スマートフォンを持っていれば、誰でも簡単に写真や動画を撮影できる時代になりました。
旅行先で写真を撮る。
イベントの様子を動画にする。
お店の中を撮影してInstagramやX、TikTokに投稿する。
ごく普通の行動です。
しかし、そこで少し気をつけたいのが「肖像権」です。
たとえば、街中で撮影した写真に知らない人の顔が大きく写り込んでいた場合、そのままSNSへ投稿してもよいのでしょうか。
今回は、身近なようで意外と分かりにくい「肖像権」について解説します。
肖像権とは
肖像権とは、簡単にいえば、
「自分の顔や姿を、みだりに撮影されたり、公表されたりしない利益」
を保護するものです。
少し意外なのですが、日本には「肖像権法」という名前の法律が存在するわけではありません。
肖像権は、憲法13条の趣旨などを背景として、判例上、人格的利益として認められてきたものです。
最高裁判所も、本人の承諾なく容貌や姿態を撮影されないことについて、法的に保護される人格的利益があることを認めています。
つまり、
「肖像権という名前の法律はない」
けれど、
「だから勝手に撮影しても問題ない」
ということではありません。
写真を撮っただけで肖像権侵害になるのか
では、他人を撮影すれば、それだけで直ちに肖像権侵害になるのでしょうか。
そう単純ではありません。
撮影行為が違法になるかどうかは、
* 撮影された場所
* 撮影の目的
* 撮影方法
* 撮影された人物の立場
* 写真にどの程度大きく写っているか
* 撮影されることを予想できる状況だったか
など、さまざまな事情を総合的に考えて判断されます。
たとえば、観光地で風景写真を撮影したところ、たまたま通行人が小さく写り込んだ場合と、特定の人物を追いかけて至近距離から何度も撮影した場合とでは、事情がまったく違います。
したがって、
「本人の許可がなければ他人が1ミリでも写ってはいけない」
というものでもありません。
逆に、
「公道だから誰を撮っても自由」
というものでもありません。
このあたりが肖像権の難しいところです。
SNSへの投稿は「撮影」とは別に考える必要がある
さらに注意したいのが、撮影した写真や動画をSNSなどで公開する場合です。
撮影することと、インターネット上で公開することは別の問題です。
本人としては、
「その場で写真に写るくらいなら構わない」
と思っていたとしても、
「何万人もの人が見るSNSに顔を掲載されるのは困る」
ということは十分にあり得ます。
特に、
* 顔がはっきり分かる
* 本人を特定できる情報が一緒に掲載されている
* 本人が嫌がるような場面を掲載する
* 誹謗中傷的な文章と一緒に掲載する
* 広告や営業目的で使用する
といったケースでは、問題になる可能性が高くなります。
SNSでは「撮影してよいか」だけではなく、「公開してよいか」まで考える必要があるということです。
お店のお客さんを勝手に広告に使うのは?
事業者の場合には、さらに慎重になる必要があります。
たとえば飲食店が、
「今日もたくさんのお客様にご来店いただきました!」
として、店内の写真をSNSに掲載したとします。
そこにお客さんの顔がはっきり写っていたらどうでしょう。
本人が店内で写真撮影されることを認識していたとしても、それだけで自社の広告・宣伝に利用することまで承諾していたとは限りません。
特に、ホームページ、広告、パンフレット、SNS広告などへ人物写真を使用する場合には、**事前に利用目的を説明し、本人から同意を得ておくことが安全です。**
イベント運営会社、スクール、サロン、スポーツ教室などでは、申込時に写真・動画の撮影や利用について定めておく方法もあります。
肖像権と「パブリシティ権」は違う
肖像権とよく似た言葉として、パブリシティ権があります。
両者は少し性質が違います。
一般的な肖像権が、
「勝手に自分の姿を撮影・公開されたくない」
という人格的利益を中心とするのに対して、パブリシティ権は、
「有名人の氏名や肖像が持っている顧客吸引力を勝手に商業利用されない利益」
に関するものです。
たとえば、有名スポーツ選手の写真を本人の許可なく商品の広告に使えば、その人物の知名度や人気を利用して商品を売っていることになります。
このような場面では、一般的な肖像権だけでなく、パブリシティ権の問題が生じる可能性があります。
「写真に写った=必ず違法」ではない
肖像権については、極端に考えないことも重要です。
街を撮影すれば、人が写ることはあります。
スポーツ大会やイベントなど、多数の人が参加する場所では、ある程度撮影されることが予定されているケースもあります。
そのため、
本人の承諾なく撮影した、あるいは写真に写ったという事実だけで、当然に違法になるわけではありません。
一方で、撮影場所や方法、公開方法などによっては、プライバシー侵害など別の問題も生じます。
結局のところ、重要なのは、
「その人が受忍すべき限度を超えているか」
という観点です。
事業で人物写真を使うならルールを決めておく
個人が旅行先で写真を撮る場合とは異なり、会社や店舗が人物写真を継続的に使用するのであれば、最初から運用ルールを作っておいた方がよいでしょう。
たとえば、
「イベント中に撮影した写真・動画を、当社ホームページ及びSNS等の広報活動に使用することがあります」
といった規定を設ける方法があります。
もっとも、このような一文を書けば何をしても許されるわけではありません。
誰を撮影するのか、何に使用するのか、どの媒体に掲載するのか、いつまで利用するのかなど、実際の利用方法に応じて同意内容を設計する必要があります。
場合によっては、利用規約だけではなく、個別の肖像利用同意書・撮影同意書を作成した方が適切です。
まとめ
肖像権は、スマートフォンとSNSが当たり前になった現在では、非常に身近な法律問題です。
写真を撮ること自体は日常的な行為ですが、その写真をインターネットに公開すれば、本人が予想していなかった範囲まで一気に拡散する可能性があります。
特に事業者が広告、ホームページ、SNSなどで人物写真を使用する場合には、
「撮影してよいか」だけではなく、「どのように利用してよいか」まで確認すること**
が重要です。
肖像権には「ここから絶対アウト」という単純な一本線があるわけではありません。
だからこそ、継続的に人物写真や動画を使用する事業では、利用規約や同意書などによって、**撮影・利用・公開の範囲をあらかじめ明確にしておくことがトラブル防止につながります。
南本町行政書士事務所では、各種サービスの利用規約、撮影同意書、肖像利用同意書、出演承諾書などの作成についても対応しております。
事業で写真や動画を使用される場合には、実際の利用方法に合わせて規定を設計することが重要です。
南本町行政書士事務所 特定行政書士 西本