民話シリーズ4 東北地方の民話 岩手編

民話シリーズ4 東北地方の民話 岩手編

記事
小説
「赤い紐の座敷童子」

むかし、岩手の遠野に、古い曲がり家があった。
馬屋と母屋がL字につながり、
冬になると薄く積もる雪が、
静かに屋根を白く染めるだけだった。

その家に、旅の行商人の弥吉(やきち)が泊まった。
遠野の道は雪こそ積もるが、閉ざされるほどではない。
それでも夜の寒さは骨にしみ、
囲炉裏の火だけが頼りだった。

家の主は、どこか遠慮がちに言った。
「夜中に子どもの足音がしても、気にしないでくだされ。
 悪さはしませんで」

弥吉は笑って答えた。
「子どもが遊ぶくらい、どうということもない」

しかし、夜が更けると、
廊下を走る小さな足音が、
コツ、コツ、と響き始めた。

弥吉がふと目を開けると、
部屋の隅に、赤い紐を結んだ小さな影が立っていた。
幼い子どもの姿だが、顔は霞のようにぼやけている。

影は弥吉をじっと見つめ、
かすかな声で言った。

「……ここは、もうすぐ“変わる”……」

弥吉は身を起こした。
「どういうことだ。危ないのか」

子どもは首を横に振った。
「危なくはない。
 けれど……この家の“縁”が変わる」

そう言うと、影はふっと消えた。

翌朝、弥吉が主に話すと、
主は深くうなずいた。

「その子は座敷童子です。
 家が栄えるときは笑い、
 家が衰えるときは泣くと申します。
 昨夜は……別れを告げに来たのでしょう」

主は続けた。
「最近、家の者も減り、
 わしらも年を取りました。
 座敷童子も、そろそろ別の家へ行くのでしょう」

その日の夕方、弥吉が旅立つと、
家の前の道に赤い紐がひらりと落ちていた。
拾い上げると、どこか温かい気配がした。

ふと遠くを見ると、
曲がり家の窓に、小さな影が立っていた。
赤い紐を結んだ座敷童子が、
静かに手を振っていた。

その冬の終わり、
家は古さゆえに手放され、
主は町へ移り住んだという。

だが、弥吉の旅先では、
不思議と商いがうまくいき、
人との縁にも恵まれた。

弥吉は赤い紐を大切に持ち歩き、
時折そっとつぶやいた。

「……あの子が、導いてくれたんだな……」

遠野では今も語られている。

「座敷童子は、幸を呼ぶだけでなく、
 別れの時も静かに知らせてくれる」

──おわり

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