◆宮城の山あいに伝わる、新しい民話
「山影さまの灯(ひ)」
むかし、宮城の山あいに小さな村があった。
冬は冷え込み、霜が田畑を白く染めるが、
雪が深く積もることはめったにない。
村人たちは季節の移ろいに寄り添いながら暮らしていた。
その村に、ひとりだけ欲深い若者がいた。
名を弥助(やすけ)といった。
弥助は「もっと楽に暮らしたい」「もっと金がほしい」と、
いつも不満ばかり口にしていた。
ある冬の夕暮れ、山道を歩いていた弥助の前に、
白い影がすっと立ち現れた。
影は人の形をしているが、輪郭がゆらゆらと揺れている。
「おまえ、困っておるのか」
低く響く声がした。
弥助は驚きながらも、影に向かって叫んだ。
「金がほしいんだ! 働いても働いても足りない。
あんた、山の妖(あやかし)だろう。何とかしてくれよ」
影はしばらく黙っていたが、
やがて懐から小さな灯(ひ)を取り出した。
青白く揺れる、不思議な光だった。
「これは山影(やまかげ)さまの灯。
欲をひとつだけ叶える力を持つ。
だが、灯は使う者の心を映す。
よく考えて使え」
弥助は礼も言わず、灯を奪うように受け取った。
そして叫んだ。
「金だ! 金をくれ!」
すると灯は激しく揺れ、
弥助の足元から金貨がざらざらと湧き出した。
弥助は歓喜し、金を抱えて家へ帰った。
だが翌朝、村に異変が起きた。
弥助の家の周りだけ、霜が黒く焦げたように変色し、
金貨はすべて灰になっていた。
弥助の姿も見えなかった。
村人たちが山へ探しに行くと、
薄曇りの空の下、青白い灯だけが揺れていた。
灯のそばには、弥助の足跡がひとつ。
しかし、その先は土の上からふっと消えていた。
その日から、村ではこう語り継がれるようになった。
「欲を急げば、山影さまに連れていかれる。
欲を抑えれば、山影さまは道を照らしてくれる」
冬の夕暮れ、山道で青白い灯が揺れると、
村人たちは静かに手を合わせるという。
それは、欲に呑まれた弥助への祈りであり、
いまを大切に生きるための戒めでもあった。