むように」
すると、長身の男は、小太りの男の腕を握った手に力を入れた。
「痛い、痛い、止めてくださいよ、兄貴」
「だから、後の半分はどうなったって聞いているんだよ」
「娘の死体の傍には、何もなかったんですよ。誰かに持ち去られたか、落としたか、探そうにも、そこには人だかりになっていてできなかったんですよ」
小太りの男がそう言うと、長身の男は「早く、それを言え」と言うかように手を離した。
「でも、そもそも、ボスが密売する阿片(麻薬)をマッチ箱に詰めて運ぼうなんて考えるから、そうなったんですよ。俺たちのせいで、こんなったじゃあないですよね」
「馬鹿、それが通じるボスか。こんなこと判れば、俺たちは間違いなく消される」
そう言うと、長身の男は、辺りを見回した。
「それにしても、娘と言うから16、7だと思ったら、まだ10歳になるか、ならないかですよ。それが大晦日に凍するなんて可哀相に」
「お前、娘は微笑むようにって言ったろう。そうなら、娘の死因は凍死じゃあないよ、阿片のせいだ。でも、お前、店主を口止めしなかったのか、…、そうか家族皆殺しにしたのか。じゃあ、お前に、娘に同情する資格はないよ」
それまで険しかった長身の男の顔に、笑みがこぼれた。そしてまた、小太りの男の腕を掴んだ。
「なにするんですか、兄貴」
「なにするんですかって、逃げるんだよ。これだけのブツを金に換えれば、他国に逃げれる」
それに、小太りの男が頷くと、二人はその場から急いで立ち去った。

しばらくして、その二人の傍で新聞を読む振りして顔を隠していた男が、新聞を折りたたみながら、ニヤッと笑った。その男こそ、「マッチ売りの少女」の作者、ハンス・クリスチャン・アンデルセンだった。

ちなみに、「マッチ売りの少女」は、アンデルセンの母親の貧しい少女時代をモデルにしていると言われてはいるが…。

                                                                                             完

《蛇足》
 以前、ネット上で公開していた拙作オンライン小説です。

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