灰色の牢獄の中で ― 「うつ」という地獄の正体
「地獄」という言葉を聞くと、多くの人は炎に焼かれるような激しい痛みを想像されるかもしれません。 しかし、うつという病がもたらす地獄は、それとは正反対の「無」に近い場所にあるのです。 そこは、すべての色彩が失われた世界です。かつて心を躍らせた宝物はただの無機質な物体に見え、大好きだった料理も、口の中で砂を噛んでいるかのように味を失ってしまいます。悲しいはずなのに涙が出ず、嬉しいはずの場面でも心が微塵も動きません。感情のスイッチが壊れてしまったその場所で、人は「自分が人間ではなくなってしまった」という、底知れない孤独に飲み込まれていくのです。 この地獄が何よりもお辛いのは、本来一番の味方であるはずの「自分自身」が、最大の敵になってしまうことでしょう。 外側に敵がいるのなら戦いようもありますが、敵は自分の頭の中に棲みついています。脳内では24時間休むことなく裁判が開かれ、「お前はダメだ」「生きているだけで迷惑だ」という冷酷な判決が下され続けます。そこには、一時の逃げ場もありません。 気力を振り絞ろうとしても、体はそれに応えてくれません。それはまるで、バッテリーが完全に切れてしまったスマートフォンのようです。指一本動かすことさえエベレスト登山に匹敵するほどの重労働に感じられ、鉛のように重くなった体が、ベッドの奥深くへと沈み込んでいきます。 そして、この地獄の最も恐ろしい点は、「時間が止まってしまう」感覚にあります。うつの暗闇の中にいるとき、人は「未来」という概念を失ってしまいます。今この瞬間の苦しみが一生続くという確信だけが、出口のないトンネルのように目の前に横たわります。 しか
0