「どんなマジックを使ったんだ⁉」インドの若き経営者との忘れない商談

「どんなマジックを使ったんだ⁉」インドの若き経営者との忘れない商談

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ビジネス・マーケティング
当時の私は、ある企業が独占していた特殊な染料を、海外で製造できるメーカーを血眼で探していました。
いくつもの検討と交渉の末、ようやくインドで一社、中堅ながらも、その分野に特化したメーカーを見つけたのです。

初めてコンタクトを取った時から、メールの返信も早く、柔軟な対応が印象的でした。
「どんな人物なんだろう?」と思い立ち、直接電話をかけてみると、若い男性の声がしました。

話を進めるうちに、彼こそその会社の社長で、日本市場への進出に強い関心を持っていると言うのです。



数週間後、彼が顧客訪問のために日本へやってくることになりました。

ホテルのロビーで待ち合わせ、姿を見た瞬間に驚きました。
まだ30歳になったばかりの、清潔感あふれる好青年。
しかも、スーツにスニーカーという絶妙なスタイルが、彼の知的さと軽やかさを引き立てていました。

実際に話してみると、社交的でありながら合理的。
まず相手の話をしっかりと聞き、核心を突いた意見を返してくる。

数多くのインド人ビジネスマンと会ってきましたが、彼のように「聞く力」と「思考の切れ」を兼ね備えた人物は初めてでした。



取引が始まると、特殊染料ならではの色調や発色の微妙な違いに苦戦しました。

日本の顧客はわずかなトーンの差にも敏感です。
それでも彼は決して諦めず、試作を重ね、私たちの要望に丁寧に応えてくれました。

そして、ようやく日本市場に受け入れられる品質に到達したのです。



ある夜、彼と食事をしている時に、私は思い切って聞きました。

「次、何か一緒にやろうよ。逆にあなたは、インドでどんなものを輸入して売りたい?」

少し考えた後、彼はこう言いました。

「インドはね、金(ゴールド)の保有量が世界一レベルなんだ。国外に流出しにくい国でもある。」

それを聞いて、私は思わず言いました。

「えっ、インド人って金がそんなに好きなの⁉」

すると彼は、間髪入れずに笑いながら叫びました。

「好きなんてもんじゃない!死ぬほど好きだよ!」

──何かがはじまる、そんな直感が走りました。

「金ね〜。」

「そう、日本には「都市鉱山」からリサイクルする技術がある。しかもその精度は世界でもトップクラスだよ。」

「じゃあ、貴金属回収装置を作ってるメーカーを当たってみようか⁉」

「ありがたい。ぜひお願いするよ。」

──そんなやり取りがきっかけでした。



翌日から私は、主だった製造メーカーのリストをつくり、電話とメールで片っ端から連絡を取りました。

すると偶然にも、あるメーカーの担当者が、私の住む町のすぐ近くにお住まいだとわかったのです。
思い切って近所の店にお誘いすると、その方は快く承諾してくださり、数日後にお会いすることになりました。

当日、現れたのは明らかにスポーツで鍛えた体格の、快活な課長さん。
よく食べ、よく飲み、話も弾み、すっかり意気投合しました。

そして帰り際に、こんな言葉をいただきました。

「ぜひ、インドの若社長にうちの工場を見ていただきたい。」



それから数ヶ月後──
彼が再び来日しました。

今回もスーツにスニーカーでビシッときめてます。

工場見学の詳細を伝えると、目を輝かせてこう言いました。

「こんなに早く製造メーカーと会えるなんて!しかも工場まで見学できるなんて!一体どんな「マジック」を使ったんだい⁉」

私は笑いながら、「目がゴールドシャインだね」とだけ返しました。

工場では、技術も設備もプロセスもすばらしく、さすがこの分野のエキスパートという印象でした。

彼も感服した様子で、見学を終えたあと、しばらく無言のまま感心していました。


残念ながらこの商談の結果は、すぐには結実しませんでした。

貴金属回収装置がレンタルを中心としたビジネスモデルだったため、「装置を購入したい」彼の希望とは少し噛み合わなかったのです。

しかしこの一件をきっかけに、彼とは何度も新しい事業の構想を語り合うようになり、それが習慣化していきました。

そして最終的には、まったく別の事業が立ち上がるほどの関係に発展しました。


このような取り組み姿勢がルーティン化されると、海外の調達先との関わりから得られるものは、単なる仕入れ条件や価格情報にとどまりません。

現地の経営者や技術者と直接向き合うことで、その国の市場の動きや、企業が抱える課題、次に何を求めているのかが見えてきます。

その一つひとつの対話や行動が、結果として信頼を生み、新しい事業を生み出す起点になっていくのだと実感しました。



このエピソードのように、海外の経営者や技術者と直接向き合うことで初めて見えてくる「答え」があります。 

しかし、最初の一歩をどう踏み出すか、どう関係を築くかは、教科書には書いてありません。

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