龍の尾のあとに浅い跡が残っていた日
夕暮れの河原のような場所に、青灰色の龍が観えた日がありました。空には薄い雲が広がり、水の音も風の音も強くありません。龍は川へ入るでもなく、遠くへ飛び立つでもなく、乾いた砂の上をゆっくり進んでいました。しばらく見ていると、龍の長い尾が砂に触れ、そのあとに浅い線が残りました。深く刻まれた溝ではありません。少し風が吹けば薄くなりそうな、細くやわらかな跡でした。どこから来たのか、どこへ向かっているのかは観えませんでした。ただ、龍がそこを通ったことだけが、砂の上に静かに残っていました。跡があっても行き先は分かりません何かの跡を見つけると、私たちはその先に意味を求めたくなります。過去の出来事が今につながり、やがて決まった場所へ導かれていくように感じることもあります。けれど、その日に観えた尾の跡は、龍の進む先を示す矢印ではありませんでした。線は途中で緩く曲がり、ところどころ砂に紛れています。これから右へ進むのか、川辺で止まるのかも分かりません。観えたのは、すでに通った場所だけでした。過去に残ったものと、これから起こることは、同じではありません。跡があるからといって、未来まで続き方が決まっているとは受け取れませんでした。消えかけたものも、なかったことにはしない風が通るたび、尾の跡には薄い砂が重なりました。最初にはっきり見えていた線も、少しずつ曖昧になっていきます。消えかけているから意味がない、とも思いませんでした。龍がそこを通った瞬間は確かにあり、砂が動いても、その時間まで消えるわけではありません。日常にも、形として残りにくい出来事があります。勇気を出して断ったこと。返事を急がずに待てたこと。
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