タロットカードを手に取るたびに、私はいつも少しだけ緊張します。
何千回と繰り返してきたはずのこの所作が、毎回はじめてのように感じられるのです。
占い師というと、なにか特別な霊感や超常的な力を持った人間だと思われがちですが、実際のところ、私がやっていることはとても地味な作業です。
依頼主の声に耳を傾け、カードを並べ、そこに描かれた絵柄をじっと見つめる。それだけのことです。
けれども「それだけのこと」の中に、ときおり不思議な瞬間が訪れます。
ある日、恋愛の相談で来られた女性にカードを引いたとき、塔のカードが出ました。
崩壊や突然の変化を示すいわゆる怖いカードです。
しかし私はそのとき、カードの絵をしばらく眺めたまま、なにも言葉が出てきませんでした。
カードが沈黙していたのです。
正確に言えば、沈黙していたのは私自身の心のほうでしょう。
塔の意味を教科書どおりに伝えることはできます。
でも、目の前のこの方にとって、このカードがなにを語りかけているのかが、すぐには掴めなかったのです。
私は正直にそう伝えました。
少しだけ待ってください。まだカードの声が聞こえてきませんと。
すると、その女性がぽつりと言いました。
実は、壊したいものがあるんです。
ずっと続けてきた関係を、そろそろ終わらせたいと思っています。
その瞬間、塔のカードがまったく違う表情を見せました。
恐ろしい崩壊ではなく、自らの意志で古い構造を手放すという、力強い決意の象徴として。
タロットには、それぞれ伝統的な意味があります。
しかし私が長年この仕事を続けてきて確信しているのは、カードの意味は相談者の方と出会ってはじめて完成するということです。
同じ塔でも、ある人には警告になり、
別の人には背中を押す励ましになります。
占い師の仕事は当てることではありません。
目の前の方が自分自身の心の声に気づくための、ささやかな補助線を引くことだと思っています。
カードはその補助線を引くための美しい道具にすぎません。
ですから私は占いの結果を絶対的な未来の予言としてお伝えすることはしません。
こういう可能性がありますね。
こんなふうに感じませんか?とお尋ねしながら、ご本人の中にすでにある答えを一緒に探していく。
それが私の占いのやり方です。
カードが沈黙する瞬間を私はだいぶ恐れなくなりました。
沈黙はまだ言葉になっていない大切ななにかがそこにある証拠だからです。
焦らず待てばカードはいつか語りはじめます。
そしてそれは多くの場合、相談者ご自身の口から語られるのです。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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