研究論文の考察を書いているとき、先行研究をどのように使えばよいのか迷ったことはありませんか?
自分の研究結果に関連する論文を探して、引用する文献も集めた。
それなのに、いざ考察を書いてみると、何となく内容が薄いように感じる。
あるいは、指導者から「先行研究の紹介になっている」「もう少し自分の結果について考えてみて」と言われた経験がある方もいるかもしれません。
考察では、先行研究を引用することが大切です。
ただし、先行研究をたくさん引用すれば、それだけで考察が深まるわけではありません。
大切なのは、先行研究に何が書かれているかを紹介することだけでなく、自分の研究結果とどのような関係があるのかを考えることだと思います。
今回は、先行研究を考察の中でどのように活用すればよいのかについて書いてみます。
先行研究を並べるだけでは、考察にならないことがある
考察を書いていると、次のような文章になることがあります。
「Aらは、看護師の経験年数と看護実践には関連があると報告している。また、Bらも経験年数によって看護実践に違いがあると報告している。さらに、Cらは経験を積むことの重要性を指摘している」
この文章には、複数の先行研究が引用されています。
関連する研究を調べていることも伝わります。
しかし、これだけでは、自分の研究結果について何を考えたのかが十分に分かりません。
例えば、自分の研究でも経験年数による違いが認められたのであれば、その結果が先行研究とどのように一致しているのかを説明する必要があります。
反対に、先行研究とは異なる結果が得られたのであれば、なぜ違いが生じた可能性があるのかを考えることも重要です。
先行研究を引用すること自体が目的になってしまうと、自分の研究結果についての説明が少なくなってしまうことがあります。
考察の中心にあるのは、あくまでも自分の研究で得られた結果です。
先行研究は、その結果を理解し、解釈するために活用するものだと思います。
まずは自分の研究結果から考え始める
考察を書くとき、最初から関連する先行研究を探して文章を組み立てようとすることがあります。
もちろん、先行研究を確認することは重要です。
ただ、その前に、自分の研究で何が明らかになったのかを整理しておきたいところです。
例えば、看護師の経験年数と、ある看護実践に対する認識との関係を調べた研究があったとします。
その結果、経験年数の長い群では、特定の項目の得点が高かったとします。
この場合、まず確認したいのは、どの項目で違いが認められたのか、どの程度の違いがあったのか、他の項目ではどうだったのかということです。
そして、その結果が研究目的に対して何を示しているのかを考えます。
そのうえで、関連する先行研究と比較していきます。
この順番を意識すると、先行研究の内容に自分の考察を合わせるのではなく、自分の結果を説明するために必要な文献を活用しやすくなります。
ただし、研究結果から言える範囲を超えて解釈しないことも大切です。
例えば、経験年数の長い群で得点が高かったとしても、それだけで「経験年数が増えたことによって得点が高くなった」と因果関係まで説明できるとは限りません。
研究結果から確認できたことと、そこから考えられることを区別する。
考察を書くうえで、基本になる視点だと思います。
先行研究と一致したら、何を書けばよい?
自分の研究結果が先行研究と一致していた場合、「先行研究と同様の結果が得られた」と書くことがあります。
これは間違いではありません。
しかし、それだけでは考察として物足りない場合があります。
例えば、先行研究でも経験年数の長い看護師ほど、ある看護実践に対する認識が高かったとします。
自分の研究でも同じ傾向が認められたのであれば、どのような点が共通しているのかを整理します。
対象となった看護師の経験年数は似ているのか。
同じ看護実践を評価しているのか。
使用した質問紙や測定方法は同じなのか。
こうした点を確認することで、単に「一致した」という説明から一歩進めることができます。
また、複数の研究で同じ傾向が認められているのであれば、その結果が特定の施設や対象者だけに限られたものなのか、異なる条件でも観察されているのかを考える手がかりになる場合があります。
ただし、先行研究と一致したからといって、自分の研究結果が正しいと証明されたわけではありません。
研究対象や方法の違い、結果の不確実性なども踏まえて解釈する必要があります。
一致した結果についても、どのような条件で、何が共通していたのかを考えることが大切だと思います。
先行研究と違う結果が出たら、どう考える?
研究を進めていると、先行研究とは異なる結果が得られることがあります。
例えば、先行研究では経験年数による違いが認められていたのに、自分の研究では明確な違いが認められなかった場合です。
このようなとき、「先行研究と一致しなかった」と書いて終わってしまうことがあります。
しかし、結果が異なったことも、考察を深めるための重要な手がかりになる場合があります。
まず確認したいのは、研究条件の違いです。
例えば、先行研究と自分の研究では、対象者の所属施設や経験年数の分布が異なるかもしれません。
また、評価した看護実践の内容や測定方法が違う可能性もあります。
こうした違いが結果に関係している可能性について検討することは、考察の一つの方法です。
ただし、ここで注意したいことがあります。
それは、結果が異なった理由を、根拠がないまま決めつけないことです。
「対象者の経験が不足していたため、違いが認められなかった」と書いたとしても、経験の不足を実際に測定していなければ、その説明は推測にとどまります。
また、統計学的に有意な差が認められなかったことは、必ずしも差が存在しないことを意味しません。
標本サイズや推定値の不確実性なども考慮する必要があります。
先行研究と異なる結果が得られたときは、違いを無理に説明しようとするのではなく、確認できる事実と、考えられる可能性を分けて記述することが大切です。
比較するときは、研究の条件にも目を向ける
先行研究を読むとき、結論や考察の部分だけを確認していませんか?
もちろん、研究者がどのように結果を解釈しているのかを読むことは大切です。
ただし、自分の研究と比較するのであれば、研究方法や対象者についても確認しておきたいところです。
例えば、同じ「看護師の認識」を扱った研究でも、新人看護師を対象とした研究と、経験豊富な看護師を対象とした研究では、結果の意味が異なる場合があります。
また、質問紙調査によって得られた結果と、インタビューによって得られた結果では、明らかにしている内容や分析の方法が違います。
さらに、同じような質問紙を使用していても、評価している概念や得点化の方法が異なることがあります。
そのため、先行研究を引用するときには、結果だけを取り出して比較するのではなく、その結果がどのような方法で得られたのかを確認する必要があります。
研究方法が異なるから比較できない、ということではありません。
むしろ、異なる方法によって得られた知見が、自分の研究結果を理解するうえで役立つ場合もあります。
ただし、その場合も、何が共通していて、何が異なるのかを明確にすることが重要です。
先行研究の結論だけでなく、研究の背景や方法まで確認することで、より慎重な比較ができると思います。
先行研究で説明できない部分は、どうすればよい?
考察を書いていると、自分の研究結果にぴったり当てはまる先行研究が見つからないことがあります。
特に、新しいテーマや、これまで十分に研究されていない現象を扱っている場合には、そのようなこともあると思います。
このとき、無理に似た研究を探して、自分の結果と結びつけようとする必要はありません。
直接比較できる研究が少ないのであれば、そのこと自体が研究領域の現状を示している場合もあります。
ただし、「先行研究がない」と断定するには、十分な文献検索が必要です。
自分が探した範囲で見つからなかったことと、研究が存在しないことは違います。
また、直接同じテーマを扱った研究がなくても、関連する概念や理論、近い領域の研究が解釈の手がかりになることがあります。
例えば、特定の看護技術について直接検討した研究が少なくても、熟練者の判断や経験知、技能習得に関する研究が参考になるかもしれません。
もちろん、関連する研究だからといって、その知見をそのまま自分の研究に当てはめられるわけではありません。
どの部分が参考になり、どこから先は自分の研究だけでは説明できないのかを整理する必要があります。
先行研究で説明できない部分が残ることは、必ずしも考察が不十分であることを意味しません。
明らかになったことと、まだ分からないことを区別することも、研究の大切な役割だと思います。
最後に
研究論文の考察では、先行研究を引用することが重要です。
ただし、引用した論文の数が多ければ、それだけで考察が深まるわけではありません。
まずは、自分の研究で何が明らかになったのかを整理すること。
そのうえで、先行研究と一致する部分や異なる部分を確認し、研究対象や方法の違いも踏まえて考えること。
そして、先行研究だけでは説明できない部分についても、根拠のある範囲で慎重に検討すること。
こうした作業を積み重ねることで、単なる文献紹介ではなく、自分の研究結果を中心とした考察に近づいていくと思います。
考察を書くとき、先行研究を探すことに一生懸命になってしまうこともあるかもしれません。
しかし、大切なのは、引用する文献を増やすことだけではありません。
先行研究を使って、自分の研究結果について何を考えられるのか。
その視点を持ちながら、考察を組み立てていきたいところです。
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