水曜日の連載「ロスト・フロンティア」第13回では、創生メタルの債権が外資系ファンドに落札され、自社買い取りという「最後の希望」が潰える瞬間を描きました。
当時の誠は、この結果を「逆プレミアム」と呼び、制度の歪みや運命のせいにすることで自分を納得させようとしました。しかし、35年の歳月を経て多くの再建現場に立ち続けてきた今の私には、その正体がはっきりと見えています。
今回は、なぜあの時、会社に値段が付かなかったのか。そして「意志」を持たない経営者が、市場からいかに無慈悲に切り捨てられるのか、その冷徹な真実をお伝えします。
はじめに:誠は過去の自分を救うことをやめた
「必死に頑張ったのだから、誰かが報いてくれるはずだ」
そんな甘えは、再生の現場では一円の価値もありません。外資系ファンドは冷酷ですが、嘘はつきません。彼らが見ているのは、過去の苦労ではなく、その会社の「未来の価値」だけです。
創生メタルの自社買い取りが失敗したのは、資金不足のせいではありません。経営者としての私が、市場から「無価値」と断じられた。ただそれだけのことなのです。
1. 誠が失格だった理由 ―― 問いを持たなかった経営者
当時の誠は、確かに必死でした。資金繰りを回し、銀行に頭を下げ、社員を守ろうと奔走していました。しかし、彼には決定的に欠けていたものがあります。
「この事業を、なぜ、何のために続けたいのか」
この問いを、彼は一度も本気で考えませんでした。
彼の心にあったのは、「潰したくない」「失敗を認めたくない」「先代に顔向けできない」といった、すべて「過去」に向けた執着だけでした。
そこには未来の話が一つもありません。顧客の利便性も、社会への貢献も、社員の5年後の幸せも出てこない。それはもはや「事業」ではありません。自分自身の「敗北」という事実を先送りするための、醜い延命装置に過ぎなかったのです。
2. 逆プレミアムの正体 ―― 中身のない会社は、安くも高くもならない
「逆プレミアム」とは、制度が生んだバグではありません。「再生する理由(意志)」を持たない経営者に対する、市場からの回答です。
44億円の債務免除益などという数字の遊びは、本質ではありません。意志のない会社にいくら資金を注入しても、再生は不可能です。ファンドは、誠の中に「事業を預けるに足る魂」を見出せなかった。だから値段が付かなかった。それが、逆プレミアムの正体です。
中身のない会社は、安く買い叩かれることすらありません。ただ「無視」されるのです。
3. 私が今、経営者の隣に座る理由
誠は自分の会社を救えませんでした。だからこそ、今の私があります。
私はもう、夢を語るだけの経営者も、正論を振りかざすだけの金融機関も、「なんとかしたい」という曖昧な言葉も、何一つ信用していません。
私が今の支援現場で徹底しているのは、これだけです。
・本当にやりたいことを、逃げ場なく言語化させる
・それが現実に通用するかを、数字という暴力で検証する
・それでもやるのかを、経営者自身の「血」で決めさせる
私は、救いません。代わりに、二度と自分に嘘をつかせない。
あの日の津田誠さんへのメッセージ
21歳の誠、お前は経営者じゃなかった。ただの「負けを認められない臆病な人間」だった。
金があれば救われると思ったか?
誰かが助けてくれるのが正義だと思ったか?
違う。お前は「決めること」から逃げていただけだ。
逆プレミアムは天罰じゃない。お前に突きつけられた「経営者失格の通知書」だ。
次は逃げるな。
事業をやるなら、命を賭けろ。
その覚悟がないなら、今すぐその席を降りろ。
それだけだ。