テーマ:にぎやかな夏祭りの光の中で、るなが「この時間を終わらせたくない」と初めて強く願う夏。
第1節「浴衣と、待ち合わせの夕暮れ」
るな、ひかり、まなが浴衣姿で駅前に集合。いちごヘアピンをつけたるなは少しそわそわ。そこへ桐生先輩が現れ、「似合ってるね」と言われて胸が高鳴る。
第2節「夜店の灯りと、甘い寄り道」
四人で夜店を巡り、りんご飴やかき氷を楽しむ。るなの食いしん坊ぶりが炸裂しつつ、桐生先輩と同じものを分け合う瞬間に、少しだけ特別な気持ちを感じる。
第3節「花火の下で、言えなかったこと」
打ち上げ花火のクライマックス。るなは桐生先輩と少しだけ二人きりになり、「楽しかったね」と言うだけで胸が苦しくなる。まだ「好き」とは言えないけれど、この時間が終わってほしくないと強く思う。
第4節「夏色のイルミネーション」
祭りの帰り道、夏限定のイルミネーションが商店街を照らす。花火の光は一瞬で消えるけれど、心に残る光は消えない。るなはこの夜の気持ちを、いつか歌にしたいと思う。
この物語から次の曲が誕生しました。『夏色のイルミネーション』
恋のイルミネーション物語シリーズ 第2部
第3章『夏色のイルミネーション』
第1節「浴衣と、待ち合わせの夕暮れ」①
窓の外から、遠くで鳴る祭り囃子が聞こえてきた。
太鼓の音。
笛の音。
人々の笑い声。
夏の夕暮れは、まるで街全体がそわそわしているみたいだった。
「るなー、まだー?」
一階からお母さんの声が聞こえる。
「もう少しー!」
私は鏡の前で、何度目か分からない確認をしていた。
水色の浴衣。
白い帯。
そして、髪につけたいちごのヘアピン。
「……うん。」
小さく頷く。
でも、もう一度鏡を見る。
「変じゃないかな……。」
髪を少し整えて、また見る。
「るな、十分かわいいって。」
自分で自分に言い聞かせる。
「たぶん。」
「きっと。」
「……うん。」
でも、胸のドキドキはなかなかおさまらない。
今日は夏祭り。
ひかりとまなと、そして——桐生先輩も来る。
そのことを思うだけで、頬が少し熱くなった。
「るなー!」
「はーい!」
私は慌てて部屋を出る。
階段を降りると、お母さんが玄関で待っていた。
「わぁ、るな。」
「似合ってるじゃない。」
「ほんと?」
「ほんとほんと。」
お母さんは嬉しそうに笑う。
「水色、るなにぴったりね。」
「えへへ。」
少し照れくさくて、私は帯をぎゅっと握った。
「でも、一番かわいいのはそのヘアピンかも。」
「いちごの?」
「うん。るなって感じ。」
私は思わず笑ってしまう。
「お母さんまでそんなこと言うー。」
「だって本当だもの。」
お母さんは私の髪をそっと整えてくれた。
「楽しんでおいで。」
「うん!」
「食べすぎないようにね。」
「……。」
「るな?」
「……がんばる。」
お母さんが吹き出した。
「その間が怪しい。」
「だって夏祭りだよ?」
「りんご飴も、かき氷も、焼きそばもあるんだよ?」
「うんうん。」
「食べないなんて無理だよ。」
「やっぱりね。」
二人で笑い合う。
その笑い声が、少しだけ緊張をほぐしてくれた。
駅前に着くと、空はまだ夕焼けの色を残していた。
オレンジと紫が混ざり合った空。
街灯が一つ、また一つと灯り始める。
「るな先輩ー!」
元気な声が聞こえた。
「まな!」
振り向くと、まなが手を振って走ってくる。
ピンク色の浴衣に、白い帯。
いつも元気なまなにぴったりだった。
「わぁ、るな先輩!」
「めちゃくちゃ似合ってます!」
「ほんと?」
「ほんとです!」
まなは目を輝かせる。
「その水色、すごくきれい!」
「ありがとう。」
「それに、いちごヘアピンも!」
「やっぱりつけてきて正解ですね!」
私は少し照れながら笑った。
「まなもかわいいよ。」
「えへへ、ありがとうございます!」
まながくるりと回る。
浴衣の裾がふわりと揺れた。
「ひかり先輩はまだですか?」
「まだみたい。」
「珍しいですね。」
「うん。」
その時だった。
「ごめーん!」
少し離れたところから、ひかりの声が聞こえた。
「ひかり!」
「待った?」
ひかりは息を切らしながら駆け寄ってくる。
淡い黄色の浴衣に、金魚の柄。
夕焼けの光に照らされて、ひかりがいつもより大人っぽく見えた。
「うわぁ……。」
私は思わず声を漏らす。
「ひかり、すごく似合ってる。」
「ほんと?」
「うん、かわいい!」
まなも大きく頷く。
「ひかり先輩、金魚柄めっちゃ似合います!」
「ありがとう。」
ひかりは少し照れたように笑った。
「でも、るなの方がかわいいよ。」
「えっ。」
「その浴衣、すごく似合ってる。」
「いちごヘアピンも完璧。」
「ひかりまでー。」
私は頬を押さえる。
「もう、二人とも褒めすぎ。」
「だって本当だもん。」
「ねー。」
二人が顔を見合わせて笑う。
「……なんか、今日の二人怖い。」
「えー、なんで?」
「るながかわいすぎるから。」
「そうそう。」
「もう!」
私は思わず笑ってしまった。
三人で駅前の時計を見る。
待ち合わせの時間まで、あと少し。
「先輩、来るかな。」
まなが小さく言った。
その言葉に、私の心臓がまたドキンと鳴る。
「来るよ。」
ひかりが優しく言う。
「桐生先輩、約束守る人だもん。」
「うん。」
私は小さく頷いた。
でも、なぜかそわそわしてしまう。
浴衣、変じゃないかな。
ヘアピン、つけすぎじゃないかな。
笑顔、ちゃんとできてるかな。
そんなことばかり考えてしまう。
「るな。」
「ん?」
「緊張してる?」
ひかりがにやりと笑った。
「してない!」
「してる顔だよ。」
「してないもん!」
「耳まで赤い。」
「えっ!?」
私は慌てて耳を隠す。
まながくすくす笑う。
「るな先輩、わかりやすすぎます。」
「まなまでー!」
その時。
「こんばんは。」
優しい声が、三人の後ろから聞こえた。
私はゆっくり振り向く。
そこには、紺色の浴衣を着た桐生先輩が立っていた。
夕焼けの光の中で、先輩が少しだけ眩しく見えた。
「……こんばんは。」
私の声は、自分でも驚くほど小さかった。
第1節「浴衣と、待ち合わせの夕暮れ」②
「こんばんは。」
優しい声が、夕暮れの駅前にふわりと響いた。
私はゆっくり振り向く。
そこには、紺色の浴衣を着た桐生先輩が立っていた。
白い帯がすっきりと映えて、いつもの制服姿とはまるで違う。
夕焼けの光を背にした先輩は、少しだけ大人っぽく見えた。
「……こんばんは。」
自分でも驚くほど小さな声が出る。
「こんばんは、先輩!」
まなが元気よく頭を下げた。
「こんばんは。」
ひかりも笑顔で挨拶する。
桐生先輩は三人を見渡して、ふっと微笑んだ。
「みんな、浴衣すごく似合ってるね。」
「ほんとですか!?」
まながぱっと顔を輝かせる。
「うん。まなは元気な雰囲気にぴったりだし、ひかりは金魚柄がすごく上品。」
「ありがとうございます。」
ひかりが少し照れたように笑う。
そして先輩の視線が、ゆっくりと私に向いた。
「るなも。」
「えっ。」
「その水色の浴衣、すごく似合ってる。」
一瞬、時間が止まった気がした。
「……。」
言葉が出ない。
胸の奥で、何かがふわっと弾ける。
「るな先輩、固まってます。」
まなが小声で言う。
「ほんとだ。」
ひかりもくすっと笑う。
「るな?」
桐生先輩が首をかしげる。
「あ、あの!」
私は慌てて口を開いた。
「ありがとうございます!」
声が少し裏返る。
みんなが一瞬きょとんとして、次の瞬間、笑い声が広がった。
「そんなに緊張しなくても。」
桐生先輩が優しく笑う。
「だって……。」
私は頬を押さえる。
「急に褒められると思わなくて。」
「本当のことを言っただけだよ。」
その言葉に、また胸がどきんと鳴った。
ひかりが横でにやにやしている。
「るな、顔赤い。」
「赤くない!」
「赤いよ。」
「夕焼けのせいだもん!」
「へぇ〜。」
まなが意味ありげに笑う。
「夕焼けって、そんなに顔赤くなるんですね。」
「まなまでー!」
私は思わず両手で顔を隠した。
桐生先輩は困ったように笑いながら、そっと話題を変える。
「そろそろ行こうか。お祭り、始まってるみたいだし。」
遠くから、太鼓の音が聞こえてくる。
どん、どん、どん。
笛の音も重なって、夏祭りの空気が一気に近づいてきた。
「行きましょう!」
まなが元気よく言う。
「うん!」
私も大きく頷いた。
四人で商店街の方へ歩き始める。
空はだんだんと藍色に染まり、街灯が一つ、また一つと灯っていく。
「わぁ、見てください!」
まなが前を指さした。
商店街の入口には、夏限定のイルミネーションが飾られていた。
シャンパンゴールドの小さな灯りが、木々の間でやさしく揺れている。
「きれい……。」
私は思わず立ち止まる。
「冬のイルミネーションとは違うね。」
ひかりが空を見上げる。
「うん。」
桐生先輩も頷いた。
「夏の光って、なんだかあったかい。」
「冬はキラキラしてるけど、夏はふわっとしてる感じ。」
私が言うと、先輩が微笑んだ。
「るならしい表現だね。」
「えっ。」
「光を見て、ちゃんと温度まで感じてる。」
私は少し照れながら笑った。
「そんな大げさな。」
「大げさじゃないよ。」
先輩の声は、夜風みたいにやさしかった。
商店街を進むにつれて、屋台の明かりが増えていく。
赤い提灯。
黄色い電球。
色とりどりの看板。
まるで街全体が、夏色のイルミネーションに包まれているみたいだった。
「わぁ〜!」
私は思わず声を上げる。
「りんご飴!」
「かき氷!」
「チョコバナナ!」
「焼きそば!」
次々と目に入る屋台に、胸が高鳴る。
「るな、落ち着いて。」
ひかりが笑う。
「まだ何も食べてないよ。」
「でも全部おいしそうなんだもん!」
「るな先輩、目がキラキラしてます。」
まなが楽しそうに言う。
「うぅ……。」
私は少し恥ずかしくなって、桐生先輩の方をちらりと見る。
先輩は優しく笑っていた。
「今日はいっぱい楽しもう。」
その一言が、胸の奥であたたかく響く。
「うん。」
私は小さく頷いた。
夏祭りの夜。
浴衣。
友達。
そして、桐生先輩。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
そんなことを思いながら、私は夏色の灯りの中へ一歩踏み出した。
第2節「夜店の灯りと、甘い寄り道」①
商店街に入った瞬間、私は思わず立ち止まった。
「わぁぁ……!」
目の前には、ずらりと並ぶ屋台。
赤い提灯が揺れ、甘い匂いや香ばしい匂いが夜風に乗って流れてくる。
「すごい……。」
「るな、もう目が輝いてる。」
ひかりが笑う。
「だって見て!」
私は指をさした。
「りんご飴! かき氷! チョコバナナ! 焼きそば! たこ焼き!」
「全部言うんだ。」
まながくすくす笑う。
「全部大事だもん!」
「るな先輩、まだ入口ですよ?」
「でも入口からこんなに誘惑があるなんて……。」
私は胸の前で手を組んだ。
「夏祭り、恐ろしい子。」
「恐ろしいのは、るなの食欲だと思う。」
ひかりがさらっと言う。
「ひかり〜!」
私は頬を膨らませた。
「そんなことないもん。」
「ほんとかなぁ。」
まながにやりと笑う。
「去年、最初の30分で何食べましたっけ?」
「えっと……。」
私は指を折って数え始める。
「りんご飴、かき氷、焼きそば、チョコバナナ……。」
「もう十分多い。」
ひかりが即答した。
「でも全部少しずつだよ!」
「少しずつの概念が違う。」
「そうそう。」
二人がうなずき合う。
「うぅ……。」
私は助けを求めるように桐生先輩を見た。
「先輩、私そんなに食べてないですよね?」
桐生先輩は少し考えるふりをした。
「うーん。」
「うーんじゃなくて!」
「でも、るなが美味しそうに食べるのを見るのは好きだよ。」
「えっ。」
私は一瞬固まった。
「るな先輩、また固まりました。」
「顔赤い。」
「赤くない!」
「赤いよ。」
「夕焼けのせいだもん!」
「もう夕焼け終わってるけど。」
ひかりの冷静なツッコミに、みんなが笑った。
「さて、最初は何にする?」
桐生先輩が屋台を見渡す。
「もちろん……。」
私は真剣な顔で考える。
「りんご飴。」
「即答。」
「だって夏祭りの王様だよ?」
「王様なんだ。」
まなが笑う。
「りんご飴って、見た目もかわいいし、食べるとシャリッてして、りんごが甘くて……。」
私はうっとりと語り始める。
「るな、もう食レポ始まってる。」
ひかりが肩をすくめた。
「これは止まらないやつ。」
桐生先輩が優しく笑う。
「じゃあ、りんご飴にしようか。」
「やったー!」
私はぴょんと跳ねた。
りんご飴の屋台の前には、真っ赤な飴が並んでいた。
提灯の光を受けて、まるで宝石みたいに輝いている。
「きれい……。」
私は思わず見とれる。
「るな先輩、食べる前から幸せそう。」
「だって、こんなにかわいいんだよ?」
「食べ物に“かわいい”って言うの、るなだけかも。」
ひかりが笑う。
「言うよ! ねぇ、先輩?」
私は桐生先輩に同意を求めた。
「うん、言う人もいると思う。」
「ほら!」
「でも、るなほど本気で言う人は少ないかも。」
「先輩までー!」
またみんなが笑う。
屋台のおじさんが、りんご飴を差し出してくれた。
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます!」
私は両手で受け取る。
「わぁ……。」
近くで見ると、飴がつやつやしていて本当にきれいだった。
「写真撮る!」
まながスマホを構える。
「るな先輩、笑ってください!」
「えへへ〜。」
私はりんご飴を持って笑顔を作る。
カシャ。
「撮れた!」
「見せて見せて!」
写真には、りんご飴を宝物みたいに抱える私が映っていた。
「……なんか、私すごく幸せそう。」
「うん、めちゃくちゃ幸せそう。」
ひかりがうなずく。
「りんご飴だけでこんな顔できるんだね。」
「りんご飴を侮ってはいけません。」
私は真面目な顔で言った。
「これは夏祭りの芸術品です。」
「芸術品。」
桐生先輩が小さく笑う。
「じゃあ、芸術品を味わってみて。」
「はい!」
私はそっとりんご飴をかじった。
シャリッ。
甘い飴の音が、夜の空気に小さく響く。
「……おいしい!」
思わず目を輝かせる。
「やっぱり夏祭りのりんご飴は最高!」
「よかったね。」
桐生先輩が優しく笑う。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥がふわっと温かくなった。
りんご飴の甘さだけじゃない。
この夜の楽しさが、少しずつ心に溶けていく。
夏色の灯りの中で、私たちの夜はまだ始まったばかりだった。
第2節「夜店の灯りと、甘い寄り道」②
「りんご飴、最高……。」
私はまだうっとりしながら、最後の一口を味わっていた。
「るな先輩、食べ終わるまでずっと幸せそうでしたね。」
まなが笑う。
「だっておいしかったんだもん。」
「知ってる。」
ひかりが即答する。
「顔に“幸せです”って書いてあった。」
「そんなに?」
「うん。」
桐生先輩もくすっと笑った。
「でも、るなが美味しそうに食べてると、こっちまで嬉しくなるよ。」
「えっ。」
私は思わず先輩を見上げる。
「ほら、また。」
ひかりがにやにやする。
「るな、顔赤い。」
「赤くない!」
「赤いよ。」
「りんご飴のせいだもん!」
「りんご飴って、顔まで赤くするんだね。」
まなが楽しそうに言う。
「もう〜!」
私は両手で頬を押さえた。
その時、ふわっと冷たい風が吹いてきた。
「暑いね。」
ひかりがうちわであおぐ。
「うん、ちょっと暑いかも。」
まなも額をぬぐう。
私はぱっと目を輝かせた。
「じゃあ、次はかき氷!」
「やっぱり来た。」
ひかりが笑う。
「だって暑い時はかき氷でしょ?」
「るな先輩、食べる理由を見つけるのが上手です。」
「これは正当な理由です!」
私は胸を張った。
桐生先輩が屋台の方を指さす。
「ちょうどあそこにあるよ。」
「ほんとだ!」
私は嬉しくなって、少し早足になる。
「るな、転ばないでね。」
「今日は転ばないもん!」
「それ、蛍の時も言ってた。」
ひかりの言葉に、私はぴたりと止まった。
「……。」
「……。」
「……思い出させないで。」
みんなが笑い声を上げる。
かき氷の屋台には、色とりどりのシロップが並んでいた。
いちご、メロン、ブルーハワイ、レモン。
「うわぁ、迷う……。」
私は真剣な顔で悩む。
「るな先輩、絶対いちごですよね?」
まなが言う。
「もちろん!」
私は即答した。
「やっぱり。」
ひかりが笑う。
「でも、メロンもおいしそう。」
「ブルーハワイも捨てがたい。」
「レモンもさっぱりしてそう。」
私は腕を組んで考え込む。
「るな、かき氷でそこまで悩めるのすごい。」
「だって大事な選択だよ?」
「人生の分岐点みたいに言うね。」
桐生先輩が優しく笑った。
「じゃあ、みんなで違う味にして、少しずつ食べる?」
「それだ!」
私はぱっと顔を上げる。
「先輩、天才!」
「大げさだなぁ。」
「大げさじゃないです!」
まなも乗っかる。
「シェア作戦ですね!」
「決まり!」
ひかりがうなずく。
結局、私はいちご、ひかりはレモン、まなはメロン、桐生先輩はブルーハワイを選んだ。
四つのかき氷が並ぶと、まるで小さな虹みたいだった。
「いただきます!」
私はいちごのかき氷を一口食べる。
「つめた〜い!」
「でもおいしい!」
「るな先輩、目がまたキラキラしてます。」
まなが笑う。
「だって、いちごだよ?」
「うん、知ってる。」
ひかりがレモンを差し出した。
「はい、るな。レモンも食べてみる?」
「いいの?」
「もちろん。」
私はそっと一口もらう。
「わっ、さっぱり!」
「でしょ?」
「おいしい!」
今度はまながメロンを差し出す。
「メロンもどうぞ!」
「ありがとう!」
「甘い〜!」
私は感動したように言う。
「かき氷って、こんなに幸せなんだ……。」
「るな先輩、毎回感動してますね。」
「だって本当においしいんだもん。」
すると、桐生先輩がブルーハワイをこちらに向けた。
「るなも食べる?」
「えっ、いいんですか?」
「うん。」
私は少しだけ緊張しながら、スプーンを受け取った。
先輩のかき氷を一口。
冷たくて、甘くて、少しだけラムネみたいな味がした。
「おいしい……。」
私は思わず微笑む。
「ブルーハワイ、初めて食べたかも。」
「ほんと?」
「うん。いつもいちごを選んじゃうから。」
「じゃあ、今日は新しい発見だね。」
桐生先輩が優しく笑う。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥がまたふわっと温かくなった。
同じかき氷を分け合う。
たったそれだけのことなのに、なぜか少し特別に感じる。
「るな。」
ひかりがにやりと笑う。
「な、なに?」
「かき氷、溶けてるよ。」
「えっ!?」
私は慌てて自分のかき氷を見る。
「ほんとだー!」
「先輩の笑顔に見とれてたからじゃない?」
まなが小声で言う。
「ち、違うもん!」
私は急いでかき氷を食べ始めた。
でも、頬の熱さはなかなか冷めなかった。
夏色の灯りの中で、甘い寄り道はまだまだ続いていく。
第3節「花火の下で、言えなかったこと」①
かき氷を食べ終えた頃、夜空はすっかり深い藍色に染まっていた。
屋台の灯りがきらきらと揺れ、人々の笑い声が夏の空気に溶けていく。
「そろそろ花火の時間だね。」
ひかりが空を見上げながら言った。
「ほんとだ!」
まなが腕時計を確認する。
「あと十分くらいです!」
「わぁ、もうそんな時間?」
私は少し名残惜しく屋台を振り返った。
「まだチョコバナナ食べてないのに……。」
「るな、そこ?」
ひかりが笑う。
「花火よりチョコバナナ?」
「ち、違うよ!」
私は慌てて首を振った。
「花火ももちろん楽しみだけど、チョコバナナも大事なの!」
「やっぱり大事なんだ。」
桐生先輩がくすっと笑う。
「るなは最後までるなだね。」
「うぅ……。」
私は少し照れながらも、なぜか嬉しくなってしまう。
四人は花火がよく見える川沿いの広場へ向かった。
すでにたくさんの人が集まっていて、レジャーシートを広げたり、家族で肩を寄せ合ったりしている。
「すごい人だね。」
まながきょろきょろと辺りを見回す。
「でも、ここなら見えそう。」
ひかりが少し高くなっている場所を指さした。
「行ってみよう!」
私たちは人混みを抜け、少し開けた場所へ移動する。
そこからは、夜空が大きく広がって見えた。
「わぁ……。」
私は思わず息をのむ。
「ここ、すごくいい場所。」
「ほんとだ。」
桐生先輩も空を見上げる。
「花火、きれいに見えそうだね。」
「先輩、場所取りの天才です!」
まなが笑う。
「たまたまだよ。」
「でもすごいです!」
四人で並んで座る。
私の右隣にはひかり、左隣には桐生先輩。
その距離が少し近くて、胸がどきどきした。
「ねぇ、るな。」
ひかりが小声で話しかける。
「ん?」
「緊張してる?」
「してない!」
「してる顔だよ。」
「してないもん!」
「耳、赤い。」
「また!?」
私は慌てて耳を隠した。
まながくすくす笑う。
「るな先輩、今日ずっと赤いですね。」
「夏だから!」
「便利な言い訳だね。」
桐生先輩まで笑う。
「でも、暑いのは本当だよ。」
「ほら!」
私は先輩に助けを求めるように言った。
「先輩はわかってくれますよね!」
「うーん。」
先輩は少し考えるふりをする。
「半分は暑さで、半分は別の理由かな。」
「えっ。」
私は固まった。
「別の理由って何ですか?」
まなが興味津々で聞く。
「さあ。」
先輩はいたずらっぽく笑う。
「秘密。」
「先輩ずるい!」
私は思わず声を上げた。
でも、その笑顔を見ていると、怒るどころか胸が温かくなってしまう。
その時、会場の照明が少し暗くなった。
ざわざわしていた人々の声が、自然と静かになる。
「始まる……!」
まなが目を輝かせる。
私も空を見上げた。
夜空は深く、広く、どこまでも続いている。
ドン――。
遠くで大きな音が響いた。
「わっ!」
私は思わず肩をすくめる。
「大丈夫?」
桐生先輩が優しく声をかける。
「う、うん。」
私は小さく頷いた。
でも、心臓は花火の音よりも大きく鳴っている気がした。
ドン――。
二発目の音。
次の瞬間、夜空に大きな花が咲いた。
ぱあああっ――。
赤。
青。
金。
色とりどりの光が、夜空いっぱいに広がる。
「きれい……。」
ひかりが小さく呟く。
「すごい……!」
まなも目を輝かせる。
私は言葉を失った。
花火の光が、みんなの顔を照らす。
ひかりの横顔。
まなの笑顔。
そして、桐生先輩の横顔。
その横顔が、花火の光を受けてとても綺麗に見えた。
私は思わず見とれてしまう。
「るな。」
先輩がこちらを向いた。
「えっ。」
「花火、見ないの?」
「み、見てるよ!」
慌てて空を見上げる。
また大きな花火が咲く。
でも、さっき見た先輩の横顔が、なかなか頭から離れない。
ドン――。
ぱあああっ――。
花火の光が消えても、胸の中には別の光が残っていた。
それはまだ、言葉にできない小さな光。
でも確かに、私の心の中で少しずつ大きくなっていた。
第3節「花火の下で、言えなかったこと」②
ドン――。
大きな花火が夜空に咲くたび、広場から歓声が上がる。
「わぁ、すごい!」
まなが身を乗り出す。
「今年の花火、去年より大きい気がする!」
「ほんとだね。」
ひかりも空を見上げながら笑う。
赤、青、金。
色とりどりの光が夜空を染めて、川面にもきらきらと映っていた。
私はその光景を見つめながら、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。
「るな。」
桐生先輩が小さく声をかける。
「ん?」
「寒くない?」
「ううん、大丈夫。」
私は首を振る。
「花火見てたら、寒さなんて忘れちゃう。」
「そっか。」
先輩は優しく笑った。
その笑顔を見た瞬間、また胸がどきんと鳴る。
(もう、今日何回どきどきしてるんだろう。)
私はこっそり自分に問いかけた。
すると、まなが急に立ち上がった。
「ひかり先輩!」
「ん?」
「あっち、もっと近くで見える場所あるみたいです!」
「ほんと?」
ひかりが立ち上がる。
「ちょっと行ってみようか。」
「るな、先輩、行きます?」
まなが振り返る。
私は桐生先輩の方をちらりと見る。
先輩は少し空を見上げてから言った。
「僕はここで見ようかな。」
「え?」
「ここ、すごく見やすいし。」
「そっか。」
ひかりがにこっと笑う。
「じゃあ、私たちだけちょっと行ってくるね。」
「すぐ戻ってきます!」
まなが手を振る。
「う、うん。」
私は小さく頷いた。
そして、ひかりとまなが人混みの中へ消えていく。
残されたのは、私と桐生先輩だけ。
ドン――。
花火の音が、いつもより大きく聞こえる。
私は急に緊張して、膝の上で指をぎゅっと握った。
「るな。」
「は、はい!」
声が少し裏返る。
先輩がくすっと笑った。
「そんなに緊張しなくても。」
「してないです!」
「ほんと?」
「……ちょっとだけ。」
正直に言うと、先輩は優しく笑った。
「素直だね。」
「だって、嘘つけないもん。」
「るならしい。」
その言葉が、なんだか嬉しかった。
しばらく二人で花火を見上げる。
夜空には、次々と大きな花が咲いては消えていく。
ぱあああっ――。
金色の花火が、空いっぱいに広がった。
「きれい……。」
私は思わず呟く。
「うん。」
先輩も空を見上げたまま頷く。
「花火って、一瞬で消えちゃうのに、ずっと心に残るよね。」
「そうですね。」
私は先輩の横顔をそっと見る。
花火の光に照らされた横顔は、やっぱりとてもきれいだった。
「今日、楽しかった?」
先輩が突然聞いた。
「えっ。」
私は慌てて先輩を見る。
「もちろん、楽しかったです!」
「よかった。」
「先輩は?」
「僕も。」
先輩は少し照れたように笑った。
「みんなと一緒に来られて、よかった。」
その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。
(みんなと一緒に。)
わかっている。
先輩は、ひかりもまなも含めて言っている。
でも、私は少しだけ欲張りになってしまう。
(私と一緒に、って言ってほしかった。)
そんなことを思ってしまった自分に、私はびっくりした。
ドン――。
大きな花火が上がる。
その光の中で、先輩が私の方を向いた。
「るな?」
「な、なに?」
「どうしたの?」
「え?」
「急に静かになったから。」
私は慌てて笑顔を作る。
「なんでもないです!」
「ほんと?」
「ほんとです!」
でも、声が少し震えてしまった。
先輩は少し心配そうに私を見る。
「無理してない?」
「してないです。」
私は首を振る。
「ただ……。」
「ただ?」
言葉が喉まで出かかった。
「今日、本当に楽しかったなって。」
「うん。」
先輩が優しく頷く。
「僕も、すごく楽しかった。」
その瞬間、夜空に一番大きな花火が咲いた。
ぱああああっ――。
金色の光が、私たちを包み込む。
私はその光の中で、先輩の横顔を見つめた。
(言いたい。)
(本当は、もっと。)
(“楽しかった”だけじゃなくて。)
(“この時間が終わってほしくない”って。)
(“先輩と一緒にいたい”って。)
でも、言葉は最後まで口から出なかった。
花火の音にかき消されたのかもしれない。
それとも、私の勇気が足りなかったのかもしれない。
ただ、胸の奥には確かに残っていた。
言えなかった言葉。
花火のように一瞬で消えてしまわない、消えない想いとして。
第4節「夏色のイルミネーション」①
最後の花火が夜空に大きく咲き、ゆっくりと消えていった。
ぱらぱらと拍手が広がり、広場には「きれいだったね」「すごかったね」という声があふれる。
「終わっちゃった……。」
私は空を見上げたまま、小さくつぶやいた。
「うん。」
桐生先輩も同じように空を見上げる。
「でも、すごくきれいだったね。」
「はい。」
私は頷く。
「今年見た花火の中で、一番きれいでした。」
「まだ今年始まったばかりだけどね。」
先輩が笑う。
「あ、そっか。」
私もつられて笑った。
その時、少し離れたところから元気な声が聞こえてきた。
「るな先輩ー! 先輩ー!」
まなだ。
「ここです!」
ひかりも手を振っている。
「二人とも、どこ行ってたの?」
私が聞くと、まなが胸を張った。
「花火のベストポジションを探してました!」
「でも結局、人が多すぎて戻ってきたの。」
ひかりが苦笑する。
「ここが一番よく見えたね。」
「うん。」
私は小さく頷いた。
本当は、花火だけじゃなかった。
先輩と二人で見た時間が、特別だった。
でも、そのことはまだ誰にも言えない。
四人はゆっくりと広場を後にした。
人混みの中を歩きながら、まなが大きく伸びをする。
「はぁ〜、楽しかった!」
「うん、すごく楽しかったね。」
ひかりも笑顔で答える。
「るな先輩、満足しました?」
まながにやりと笑う。
「もちろん!」
私は元気よく答えた。
「りんご飴も、かき氷も、花火も最高だった!」
「やっぱり食べ物入ってる。」
ひかりが笑う。
「だって大事だもん!」
「るな先輩らしいです。」
まながくすくす笑う。
桐生先輩も優しく笑っていた。
「でも、るなが楽しそうでよかった。」
「えっ。」
私は思わず先輩を見る。
「本当に?」
「うん。」
先輩は頷く。
「今日、ずっと笑ってたから。」
その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。
「……先輩も、楽しそうでした。」
私が小さく言うと、先輩は少し驚いたように目を瞬かせた。
「そう見えた?」
「はい。」
「そっか。」
先輩は照れたように笑う。
「それならよかった。」
商店街へ戻ると、夏限定のイルミネーションがまだやさしく輝いていた。
シャンパンゴールドの灯りが、木々の間でふわりと揺れている。
「わぁ……。」
まなが足を止める。
「帰りもきれいですね。」
「ほんとだ。」
ひかりも見上げる。
「花火のあとに見ると、また違って見える。」
私はイルミネーションを見つめた。
冬のイルミネーションは、きらきらしていて胸が高鳴る。
桜色のイルミネーションは、やさしくて未来を照らしてくれる。
蛍色のイルミネーションは、静かに心に灯る光だった。
そして今、目の前にあるのは——夏色のイルミネーション。
にぎやかな夏祭りのあとに、そっと残るやさしい光。
まるで、今日の思い出を包み込んでくれているみたいだった。
「るな。」
ひかりが私の顔をのぞき込む。
「どうしたの? ぼーっとして。」
「あ、ううん。」
私は慌てて笑う。
「ただ、きれいだなって思って。」
「うん、きれいだよね。」
ひかりが頷く。
「写真撮ろうか。」
「撮る!」
まながすぐにスマホを取り出した。
「先輩も一緒に!」
「僕も?」
桐生先輩が少し驚く。
「もちろんです!」
まなが元気よく言う。
「今日の思い出ですから!」
「じゃあ、お願いします。」
先輩が笑う。
四人でイルミネーションの下に並ぶ。
「はい、みんな笑ってー!」
まながスマホを構える。
私は先輩の隣に立ちながら、少しだけ緊張した。
でも、先輩がそっと微笑んでくれたので、自然に笑顔になれた。
カシャ。
シャッター音が夜の商店街に響く。
「撮れました!」
まなが嬉しそうにスマホを見せる。
そこには、夏色の灯りの下で笑う四人の姿が映っていた。
「わぁ、いい写真。」
ひかりが微笑む。
「ほんとだ。」
私は写真を見つめながら、小さくつぶやいた。
この夜のこと、きっと忘れない。
花火の光も、屋台の匂いも、みんなの笑顔も。
そして、先輩の隣で笑えたこの瞬間も。
夏色のイルミネーションは、私の胸の中にそっと灯り続けていた。
第4節「夏色のイルミネーション」②
イルミネーションの下で写真を撮り終えたあと、四人はゆっくりと駅へ向かって歩き始めた。
夏祭りの賑わいは少しずつ遠ざかり、商店街には穏やかな夜風が吹いている。
「今日は本当に楽しかったね。」
ひかりが笑顔で言った。
「うん!」
まなが大きく頷く。
「りんご飴も、かき氷も、花火も最高でした!」
「やっぱり食べ物が先なんだね。」
桐生先輩がくすっと笑う。
「だって全部おいしかったんですもん!」
私は胸を張った。
「特にりんご飴は芸術品でした。」
「まだ言ってる。」
ひかりが肩を震わせる。
「でも、るながあんなに幸せそうに食べてると、こっちまで嬉しくなるよ。」
先輩が優しく言った。
「えっ。」
私は思わず足を止める。
「ほんとですか?」
「うん。」
先輩は頷いた。
「今日のるな、ずっと笑ってたから。」
その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなった。
「……先輩も、ずっと優しかったです。」
私が小さく言うと、先輩は少し照れたように笑った。
「そんなことないよ。」
「あります。」
「ありますよねー。」
まながすぐに乗っかる。
「先輩、今日ずっとるな先輩のこと見てましたもん。」
「まな!」
私は慌ててまなの口を塞ごうとした。
「むぐっ。」
「もう、変なこと言わないで!」
「でも本当のこと……。」
「まな〜!」
ひかりが笑いながらまなを引き寄せる。
「るなが真っ赤になっちゃうから、その辺にしてあげて。」
「はーい。」
まなはいたずらっぽく笑った。
駅前が近づくにつれて、人の数も少なくなっていく。
夏祭りの灯りは遠くで小さく揺れ、まるで今日の思い出を見送ってくれているみたいだった。
「もう帰る時間かぁ。」
まなが少し寂しそうに言う。
「早いね。」
ひかりも空を見上げた。
「さっきまで花火見てたのに。」
私は黙って夜空を見つめる。
花火はもう消えている。
でも、胸の中にはまだ光が残っていた。
りんご飴の甘さ。
かき氷の冷たさ。
花火の音。
イルミネーションの輝き。
そして、桐生先輩の笑顔。
どれも消えてほしくなかった。
「るな。」
先輩が私の名前を呼ぶ。
「はい。」
「今日、ありがとう。」
「え?」
私は目を瞬かせた。
「ありがとうって、私の方こそです。」
「ううん。」
先輩は首を振る。
「るなが楽しそうにしてくれて、僕もすごく楽しかった。」
その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。
嬉しいのに、少し苦しい。
この時間が終わってしまうことが、急に寂しくなった。
「……私も、すごく楽しかったです。」
私は小さく答える。
「今日のこと、きっと忘れません。」
「僕も忘れないよ。」
先輩の声は、夜風みたいにやさしかった。
その時、駅前の時計が静かに時を告げた。
カチ、カチ、カチ。
「そろそろ電車だね。」
ひかりが言う。
「うん。」
まなが頷く。
四人で改札の前に立つ。
「またみんなで来ようね。」
まなが笑顔で言った。
「うん、また来よう。」
ひかりも頷く。
私は先輩の方をちらりと見る。
先輩も私を見て、やさしく微笑んだ。
「来年も、一緒に来られたらいいね。」
その言葉に、私は大きく目を見開いた。
「……はい!」
思わず声が弾む。
先輩が少し驚いたように笑う。
「そんなに嬉しい?」
「う、うれしいです!」
私は頬を押さえた。
「だって、来年も一緒に来られるなんて……。」
言葉の続きを飲み込む。
でも、先輩は何も言わず、ただ優しく笑ってくれた。
電車に乗る前、私はもう一度振り返った。
遠くの商店街で、夏色のイルミネーションがまだ小さく輝いている。
その光を見つめながら、私はそっと胸に手を当てた。
(この気持ちを、いつか歌にしたい。)
今日見た光。
今日聞いた笑い声。
今日感じた胸の高鳴り。
全部、忘れたくなかった。
花火のように一瞬で消えてしまうのではなく、ずっと心に残る光として。
「るな、行くよ。」
ひかりの声が聞こえる。
「うん!」
私は笑顔で振り返った。
そして、夏色のイルミネーションに小さく手を振る。
その光は、まるで「またね」と答えてくれているみたいだった。
夏の夜に灯ったこの光は、きっと秋へ、そしてその先の未来へと続いていく。
私の胸の中で、消えることのない“夏色のイルミネーション”として。