外伝からオリジナル曲が出来上がりました。
タイトル『Firefly Dance 〜蛍のイルミネーション〜』
外伝『Firefly Dance ~蛍の夜のフェスティバル~』
第1節 光のステージ①
七月最初の日曜日。
川沿いの遊歩道では、毎年恒例の「蛍フェスティバル」が開催されていた。
夕暮れ前から屋台が並び、商店街の人たちが忙しそうに準備をしている。
「わぁぁぁっ!」
私――星野るなは、思わず歓声を上げた。
「見て見て! いちご飴!」
「るな先輩、まずそこなんですね」
まなが苦笑する。
「だっていちごだよ?」
「知ってます」
「いちごは世界を救うんだよ?」
「たぶん救わないです」
「えぇ……」
即答だった。
ひどい。
後輩の反抗期だろうか。
そんなことを考えていると――
「るならしいな」
後ろから聞き慣れた声がした。
振り向く。
そこには。
少し伸びた髪。
柔らかな笑顔。
白いシャツ。
そして。
私が少しだけドキドキしてしまう人。
「蒼先輩!」
「久しぶり」
「久しぶりです!」
「元気そうだな」
「はい!」
元気すぎるくらいです。
心の中でそう付け足した。
だって。
大学に進学してから会うのは二度目なのだ。
前回の蛍イベント以来。
だから少し緊張している。
少しだけ。
本当に少しだけ。
たぶん。
「るな先輩、顔赤いです」
「まなちゃん?」
「暑いんですか?」
「暑いです!」
「今、嘘つきましたね?」
「うっ」
鋭い。
最近の高校一年生は鋭すぎる。
ひかりが隣で笑っていた。
「るな、わかりやすいもん」
「ひかりまでぇ!」
「だって本当だし」
「親友が敵になった!」
「敵じゃないよ」
くすくす笑う。
昔からそうだ。
ひかりは私が困ると楽しそうに笑う。
でも。
その笑顔を見ると怒れなくなる。
不思議だ。
やがて日が沈み始める。
商店街の人たちが次々と照明を点灯した。
シャンパンゴールド。
電球色。
暖かな光。
「綺麗……」
思わず声が漏れる。
派手ではない。
でも。
どこか優しい。
川辺の緑にもよく馴染んでいた。
「今年は蛍に合わせて色を変えたらしい」
蒼先輩が言った。
「そうなんですか?」
「青い光だと蛍が目立たないから」
「へぇぇぇ!」
「自然の光を主役にしたんだって」
その言葉に。
私は空を見上げた。
まだ蛍は飛んでいない。
でも。
夜は確実に近づいている。
イルミネーションも。
蛍も。
同じ光なのに。
少しだけ違う。
そんなことを考えながら。
私は隣に立つ蒼先輩を見た。
すると。
ちょうど目が合う。
「どうした?」
「えっ!?」
「何か見てた?」
「い、いえ!」
「そう?」
「そうです!」
慌てて視線を逸らした。
心臓がうるさい。
とても。
うるさい。
夜が始まる前なのに。
私の胸の中では。
もう十分すぎるほど。
光が踊り始めていた。
第1節「雨あがりの光」②
雨が止んだあとの商店街は、不思議なくらい静かだった。
昼間の暑さを忘れたみたいに、
夜風がやさしく吹き抜けていく。
私は傘をくるくる回しながら歩いていた。
「うーん……」
空を見上げる。
雲の切れ間から月が顔を出していた。
少しだけ青い夜。
少しだけ湿った空気。
そして──
商店街の端から見える川沿い。
「蛍かぁ……」
なんだか急に行きたくなった。
理由はわからない。
だけど胸の奥が少しだけ騒いでいた。
翌日。
放課後。
「るな先輩ー!」
教室のドアが勢いよく開いた。
「わっ」
まなが飛び込んでくる。
「聞きました!?」
「何を?」
「蛍です!」
「うん、蛍だね」
「なんでそんな冷静なんですか!」
「いや、蛍だから?」
「違います!」
まなが机を叩く。
「今年の蛍イベント、すごいんですよ!」
「そうなの?」
「イルミネーションやるんです!」
「へ?」
私は思わず聞き返した。
「蛍とイルミネーション?」
「はい!」
まなは満面の笑み。
「商店街の人たちが考えたらしいです!」
「へぇ〜」
「シャンパンゴールド中心!」
「おぉ」
「蛍の光を邪魔しないように!」
「なるほど」
「めちゃくちゃ幻想的らしいです!」
その時だった。
「確かに面白い発想ね」
聞き慣れた声。
振り向くとひかりだった。
「ひかりー」
「こんにちは」
「こんにちは!」
まなが元気よく頭を下げる。
ひかりは笑った。
「蛍の光って結構弱いからね」
「そうそう!」
まながうなずく。
「だから明るすぎるイルミネーションはダメなんですって」
「自然の光を主役にする感じか」
私は言った。
ひかりが微笑む。
「それ、いい言葉」
「ん?」
「自然の光を主役にする」
「なんとなく」
「るならしい」
「どういう意味?」
「わからない」
「わからないの!?」
三人で笑う。
するとまなが急に顔を近づけた。
「そういえば」
「ん?」
「るな先輩」
「なに?」
「行くんですよね?」
「どこに?」
「蛍イベント」
「え?」
「行きますよね?」
「いや別に決めてないけど」
「行きましょう!」
「強制!?」
「強制です!」
「なんで!?」
「だって!」
まながニヤニヤした。
嫌な予感がする。
とてもする。
「今年は大学生も来るらしいですよ?」
「へぇ」
「美大の人とか」
「へぇ」
「例えば桐生先輩とか」
「へぇ」
「……」
「……」
「るな先輩」
「なに?」
「反応薄くないです?」
「そう?」
「そうです!」
ひかりが吹き出した。
「ふふっ」
「ひかりまで」
「だって」
肩を震わせている。
「るな、今わかりやすかった」
「何が?」
「わかりやすかった」
「だから何が!?」
まながうんうんとうなずく。
「恋ですね」
「違います」
即答。
「早い!」
「違うもん」
「でも気になるんですよね?」
「それは……」
少し言葉に詰まる。
まなとひかりが顔を見合わせた。
「おぉ」
「おぉ〜」
「なにその反応!」
「今の沈黙です」
まなが言う。
「十分です」
「十分じゃない!」
ひかりが優しく笑った。
「まあ、るなのペースでいいんじゃない?」
「うん」
「急がなくていいし」
「うん」
「でも会いたいなら会えばいい」
その言葉に。
少しだけ胸が揺れた。
会いたい。
その言葉は妙に真っ直ぐだった。
恋かどうかはわからない。
好きかどうかもまだわからない。
だけど。
もし。
蛍の光の中で。
もう一度会えたら。
「……行こうかな」
私が小さく呟く。
すると。
「よし!」
まながガッツポーズ。
「決定です!」
「まだ決定してない!」
「決定しました!」
「だから!」
教室いっぱいに笑い声が広がった。
窓の外では。
初夏の風がやさしく吹いている。
そしてその風は。
まだ誰にも気づかれない小さな光を。
少しずつ運び始めていた――。
第2節「蛍と再会の夜」①
雨が降った翌日の夕方。
空は雲が少しずつ流れ、夕焼けの向こうから青空が顔をのぞかせていた。
私は窓を開け、大きく息を吸い込む。
「いい匂い……。」
濡れた土。
若葉。
川から吹いてくる少し冷たい風。
初夏だけが持つ、どこか懐かしい香りだった。
スマートフォンが小さく震える。
ひかり
『今日、予定どおり行けそう!』
その文字を見た瞬間、自然と笑顔になる。
『やった!』
すぐに返信を送る。
すると今度は、
まな
『虫よけ忘れないでね(笑)』
『あっ!』
思わず声が出た。
「危ない危ない……。」
玄関へ向かい、虫よけスプレーをバッグへ入れる。
「よし。」
今日は絶対忘れない。
約束の駅前。
夕方六時。
「るなー!」
元気いっぱいの声が聞こえた。
「ひかり!」
手を振ると、向こうも大きく振り返してくれる。
「待った?」
「五分くらい。」
「じゃあ待ってるじゃん。」
「るなが遅刻じゃないからセーフ。」
「その判定優しい。」
二人で笑っていると、
「ごめんごめん!」
少し息を切らせながら、まなが走ってきた。
「間に合った?」
「ギリギリ!」
「セーフ!」
三人がそろう。
それだけで、今日の楽しさがもう始まっていた。
「そういえば。」
歩き始めたひかりが言う。
「去年も、このくらいの時期だったよね。」
「蛍を見に来たの。」
「うん。」
私は頷く。
「あの日も雨上がりだった。」
「そうそう!」
まなが思い出したように笑う。
「るなが滑りそうになって。」
「わぁー!」
「思い出さなくていいのに!」
「あれ面白かったよね。」
「面白くない!」
私は少し頬を膨らませる。
「ちゃんと転ばなかったもん。」
「でも、ひかりにつかまってた。」
「……。」
「……。」
二人が顔を見合わせる。
そして。
「ぷっ。」
「あははは!」
笑い声が夕暮れの道に響いた。
「もう!」
私は照れ笑いしながら二人を追いかける。
「今日は絶対転ばない!」
「宣言した!」
「記録しておこう!」
「やめて〜!」
また笑い声。
こんな何気ない時間が、私には何よりも大切だった。
川沿いへ向かう遊歩道。
空は少しずつ藍色へ変わり始める。
街灯にはまだ灯りがともっていない。
その代わり、木々の間から聞こえるカエルの声が、夜の訪れを知らせていた。
「静かだね。」
ひかりが小さくつぶやく。
「うん。」
「この時間好き。」
私も同じ気持ちだった。
昼でも夜でもない、この一瞬。
世界がゆっくり呼吸しているような時間。
そして、その静けさの向こうには——
今夜だけの、小さな光の舞台が待っている。
三人は期待を胸に、川辺の遊歩道をゆっくり歩き始めた。
第2節「蛍と再会の夜」②
川辺へ続く細い遊歩道を歩いていく。
昼間の賑わいはすっかり消え、聞こえるのは水の流れる音と、草むらで鳴く虫たちの声だけ。
「なんだか……。」
まなが小さく息をついた。
「去年と同じ景色なのに、少し違って見えるね。」
「うん。」
ひかりも頷く。
「私たちも一年分、大きくなったからかな。」
私はゆっくり周りを見渡した。
背の高い木々。
静かに流れる川。
雨上がりの土の香り。
去年と変わらない景色。
でも、去年より少しだけ落ち着いて、この景色を見つめている自分がいた。
「まだ飛んでないかな。」
私は川の上へ視線を向ける。
空はすっかり群青色。
街灯も少なく、辺りはやさしい暗さに包まれている。
「もう少し暗くなってからかも。」
ひかりが時計を見る。
「あと十分くらいかな。」
「待つ時間も楽しいね。」
まながベンチに腰掛けた。
私たちも並んで座る。
三人とも自然と声が小さくなる。
蛍の世界におじゃまするような気持ちだった。
さらさら……
川風が頬を撫でる。
葉っぱが小さく揺れ、水面には月明かりが細く伸びている。
「静かだね。」
「うん。」
「この静けさ、好き。」
私は目を閉じた。
耳を澄ますと、水の音がゆっくり心へ染み込んでくる。
不思議だった。
何もしない時間なのに、心が少しずつ満たされていく。
その時だった。
「あっ……。」
まなが小さく声を漏らす。
「るな。」
「ひかり。」
二人が同じ方向を見ている。
私はゆっくり視線を向けた。
川の上を――
ふわり。
小さな緑色の光が浮かんだ。
「……いた。」
思わず息をのむ。
一匹だけ。
ゆっくり。
本当にゆっくりと。
夜の空気を泳ぐように飛んでいる。
「今年も……。」
私は自然と笑顔になった。
「会えたね。」
ひかりが優しく微笑む。
「おかえり。」
まなが小さく手を振る。
もちろん蛍には届かない。
それでも、その仕草がとても温かく感じた。
一匹だった光は、
二匹。
三匹。
五匹。
少しずつ増えていく。
「あぁ……。」
私は思わず立ち上がった。
「きれい……。」
草むらから次々と舞い上がる蛍たち。
まるで夜空へ帰っていく星のようだった。
川面にも光が映り、
ゆらゆらと揺れる。
上にも光。
下にも光。
世界中が小さなイルミネーションに包まれていた。
「まるで……。」
ひかりが呟く。
「自然が作るイルミネーションだね。」
「うん。」
私は大きく頷いた。
「電気じゃ作れない光。」
「だから特別なんだね。」
まなが静かに続ける。
誰も写真を撮らない。
誰も大きな声を出さない。
ただ、その瞬間を目に焼き付ける。
それだけで十分だった。
すると、一匹の蛍が三人のすぐ近くまで飛んできた。
ふわっ……
ふわっ……
「近い……。」
私はそっと両手を胸の前で重ねる。
「こんにちは。」
思わず小さく話しかける。
蛍は答えるように、ふんわりと光を強くした。
「かわいい。」
ひかりが微笑む。
「歓迎してくれてるみたい。」
まなも優しく笑った。
蛍は三人の間をゆっくり舞うと、また仲間たちの光の中へ帰っていった。
その光を見送りながら、私は胸の奥でそっと思う。
(また会えた。)
(今年も、この景色を三人で見られた。)
それだけで十分幸せだった。
そして、その無数の淡い光は、これから始まる夏の思い出を優しく照らしてくれているようだった。✨🪲
第3節「光が奏でるダンス」①
蛍たちの光は、時間が経つにつれて少しずつ数を増やしていった。
ふわり。
ゆらり。
まるで夜風そのものが光になったように、川辺を優雅に舞っている。
私はその様子に見とれながら、小さく息をついた。
「……すごい。」
「去年より多くない?」
ひかりが目を細める。
「そうかも。」
まなも静かに頷いた。
「雨がいっぱい降ったからかな。」
「蛍も喜んでるのかもね。」
私は笑顔になる。
「今日は最高の日だったんだ。」
川の流れは相変わらず穏やかだった。
さらさら……
さらさら……
その音に合わせるように、蛍たちが左右へ揺れる。
「踊ってるみたい。」
思わず口にすると、
「ほんとだ。」
ひかりが笑う。
「音楽が聞こえてそう。」
「何の曲だろう。」
まなが首をかしげる。
私は少し考えてから微笑んだ。
「きっと自然のオーケストラ。」
「水の音。」
「風の音。」
「葉っぱの音。」
「それに蛍。」
「全部が演奏してる。」
三人は静かに頷いた。
少し歩くと、小さな木橋が見えてきた。
橋の上から見下ろす川面には、無数の小さな光が映っている。
上にも光。
下にも光。
まるで星空を逆さまにしたようだった。
「きれい……。」
まなが思わず立ち止まる。
「ずっと見ていられる。」
「うん。」
私は橋の手すりにそっと手を置いた。
その時だった。
橋の向こう側で、小さな灯りがともる。
「見て。」
ひかりが指さした。
遊歩道沿いに設置された小さなイルミネーション。
シャンパンゴールドの優しい光だった。
「今年も飾ってあるんだ。」
「去年もあったね。」
私は懐かしく笑う。
でも、その光は決して派手ではない。
明るすぎることもない。
蛍の光を消してしまわないように、
一本一本が静かに夜道を照らしている。
「この色……。」
まなが優しく見つめる。
「蛍を邪魔してない。」
「うん。」
ひかりも頷く。
「ちゃんと引き立ててる。」
私はイルミネーションと蛍を交互に見つめた。
「主役は蛍なんだね。」
「イルミネーションは応援してる感じ。」
「うん。」
「まるで舞台照明みたい。」
その言葉に、三人とも自然と笑顔になる。
派手に輝くのではなく、
そっと寄り添う光。
だからこそ、蛍の小さな命の輝きが、より美しく見える。
その瞬間。
ふわっ……
一匹の蛍がイルミネーションの近くまで飛んできた。
シャンパンゴールドの灯り。
淡い黄緑色の蛍。
二つの光は競い合うことなく、
お互いを引き立て合うように静かに揺れていた。
「……きれい。」
私は胸の前で両手を重ねる。
「自然の光と、人が作った光。」
「仲良しなんだね。」
ひかりがそう言うと、
まなも微笑んだ。
「どっちも誰かを笑顔にするための光。」
私はその言葉に、小さく頷く。
(そうか。)
(光って、強く輝くだけじゃない。)
(誰かを優しく照らすことも、光なんだ。)
その想いは、心の奥で小さなメロディーになって響き始めていた。
まるで蛍たちが、夜風に合わせて踊るように──。
第3節「光が奏でるダンス」②
しばらくの間、三人は言葉を交わさなかった。
話さなくてもよかった。
目の前に広がる景色だけで、心は十分満たされていたから。
ふわり……
また一匹。
ゆらり……
もう一匹。
蛍たちは思い思いの速さで夜を舞う。
誰かに合わせるわけでもなく、
競い合うわけでもなく、
それぞれの光を、それぞれの時間で輝かせていた。
「自由だね。」
私はぽつりとつぶやく。
「うん。」
ひかりが微笑む。
「誰が一番とかじゃない。」
「みんな違う。」
まなも続ける。
「だからきれいなんだね。」
私は静かに頷いた。
少し風が強く吹いた。
木の葉が揺れる。
すると、蛍たちも風に乗るように一斉に舞い上がった。
「わぁ……!」
思わず声が漏れる。
小さな光が幾重にも重なり、
まるで夜空いっぱいに散りばめられた星たちが、
踊り始めたようだった。
「すごい……。」
ひかりも目を丸くする。
「本当にダンスしてるみたい。」
「うん。」
私は笑顔になる。
「風と一緒に踊ってる。」
さらさら……
川のせせらぎ。
さわさわ……
木々のささやき。
そして、
ふわり……
ふわり……
蛍たちの光。
そのすべてが重なり合い、
一つのステージが出来上がっていた。
私は目を閉じる。
(もし、この景色に音楽をつけるなら……。)
頭の中に、小さなリズムが流れ始める。
軽やかなドラム。
弾むようなベース。
夜風みたいにやさしいシンセサイザー。
そして──
どこかレゲエのように身体が自然と揺れるリズム。
「るな?」
ひかりが笑う。
「さっきから身体揺れてるよ?」
「え?」
私は自分を見て思わず笑ってしまう。
「ほんとだ。」
「もう踊ってる。」
まなもくすっと笑う。
「蛍につられちゃった?」
「かもしれない。」
私は照れ笑いを浮かべた。
「なんかね。」
「この景色見てたら。」
「音楽が聞こえてきそうなの。」
「どんな曲?」
ひかりが興味津々で尋ねる。
私は少し考えてから、胸に手を当てる。
「優しくて。」
「楽しくて。」
「みんなが笑顔になれる曲。」
「夜なのに明るい。」
「でも派手じゃなくて。」
「蛍みたいに。」
「ふわっと心が軽くなる感じ。」
「るならしいね。」
まなが微笑む。
「絶対かわいい曲になりそう。」
私は少し照れながら笑った。
「まだ題名もないけどね。」
その時。
一匹の蛍が、るなの目の前を横切る。
ふわっ……
くるり。
ふわっ……
まるで「一緒に踊ろうよ」と誘ってくれているみたいだった。
私は思わず、その光を目で追いかける。
(ダンス……。)
(踊る……。)
(蛍が踊る……。)
その瞬間。
頭の中で、一つの言葉が小さく光った。
「Firefly Dance……。」
思わず口にしてみる。
「え?」
ひかりが聞き返す。
「今、なんて?」
私は少し照れながら笑った。
「Firefly Dance。」
「蛍が踊ってるみたいだから。」
ひかりとまなは顔を見合わせる。
そして同時に笑顔になった。
「いい名前!」
「すごく、るならしい!」
「ほんと?」
「うん!」
「絶対忘れないうちにメモしなきゃ!」
私は慌ててスマートフォンを取り出す。
タイトル欄に、そっと入力する。
『Firefly Dance ~蛍のイルミネーション~』
画面にその文字が並んだ瞬間、不思議と胸が温かくなった。
「これだ。」
私は小さく微笑む。
「今日の景色を、歌にしよう。」
夜風がそっと吹き抜ける。
蛍たちは、まるで祝福するように優しく光りながら舞い続けていた。
第4節 光は、心を映す① 光が重なる夜
夏祭りの広場は、昼間とはまるで違う世界になっていた。
提灯が並び、屋台から甘い匂いが流れてくる。
焼きとうもろこし。
りんご飴。
かき氷。
遠くでは金魚すくいの歓声。
そして——
川沿いへ続く遊歩道には、今年も優しいシャンパンゴールドのイルミネーションが灯っていた。
派手ではない。
でも、その光はまるで夜風そのものが光になったように静かだった。
「……きれい。」
るなが思わず立ち止まる。
その横で、ひかりも笑う。
「去年より優しい色だね。」
「うん。」
まなが頷く。
「蛍の邪魔をしないようにしたってニュースで見たよ。」
るなは改めて光を見つめた。
確かに白く眩しいLEDではない。
少し黄色がかった柔らかな灯り。
木々の葉を照らしても自然に溶け込んでいる。
「これなら……」
るなが小さく呟く。
「蛍も安心して飛べそう。」
その言葉に三人は顔を見合わせて笑った。
「るならしい。」
ひかりが肩を寄せる。
「え?」
「景色じゃなくて、蛍の気持ち考えてる。」
「えへへ……。」
照れ笑いがこぼれる。
その時だった。
「おーい!」
聞き覚えのある声。
三人が振り向く。
「こんばんは。」
そこには浴衣姿の桐生先輩が立っていた。
「こんばんは!」
「先輩!」
「来てたんですね!」
三人が一斉に駆け寄る。
桐生先輩は笑いながら少し照れたように頭を掻いた。
「大学の課題終わらせてから来た。」
「間に合って良かった。」
「浴衣似合ってます!」
まなが言う。
「ありがとう。」
「みんなも。」
桐生先輩が少しだけ照れながら言った。
「すごく似合ってる。」
「えへへ。」
るなは思わず袖を見つめる。
今年新しく買った水色の浴衣。
帯には小さないちご柄。
髪にはお気に入りのいちごヘアピン。
(よかった……。)
少しだけ嬉しくなる。
「るな。」
「はい?」
「そのヘアピン。」
「え?」
「去年も付けてたよね?」
「覚えてたんですか!?」
るなの目が丸くなる。
「もちろん。」
桐生先輩は笑った。
「あれ、るなのトレードマークみたいだから。」
「……。」
るなの胸がふわっと温かくなる。
(覚えてくれてた。)
(そんな小さなことまで。)
思わず笑顔になってしまう。
ひかりが横からニヤニヤしている。
「よかったねぇ。」
「ひ、ひかり!」
「顔赤い。」
「赤くない!」
「赤いよ。」
まなまで笑い始める。
「もう〜!」
るなが両手で頬を押さえる。
桐生先輩も困ったように笑っていた。
「はいはい。」
「そろそろ蛍の時間じゃない?」
その一言で空気が少し変わる。
四人は自然と川の方へ歩き始めた。
祭りの賑わいが少しずつ遠ざかる。
代わりに聞こえてくるのは、
川のせせらぎ。
虫の声。
風に揺れる木々。
そして――
静かな夜。
シャンパンゴールドのイルミネーションが木々の間を優しく照らしている。
誰も大きな声を出さない。
まるでこの場所だけ時間がゆっくり流れているようだった。
その時。
ふわり。
ひとつ。
緑色の小さな光が浮かぶ。
「あっ……。」
るなが息を止めた。
続いてもう一匹。
また一匹。
やがて無数の小さな光が川辺を舞い始める。
「……すごい。」
まなが思わず呟く。
「今年も飛んでる。」
ひかりの声も小さい。
誰も大きな声を出さない。
蛍たちの世界を壊したくないから。
静かな夜。
優しいイルミネーション。
そして蛍。
人工の光と自然の光。
どちらも競い合うことなく、
まるで昔から約束していたかのように、
一つの景色になっていた。
るなはそっと胸に手を当てる。
(……きれい。)
(こんな夜が……。)
(ずっと続けばいいのにな。)
夜風が四人の間を静かに吹き抜けた。
第4節 光は、心を映す② Firefly Dance
川辺には、静かな時間が流れていた。
誰も言葉を発さない。
耳に届くのは、
さらさらと流れる水の音。
木々を揺らす風。
そして――
無数の蛍が描く、小さな光の軌跡。
「……。」
るなは息をすることさえ忘れそうになる。
一匹、また一匹。
ふわり。
ゆらり。
規則正しいようで、どこか自由。
まるで夜そのものが踊っているようだった。
「……踊ってるみたい。」
思わず漏れた言葉に、
桐生先輩が静かに微笑む。
「うん。」
「ダンスしてるみたいだね。」
その一言だけで十分だった。
るなはもう一度空を見上げる。
蛍。
イルミネーション。
月明かり。
三つの光が重なり合い、
夜を優しく包んでいる。
「自然の光と……。」
るなが小さく呟く。
「人が作った光なのに……。」
「ケンカしてない。」
ひかりが頷く。
「むしろ、お互いを引き立ててる。」
まなが続ける。
「片方だけじゃ、この景色にはならないんだね。」
桐生先輩が静かに言う。
「たぶん、人も同じなんだと思う。」
「え?」
「誰か一人だけじゃ完成しない。」
「支え合って。」
「認め合って。」
「初めて、一つの景色になる。」
その言葉が、
るなの胸へ静かに届いた。
(……そうか。)
(恋も。)
(友情も。)
(きっと同じなんだ。)
風が吹く。
その瞬間だった。
ふわり。
一匹の蛍が、
るなのすぐ目の前まで飛んできた。
「わぁ……。」
小さな光。
逃げることもなく、
ゆっくりと宙を漂っている。
るなは思わず手を差し伸べた。
もちろん捕まえたりはしない。
ただ、
その光を近くで見たかっただけ。
蛍は、
るなの指先を一周するように飛ぶと、
また静かに夜空へ戻っていった。
「ふふっ。」
自然と笑顔になる。
「るな。」
桐生先輩が優しく声をかけた。
「はい?」
「今、すごくいい顔してた。」
「えっ?」
「ほんと?」
ひかりも笑う。
「さっきまで緊張してたのにね。」
「そんなに?」
「うん。」
まなが頷く。
「今は自然に笑ってる。」
るなは照れくさそうに笑う。
「……たぶん。」
「この景色のおかげ。」
桐生先輩は川を見つめながら言った。
「景色って、不思議だよね。」
「見るだけじゃなくて。」
「人の心まで映す。」
その言葉に、
るなは静かに頷いた。
(今日の私は。)
(ちゃんと笑えてる。)
(ちゃんと幸せって思えてる。)
それだけで十分だった。
遠くから祭り囃子が聞こえる。
屋台の灯り。
笑い声。
提灯。
賑やかな夏祭り。
その一方で、
この川辺には、
蛍だけが知っている静かな時間が流れている。
まるで二つの世界が、
一本の川でつながっているようだった。
「ねえ。」
ひかりが笑う。
「写真撮ろっか。」
「賛成!」
まながスマートフォンを取り出す。
「蛍写るかな?」
「難しいかも。」
「でも撮ろう!」
四人は並んで笑う。
「はい。」
「いくよー。」
「せーの!」
「夏ー!」
カシャ。
撮れた写真には、
人物は少し暗く映っていた。
でも。
背景には、
シャンパンゴールドのイルミネーション。
その奥には、
ぼんやりと光る蛍が数匹。
「すごい……。」
るなが写真を見つめる。
「ちゃんと写ってる。」
「今年の宝物だね。」
ひかりが言う。
「うん。」
るなは大切そうにスマートフォンを胸へ抱く。
(この夜を。)
(きっと忘れない。)
(また来年も。)
(みんなで、この景色を見られますように。)
その願いを乗せるように、
一匹の蛍が夜空高く舞い上がる。
その光を追うように、
優しいイルミネーションも静かに揺れた。
自然の光。
人が灯した光。
そして、
胸の中で少しずつ育ち始めた、
まだ名前のつかない小さな想い。
それらすべてが溶け合ったこの夜は、
るなの心の中で、
いつまでも色あせることのない
「Firefly Dance」
として、
静かに輝き続けるのだった。
Firefly Dance 〜蛍のイルミネーション〜歌詞紹介
[Intro]
夜の川沿い
雨あがりの空
蛍がひとつ
ふわり飛び出す
[Verse 1]
水面に映る
街の灯りピカピカ
跳ねるリズムに
心も跳ねるよ
[Pre-Chorus]
夜風に揺れて
君の笑顔が光る
蛍の光を
イルミネーションに変えて
[Chorus]
Firefly Dance
ピカピカ飛び回れ
雨あがりの夜に
恋も一緒に跳ねるよ
光る君と
夢の中まで駆け抜けて
Firefly Dance
幻想のリズムで
[Verse 2]
川面に落ちる
月明かりの軌跡
小さな手のひら
蛍をすくいあげた
[Pre-Chorus]
君と並んで
歩くこの川辺
光る瞬間を
忘れられないよ
[Chorus]
Firefly Dance
ピカピカ飛び回れ
雨あがりの夜に
恋も一緒に跳ねるよ
光る君と
夢の中まで駆け抜けて
Firefly Dance
幻想のリズムで
[Bridge]
ほら、ふたりだけの
夜空のステージ
蛍が導く
光の道しるべ
[Final Chorus]
Firefly Dance
ピカピカ飛び回れ
雨あがりの夜に
恋も一緒に跳ねるよ
光る君と
夢の中まで駆け抜けて
Firefly Dance
幻想のリズムで
[Outro]
夜の川
蛍の光だけが
まだ揺れてる
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