おはようございます。MaCoです。
今日は「歌ってみたMIX」の現場で出会った、すごく理想的な修正依頼の話をしようと思います。
まず。エンジニア側からすると、修正依頼って全然悪いことじゃないです。
むしろ「一緒に作品を仕上げるための会話」だと思ってます。
「修正」という言葉力からやり直し感があるので向き合い方は人それぞれだと思いますが。
ただ現実には、
・「なんか違うんです…」だけ届いて、どこをどうしたいのか分からない
・「全部お任せします!」と言われたが、納品後から根本からやり直しになる
みたいなすれ違いも、あります。
もちろん、私たちエンジニア側も、もっと分かりやすく状況を確認したり、修正しやすい環境を作る努力が必要です。
そんな中で、ある日届いた一通の修正依頼メールが、あまりにも素晴らしくて。
今日はそのエピソードと、そこから見えてきた
「こんなやり取りができたら、お互いもっと楽しくなるよね」
というポイントをまとめてみます。
とある「歌ってみたMIX」で、理想的な依頼が届いた
少し前、とある歌ってみたMIXのお仕事がありました。
仮に、その方を Aさん とします。
いつも通り、
・素材を受け取る
・ピッチ/タイミング補正
・メインのMIX → 2mixを納品
という流れで初回MIXをお渡ししました。
しばらくして、Aさんから届いた修正依頼がこちら(要約です)。
① まず、全体の仕上がりについて
サビの広がり方と、2番の落ち着いた感じがすごく好きです!ありがとうございます。
② 修正をお願いしたいところ
・0:48〜1:02 のサビのボーカル
→ 「○○」「△△」の子音が少し強くて、イヤホンだと耳に刺さるように感じました。
ニュアンスはそのままで、ほんの少しだけ丸めてもらえると嬉しいです。
・0:12〜0:25 のイントロのブレス
→ ボーカルが入る直前のところだけ、ブレスが 1〜2dB 下がると歌の入りがもっと映えそうかな?と思いました。
③ お任せしたいところ
・全体の音量バランスと空間の作り方は、今の方向性が好きなのでお任せします!
これを読んだ瞬間、思わず「ありがたい…!」と声が出ました。
なぜここまで作業がスムーズに進んだのか?
ポイントを3つに分解してみます。
① 感情ではなく「現象」から書いてくれている
よくある修正依頼で多いのは、
・「なんかこもっている気がします」
・「もっとキラキラにしてほしいです」
・「全体的に違和感があります…」
みたいな、“感情・印象”の言葉だけ のもの。
これはこれで気持ちは分かるし、そこから会話していくこともできます。
ただ正直なところ、
「どのタイミングの、どの音が、どう違うのか」
を推理するところから始まるので、時間も手間もかかるのと、お互いすれ違いやすい。
一方で、Aさんの依頼はこうでした。
・0:48〜1:02 のサビのボーカル
・ 「○○」「△△」の子音が少し強い
・イヤホンで聴いたときに刺さる
場所・パーツ・再生環境 までセットになっています。
ここまで分かっていると、エンジニア側はすぐに
・ディエッサー or ダイナミックEQで
・指定ワードの子音だけ少し丸める
・ただし熱量は落としすぎないように A/B 比較しながら調整する
というふうに、具体的な処置まで一気にイメージできてDAWに戻らずとも工程が決まってきます。
ちなみに、冒頭の「サビの広がり方が好きです」という一言について。
これ、お世辞や気遣いで書いてくれたのかもしれませんが、エンジニア側からすると実は すごく重要な情報 なんです。
「どこが気に入ってもらえたか」が分かると
・その方向性をさらに広げられる
・逆に、修正で壊してはいけない部分が明確になる
・全体のバランスを取る時の「軸」ができる
良かった部分を教えてもらうことで、修正の精度が上がります。
まあ、、単純に褒められたら嬉しい、というのも正直あります(照) でもそれ以上に、「依頼者が何を大切にしているか」を知れることが、本当にありがたいんです。
② 主観を添えつつ、「お任せライン」も示してくれる
もうひとつ、Aさんのメールでありがたかったのが
・「◯◯だと嬉しいです」
・「今の方向性が好きなので、お任せします」
という”任せるところ”と”お願いするところ”の線引きが、最初から書かれていたこと。
エンジニア目線で正直に言うと、
・「全部お任せ」
・「全部こうしてほしい」
のどちらかに振り切られていると、どちらも対応が難しいです。
たとえば
全部お任せ:例
→ 実は「本当は気になっているところ」があるのに、言語化されないまま終わってしまうリスク
全部こうしてほしい:例
→ こちらの提案や経験値が入る余地が少なくなり、「誰がミックスしても同じ」になりがち
Aさんのように、
・「ここはこうしてほしい」
・「ここから先は、今の方向性が好きなのでお任せ」
と分けてくれると、
「大事な部分はしっかり守りつつ、それ以外はエンジニアとして一番良さそうな選択を取りにいく」
という動き方ができるので、仕上がりの精度もスピードも一気に上がります。
③ 優先順位がついているから、迷わない
Aさんの提案は、
全体の感想(良かったポイント)
修正してほしいポイント(2箇所)
お任せライン
という順番で、すでに優先順位がついていました。
特にありがたかったのは、
・「どこでもいいから全部ちょっとずつ良くしてほしい」ではなく
・「この2カ所をまず整えたい」
と絞ってくれていたこと。
これがあるだけで、
・スケジュールの見通し
・どこまで深掘りして聴き込むか
・以降の修正の可能性
などを、エンジニア側で冷静に設計できます。
逆に、優先順位が全く書かれていない修正依頼だと、
・どこから手を付けるのが正解か分からない
・作業時間も読めない
・結果的に「時間をかけた割に、依頼者の満足に繋がらない」
ということも起こりがちです。
率直に言うと、対応が難しい修正依頼もあります
せっかくなので、反対側も軽く触れておきます。
率直にお伝えすると、こんな依頼だと対応が難しくなることがあります。
・「なんか違うので、全部やり直してほしいです…」
・「イメージがうまく伝えられないんですが、プロなら分かりますよね?」
・「とりあえず全部もっとキラキラにしてください!」
気持ちは本当に分かります。
自分の歌だし、作品だし、「正解を言語化できない」のも普通です。
これは決して「依頼者が悪い」という話ではありません。
言語化が難しいのは当然ですし、私たちエンジニア側も「どう聞き出すか」の工夫が必要だと思っています。
ただ、この状態のままやり取りを続けると、
・エンジニアは「当てずっぽうで提案」するしかなくなる
・依頼者も「そうじゃないんだよな…」とモヤモヤしてしまう
という “お互いしんどいループ” に入りやすい。
だからこそ、完璧じゃなくていいので「現象」と「優先順位」を少しでも言葉にしてもらえると、お互いの時間を有効に使えるはずです。
ここまで読んでくれたあなたが、もし今後エンジニアさんに修正依頼を出すことがあったら──
Aさん方式をちょっと参考にしてみるだけで、お互いかなり幸せになれるはずです。
最後に、簡単な例を置いておきます。
そのまま使う必要はなく、あなたらしい言葉で伝える手助けにしてもらえたら嬉しいです。
修正は“共作の後半戦”
修正依頼って、どうしても
「エンジニアさんに悪い気がする…」
「こんなこと言っていいのかな…」
と遠慮されがちなんですが、本当はその逆で、
「ここからが一緒に仕上げる後半戦」
だと思っています。
もちろん、エンジニア側にも限界はあります。
ミックスでできること/できないことの線引きもあるし、予算や時間の中でどこまで踏み込めるか、という現実もあります。
それでも、
・「こう聴こえた」
・「ここが好きだった」
・「ここをもう少しこうしたい」
を言葉にしてもらえると、その作品は一段と ”その人の音楽” にきっと近づいていくはずです。
今回の理想的な修正依頼をくれたAさんのようなやり取りが、これからも増えていったらいいなと思いながら、僕もこんな感じで伝えると分かりやすいのか!っという学びでした。
ここまで読んでくれてありがとうございました。
それでは、一緒に音を楽しんでいきましょう(^^)
【付録】そのままコピペできる修正依頼テンプレート集
実際に使えそな修正依頼のテンプレートをいくつか用意しました。
状況に応じて選んで、自分の言葉にアレンジして使ってみて下さい🤲
◆ 基本テンプレート(汎用版)
件名:MIX修正のお願い(歌ってみた「〇〇」)
お疲れ様です、〇〇です。
初回MIXありがとうございました!
【1. 全体の印象】
・サビの広がり感がイメージ通りで嬉しかったです
・〇〇の部分の雰囲気も好きです
【2. 修正をお願いしたい箇所】
① (タイムコード)〇:〇〇〜〇:〇〇
・(どのパート:ボーカル)
・(どう聴こえたか:強い/弱い/こもる/刺さるなど)
・(どうしてほしいか:少し抑える/前に出す/丸くするなど)
② (タイムコード)〇:〇〇〜〇:〇〇
・(同上)
【3. お任せしたい部分】
・全体のバランスや空間の作り方は今の方向性が好きなので、
細かい調整はお任せします
よろしくお願いします!
◆ パターン1:ボーカルとオケのバランス調整
件名:MIX修正のお願い(ボーカルバランスについて)
お疲れ様です、MIXありがとうございました!
【全体の印象】
オケの迫力がすごく良くて、聴いていてワクワクします。
【修正希望】
・Aメロ(0:20〜0:45あたり)で、ボーカルがオケに少し埋もれて
聴こえづらい部分がありました
・イヤホンで聴くと特に気になったので、ボーカルを1〜2dBほど
前に出してもらえると嬉しいです
・サビ(1:05〜)のバランスはちょうど良かったです!
【お任せ】
他の部分のバランスはお任せします。
全体の雰囲気を壊さない範囲で調整していただけると嬉しいです。
よろしくお願いします!
◆ パターン2:もう少し明るく/暗くしたい(全体の雰囲気)
件名:MIX修正のお願い(全体の雰囲気について)
お疲れ様です、MIXありがとうございました!
【全体の印象】
丁寧に仕上げていただいて嬉しいです。
ボーカルの聴きやすさも良い感じです。
【修正希望】
・全体的に、もう少し明るく抜けた印象にしたいです
・今は少し落ち着いた印象に聴こえるのですが、もう少しキラキラ感や高域の煌めきが欲しいな、と感じました
・特にサビ(1:05〜)でそう感じたので、
そのあたりを中心に調整してもらえると嬉しいです
【お任せ】
具体的な手法はお任せします。
曲の雰囲気を壊さない範囲で、MaCoさんの判断にお任せしたいです。
よろしくお願いします!
◆ パターン4:子音・歯擦音が気になる
件名:MIX修正のお願い(ボーカルの子音について)
お疲れ様です!
サビの伸びやかさがすごく良くて、イメージ通りでした。
【修正希望】
・サビ(1:05〜1:20)の
「さしすせそ」「たちつてと」の子音(サ行・タ行)が
少し強く聴こえました
・イヤホンで聴くと特に刺さる感じがしたので、
歌のニュアンスはそのままで、少しだけ丸めてもらえると嬉しいです
【お任せ】
他のボーカル処理や全体のバランスはお任せします。
よろしくお願いします!
◆ パターン5:リバーブ・空間系の調整
件名:MIX修正のお願い(リバーブについて)
お疲れ様です、MIXありがとうございました!
【全体の印象】
ボーカルの存在感と、オケのバランスがすごく良いです。
【修正希望】
・サビ(1:10〜)のボーカルのリバーブが、
少し深すぎるように感じました
・もう少し「近く」「輪郭がはっきり」聴こえると嬉しいです
・Aメロ(0:20〜)くらいの距離感が好きだったので、
サビもそれに近い感じにしてもらえると嬉しいです
【お任せ】
リバーブの種類や細かい調整はお任せします。
よろしくお願いします!
◆ パターン6:どうしても言語化が難しいとき
件名:MIX修正のお願い(うまく言葉にできないのですが…)
お疲れ様です、MIXありがとうございました!
【全体の印象】
丁寧に仕上げていただいて嬉しいです。
【修正希望】
うまく言葉にできないのですが、
・サビ(1:10〜1:40)あたりが「なんとなく違和感」があります
・具体的に何が原因か分からないのですが、
「ボーカルが少し遠い」か「オケが少し派手すぎる」ような…?
お手数ですが、
・ボーカルとオケのバランス
・全体の明るさ/暗さ
あたりを中心に、少し調整してもらえると嬉しいです。
もし「ここが原因かも?」と思うところがあれば、
教えていただけると助かります。
【お任せ】
他の部分はお任せします。
よろしくお願いします!
【使い方のコツ】
・全部埋めなくてOK
→自分に当てはまる項目だけ使ってください
・タイムコードは必須
→「どこの話をしているか」が分かるだけで伝わりやすさが段違いです
・「好きな部分」も書く
→お世辞じゃなく、エンジニアにとって重要な情報です
・優先順位をつける
→修正箇所は1〜3個に絞ると、スムーズに進みます
・完璧じゃなくていい
→「なんとなく違和感」でもOK。そこから一緒に探していけます。