リーディングセラピー33 午前四時、始発が走る前に
※まずは深呼吸リラックスしてから読み進めてください肌に染み込むような静けさだった。
暗闇は、夜ではなく朝を孕んでいる。
駅のベンチに腰掛けると、ひんやりとした感触が太ももに伝わる。
静まり返ったホームに、自販機の低い唸り声だけが響いていた。
指先に触れる缶コーヒー。まだ開けていないのに、じんわりと温もりが伝わる。
目を閉じると、一瞬だけ耳鳴りのようなものがして、すぐに消えた。
遠くでカラスが鳴いた。
ああ、もうすぐだ。
始発が走り出す少し前。
まるで誰も知らない時間を手に入れたような、この数分だけは、いつも少しだけ呼吸が深くなる。
空を見上げる。黒と青の境界が、ほんのわずかににじむように混ざり合っている。
そのグラデーションに、胸の奥が微かに疼いた。今日が始まる前に、
今日が始まることを許す前に、
ここにいる。
――そんな時間だった。
指先で缶を開ける。
プシュッ、という音が妙に大きく響いた。
一口飲むと、苦みとわずかな甘さが喉を滑り降りていく。
心臓がゆっくりと動き出す感覚。
少しだけ、目が覚める。
「……あんまり無理すんなよ」
隣に誰かがいる気がした。
でも、振り向いても誰もいない。
さっきまで座っていた自分自身が、そこにいた気がする。
あるいは、ずっと前にここで立ち止まった誰かかもしれない。
それでも、その言葉だけは確かに耳に残っていた。
「お前だって、もう十分頑張ってるよ」
そう言われた気もした。
ゆっくり立ち上がる。
電車の明かりが遠くに見えた。
駅舎に響く、レールの振動音。
あと少しだけ、ここにいたい。
でも、もう行かなきゃ。電車に乗り込む。
車内には同じような顔が
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