精神科の診察や相談の中では、ご本人だけでなく、ご家族からのご相談を受けることも少なくありません。
特に多いのが、
「大人になった子どもと、どう関わればいいのかわからない」
というお悩みです。
子どもとはいっても、もう成人している。
本人の人生だから、あまり口を出しすぎるのも違う。
でも、生活リズムが乱れていたり、仕事が続かなかったり、お金の使い方が心配だったりすると、親としてはどうしても放っておけない。
この“心配しているからこそ関わりたい”という気持ちと、
“本人の自立を尊重しなければいけない”という気持ちの間で、苦しくなってしまうご家族はとても多いです。
過去に、こんなご相談がありました。
成人したお子さんが、仕事を何度か辞めてしまい、家にいる時間が長くなっていました。
ご家族は最初、励ますつもりで、
「そろそろ働いた方がいいんじゃない?」
「このままで大丈夫なの?」
「ちゃんと将来のことを考えてる?」
と声をかけていました。
もちろん、責めたいわけではありません。
親として心配だからこそ出てくる言葉です。
ただ、お子さん側からすると、その言葉が
「自分はダメだと言われている」
「また責められている」
というふうに聞こえてしまっていました。
その結果、会話を避けるようになり、部屋にこもる時間が増え、親子の距離はさらに広がっていきました。
そこで、ご家族にはまず、声かけの目的を少し変えていただきました。
「働かせるために話す」のではなく、
「本人が今どんな状態なのかを知るために話す」
という関わり方です。
たとえば、
「最近、しんどさはどれくらいある?」
「今すぐ働く話じゃなくていいから、何が一番負担になっているか聞かせてほしい」
「こちらも心配で言いすぎてしまうことがあるから、嫌だったら言ってね」
このように、結論を急がず、まず本人の感じている困りごとを聞く形に変えていきました。
すると少しずつ、お子さんの方から
「働くのが嫌というより、人間関係でまた失敗するのが怖い」
「体力が続くか不安」
「でも、このままでいいとは思っていない」
と話してくれるようになりました。
ご家族にとっては、「やる気がない」と見えていた状態が、実は「不安が大きすぎて動けない」状態だったのです。
そこからは、いきなりフルタイムで働くことを目標にするのではなく、生活リズムを整えること、短時間の外出を増やすこと、相談機関や支援先につながることなど、小さな段階に分けて進めていきました。
大切なのは、親がすべてを解決しようとしすぎないことです。
ご家族ができることは、本人の代わりに人生を動かすことではなく、本人が自分で動き出せるような環境を整えることです。
そのためには、時に距離を取ることも必要です。
何も言わずに見守る時間が、本人にとっては「自分で考える時間」になることもあります。
もちろん、暴力、自傷の恐れ、生活が破綻している状態、強い抑うつや幻覚・妄想が疑われる場合などは、家族だけで抱える必要はありません。
医療機関や地域の相談窓口につなげることが大切です。
大人になった子どもとの関わりは、正解がひとつではありません。
近づきすぎると衝突し、離れすぎると不安になる。
その間で悩むのは、ご家族が真剣に向き合っている証拠でもあります。
「どう動かすか」よりも、まずは「どう理解するか」。
その視点を持つだけで、親子の会話が少しずつ変わっていくことがあります。
焦らず、責めず、でも一人で抱え込まずに。
家族だけで解決しようとせず、必要な支援を使いながら、本人に合った歩幅を一緒に探していくことが大切です。