自分が使えるのと、店長に渡せるのは別だった
4店舗を見るようになって半年が過ぎたころ、自分の中で困っていたことがあった。
AIを使った組み立て方が、自分の手元ではだいぶ早くなっていた。週次面談は全部録音して文字起こし、朝礼の準備は前週ログと数値ダンプ込みで投げ、月次報告書は生データを丸ごと放り込んでからたたきをもらう。慣れた作業なら、ほとんどの工程がAIの席を経由して回るようになっていた。
それを4人の店長にそのまま渡そうとして、何度かつまずいた。
最初は、自分のプロンプトをそのまま共有した。「これコピペすれば同じこと起きるよ」と。返ってきた反応は、半分以上が「うまく動かないです」だった。同じ文章を打っているはずなのに、出てくる答えが店ごとにバラついていた。
理由は単純だった。素材の量と質が違うからだ。
自分はAIに「会話を全部投げる」「数値を全部投げる」「過去ログをセットで投げる」を当然の前提にしていた。プロンプトの文面より、どれだけ生データを並走させるかのほうが効いていた。文面だけコピペした店長たちは、自分の素材を10分の1も渡さずに同じ答えを期待していた。
それに気づいた瞬間、自分の渡し方は半分くらい作り直しになった。
「ひとこと質問」を、一度禁止した
ある店長は、AIに「今週どうだった?」みたいな、ひとこと質問を投げる癖があった。
返ってくる整理は、毎回ぼやけた一般論だった。本人もそれをわかっていて、「使えないっすね」と最初の数回で諦めかけていた。
そこで、ひとこと質問を一度禁止にした。代わりに、面談の録音→文字起こし、その週の売上明細、シフトの実績表、自分が現場で撮った写真メモ、それを全部一緒に渡してから問いを立ててくれ、と頼んだ。
最初の反応は「面倒くさいです」だった。それでも一週間だけ続けてもらった。
戻ってきたときの本人の声色が変わっていた。「面倒くさいけど、出るやつが別物でした」。素材を全部並べる手前の作業を、本人が一度やり切ったあとで、AIの出力は跳ねる。これを文章で説明したことが何度もあったが、実際にやって体感するまで、誰にも届かなかった。
その店長は、いま4店舗の中で一番AIを使い込んでいる。最初に投げる素材の量が、他の店長の3倍くらいある。
同じ問いを、3回打ち直す店長
別の店長は、出てきた答えを最初の1回で諦めるタイプだった。
「合ってないんで使わないです」と言って、画面を閉じる。何度かそのやり取りを見ていて、ある日「3回打ち直してみて」と言った。1回目の答えに、自分の店の前提情報を足して、もう一度問い直す。それを3回。
3回目で出てきたものを見て、その店長は「これ、僕が言いたかったやつです」と言った。
1回目で出るのは、平均的な答えだ。AIは知らない店の事情で組み立てているから、ぼやけて当然なのだ。2回目で、こちらの素材が入る。3回目で、ようやく自分の現場の話になる。それを早い段階で渡せていなかったのは、自分のミスだった。
「AIを使えるかどうか」ではなく、「3回打ち直す気力があるかどうか」と「投げ込む素材を3倍に増やせるかどうか」のほうが、はるかに分かれ目になっていた。
渡す手順を、紙にした夜
ここ数ヶ月、自分が4店舗に渡してきた手順を、紙にまとめている。
最初は、自分用のメモのつもりだった。プロンプトのテンプレートを並べたファイルにしようと思っていた。途中で気が変わった。テンプレートだけ並べても、たぶんあの店長たちは動かない。動かなかった経験を、もう2回くらいしている。
代わりに、20個の場面別に、「最初に投げる素材は何か」「録音をどう取るか」「過去ログをどこまで遡らせるか」「3回打ち直す手順」「ひとこと質問をやらない仕組み」みたいな、自分が現場でつまずいてから渡し直した順番を、そのまま並べた。
書きながら気づいた。これは、AIの使い方の手順書じゃない。素材を集める側の人間が、自分の集め方を見直すためのメモだった。AIは素材の量と並走の質にしか反応しない。プロンプトの巧拙より先に、そこで分かれる。
4店舗で同じことを何度も繰り返したから、ようやく言葉にできた手順だ。1店舗で完結していたら、たぶん書けなかった。
来週、また新しい店長に渡す機会がある。今度は、自分のプロンプトをコピペで渡すことはしない。先に「録音、取ってますか」と聞くと思う。
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