精神疾患のある子どもと暮らしている親御さんから、「私たちがいなくなった後、この子はどうなるんでしょう」という話を聞くことがあります。
親が元気なうちは、生活を支えることができます。食事を用意する。お金を管理する。病院の日を覚えておく。必要なら、一緒に受診する。困ったことがあれば、代わりに対応する。長くそうして暮らしてきたご家庭もあります。
そういうご家庭ほど、「この家を残してあげれば大丈夫」「生活できるだけのお金を残しておけば安心」と考えます。気持ちは分かります。
でも私は、家とお金が残っていることと、一人で生活を続けられることは、別だと考えています。
残すお金と、一人で暮らせることは違う
たとえば食事です。料理ができなくても、生活する方法はあります。お弁当を買う。スーパーやコンビニを利用する。簡単なものを自分で用意する。実際、そうやって一人で暮らしている方もいます。
大事なのは、その人が自分で食べるものを用意できるかどうか、です。
お金も同じです。買い物に行って、何がどれくらいの値段なのか分かるか。一か月に使える金額を考えられるか。必要なお金を、残しておけるか。
通院もあります。自分で病院まで行けるのか。次の受診日を把握できるのか。薬を、どう管理しているのか。
ゴミを出す。洗濯をする。必要なものを買う。困ったときに、誰かへ助けを求める。一人で暮らすには、いろいろなことが必要になります。
もちろん、全部を一人でできなければいけないわけではありません。できないところは、支援を使えばいい。ただ、何ができて、どこに支援が必要なのか。それは親御さんが元気なうちから見ておいた方がいいと、私は思っています。
「かわいそう」で、決めてしまう前に
親御さんに、「グループホームも考えてみませんか」と話すこともあります。しかし、「家から出すのはかわいそうです」と言われることもある。これも珍しいことではありません。
今まで一緒に暮らしてきた子どもです。知らない場所へ出すことに抵抗があるのは、当然だと思います。
いきなり入居を決める必要はありません。まず見学してみる。どんな人が暮らしているのか。どんな支援を受けられるのか。本人が、どう感じるのか。そこから考えることもできます。
私はむしろ、親御さんが動けなくなってから、突然生活を変えなければならなくなることの方を心配します。
親が入院したら。介護が必要な状態になったら。そして、親が亡くなったら。
「もう家で支える人がいないから、明日から一人で暮らしてください」「グループホームへ行きましょう」と言われても、本人にとっては大きな環境変化です。場合によっては、精神状態を崩して入院するケースもあります。
入院できれば安心、でもない
訪問看護の現場では、精神状態の変化で入院になることも、少なくありません。
なかには、「入院すれば、退院先を自宅以外にできて、家を出てもらえるのではないか」と考える親御さんもいます。本人が嫌がって、強くは言えない。それなら入院を、きっかけにできないか、と。
たしかに、入院すればケースワーカーがいるので、相談はしやすくなります。その間に、退院後の生活を考えられることもあります。
ただ、それでも簡単には進みません。本人が嫌がることもあります。親御さんが迷うこともあります。最終的には、本人の意思と親御さんの意向で、また元の家に戻ることも少なくないんです。
だからこそ、「親亡き後の準備」は、親が亡くなった後にするものではない。私はそう考えています。
今すぐ一人暮らしをさせる、という話でもありません。今できることを知る。できないことを知る。買い物を一緒にしてみる。通院方法を確認する。グループホームを見学してみる。家族以外に頼れる人や場所を、少しずつ増やしていく。
親御さんが元気な今だから、一緒にできることがあります。
「かわいそうだから、まだいい」ではなく——今なら、失敗しても親御さんがそばにいる。その時間を、私は大切にした方がいいと思っています。
「うちの子は一人では暮らせない」と思っている親御さんへ
本当に一人暮らしが難しい方もいます。一方で、「できないと思っていたけれど、やってみたらできた」ということもあります。反対に、できると思っていたことが、難しいと分かることもあります。
最初から「一人暮らしは無理」「グループホームしかない」と決める必要はありません。
まず、今の生活のどこを家族が支えているのか。本人だけでできていることは何なのか。そこを整理するところから始められます。
私はココナラの3日間相談で、今のご家庭の状況を伺いながら、これから考えておいた方がいいことを一緒に整理しています。
「親亡き後が心配。でも、まだ何も起きていないから何をしたらいいのか分からない」——そんな段階からでも、大丈夫です。