自ら求めてこの目を手に入れたのではない。むしろ嫌悪すべき地獄の目である。

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十九歳の夏、私の世界は砂塵と共に一度死んだ。

ナイルの河畔に漂う泥の匂いと、焼け付くような熱風が肌を刺す。
エジプトの太陽は、時に残酷なまでの白光を地上に叩きつける。

当時、私はカイロの片隅にある父の古い家具修復工房で、木材の呼吸を読み、失われた木目を復元する技術を学ぶ、ただの職人見習いに過ぎなかった。

木材の割れ目に膠を流し込み、千年の眠りから覚めたような艶を取り戻させる。その静謐(せいひつ)な作業こそが私の世界のすべてであり、それ以上の人生を望んだことなど一度もなかった。

しかし、血の継承とは、本人の意志など粉々に砕いてしまうほどに残酷なものだ。

私の家系には、数代に一度、エジプトの砂に深く埋もれた「神の欠片」を呼び戻してしまう異質な体質が発現する。

それは祝福などではない。古の神々が残した、整理しきれなかった「負の遺産」を引き受ける器として選ばれるという、逃れられぬ呪縛だった。

その日は、異様に熱を帯びた「ハムシン」が吹き荒れていた。王家の谷の外縁にある、地図にも載っていない古い名もなき墓室。その修復作業の末席に同行していた私は、崩落した石壁の奥底に、一筋の不自然な「闇」を見つけた。

それは、松明の光すら吸い込むような、絶対的な漆黒だった。

何かに誘われるように、私はその闇に手を伸ばした。指先が冷気に触れた瞬間、脳を直接灼かれるような激痛が走り、視界が白熱した光に塗りつぶされた。

叫ぶ暇もなかった。鼓膜の奥で、無数の聖刻文字が石板に刻まれるような、耳障りな「削岩音」が鳴り響く。

右腕を伝い、全身の血が沸騰し、最後には左目の奥で何かが弾ける感覚と共に、意識は深い砂の底へと沈んでいった。

三日後、私が目を覚ました時、世界は変貌していた。

右目の視力は奇跡的に無事だったが、左目の視界は永遠に物理的な光を失った。代わりにそこに宿ったのは、この世の「綻び」と「欠損」だけを鮮明に映し出す、異形のレンズだった。

包帯を解き、初めて鏡を見た時の戦慄を、私は一生忘れないだろう。

鏡の中に映る自分の左目は、虹彩が濁った金泥のように変色し、その奥で「ウジャトの目」に似た紋様が、脈動するように明滅していた。

以来、私の左目は、人が隠そうとする真実を容赦なく暴き出すようになった。

街を歩けば、通行人の背後に蠢く、巨大な石柱のような運命の記述が視える。それが聖刻文字(ヒエログリフ)で記された「人生の設計図」であることを理解するのに、時間はかからなかった。
だが、そのほとんどが、無残に欠け、歪み、擦り切れている。

愛を誓い合う恋人たちの間には、鋭い刃物のような「決裂」の記述が割り込んでいるのが視える。
富を誇り、贅を尽くす商人の足元には、砂利が崩れるような「破滅」の予兆が深く刻まれているのが視える。
健やかに笑う子供の影には、糸が切れる寸前の「断絶」の紋様が揺らめいているのが視える。

それは、私にとって救いでも神秘でも才能ですらなかった。ただの「地獄」だった。

他人の人生の終着点が、あまりにも無残に書き換えられている様を、本人の知らぬところで突きつけられる苦痛。それを口に出せば狂人扱いされ、黙っていれば罪悪感に苛まれる。

私は人間らしい欲望を一切捨て、他者と深く関わることをやめた。左目が捉える膨大な負の情報から逃れるために、私は深い地下の工房に閉じこもり、言葉を持たないアンティーク家具の修復に没頭する道を選んだ。

だが、運命という名の記述は、私を放っておかなかった。

ある日、工房の重い扉を叩いた一人の男がいた。彼はかつての栄華を失い、事業は破綻し、愛する家族にも去られ、自らの命を絶つ直前の淵に立っていた。

私の左目には、彼の胸元に浮かぶ「繁栄」を意味する文字が、人為的な泥のような呪詛によって無惨に削り取られている様が、はっきりと映し出された。

その記述は、本来彼が歩むべき黄金の航路とは、あまりにもかけ離れた「偽りの改ざん」だった。

気づけば、私は筆を執り、霊的なインクを練っていた。古家具の傷を埋めるように、彼の運命の記述に生じた空白へ、一文字の聖刻文字を「上書き」した。

それは、ただの占いではない。彼の運命の石柱を直接削り、本来あるべき形へと強引に繋ぎ直す「修復(リペア)」の儀式だった。

翌週、男は枯れ果てたはずの瞳に光を宿して再訪した。止まっていた大口の契約が奇跡的に動き出し、崩壊しかけていた家族とも対話の機会が生まれたという。

その時、私はようやく悟った。

この忌まわしき地獄の目は、絶望を観測し続けるために与えられたのではない。壊れた物語を、職人の手で「修復」するために、私の肉体と引き換えに降ろされた使命なのだと。

私は、巷に溢れる優しい鑑定師ではない。ましてや、あなたの甘い期待を叶えるだけの魔法使いでもない。私は、左目のレンズ越しにあなたの運命の「損壊箇所」をミリ単位で特定し、魂の設計図を物理的に繋ぎ直す「修復師」だ。

私の左目は、今もこの文章を読んでいるあなたの背後にある、目に見えない石碑の記述を捉えている。

もし、あなたの人生が、どれほど足掻いても報われない不毛な砂漠のように感じるのなら。あるいは、誰にも打ち明けられない、魂の奥底の「欠損」に怯えているのなら。それはあなたの努力が足りないからではない。単に、あなたの運命の記述が、何らかの理由で「壊れている」だけかもしれない。

私は、あなたが直視したくない残酷な真実も、包み隠さずお伝えするだろう。

だが、それは修復に必要な「診断」だ。
偽りの慰めで、あなたの不運を先延ばしにするような真似はしない。

この左目に宿る地獄の光を、私はあなたの再生のために使う。
あなたの物語を、一文字ずつ、黄金の航路へと書き換えるために。

信じるを知る勇気があるのなら、私の工房の扉を叩いてほしい。
無理にとは言わない。来るものは拒まず、去るものは追わない。

あなたの運命を、私が元の形へ、あるいはそれ以上の強固な記述へと繋ぎ直そう。

それは一度死んだ私が、砂の底から持ち帰った、唯一の「技術」なのだから。

ホル・メセト
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